第三十八話 主人への愛

Szene-01 東西街道上、トゥサイ村境界付近


 ルイーサとヒルデガルドはひたすら走り続けていた。

 そこへ森の中からアムレットが飛び出して来る。


「アムレット! 何かわかったの!?」


 アムレットは跳ね上がってヒルデガルドの肩に乗った。

 ヒルデガルドは優しく触れて頬を当てる。


「ルイーサ様、二人はトゥサイ村の南東にある賊のアジトに運ばれたとか」


 アムレットがさらに情報を伝えているようで、一旦言葉を止める。


「そこでひと騒ぎあったようです」

「何よひと騒ぎって。心配しかないじゃない!」


 ヒルデガルドはアムレットを再び走らせた。


「とにかくアジトへ行ってみましょう」


Szene-02 トゥサイ村北西部、賊のアジト


 爆発が起きず無事なままのエールタインはティベルダを助けにアジトへと戻っていた。

 そこには目をオレンジ色にした裸の少女が一人倒れている。


「ティベルダ!?」


 慌てて近寄るエールタイン。

 主人の声を聞いたティベルダは横になったまま微笑んだ。


「エール様……ご無事でしたか」

「この通り、大丈夫だよ! それよりティベルダはどうなの」


 裸になっているのだから大丈夫とは考えにくい。

 状況を把握できないエールタインは聞き出すしかないようだ。


「えっと、あの人たちを消しました」

「消したって……どうやって」

「爆発させたみたいです」


 他人事の様にティベルダが話す。

 エールタインは徐々に状況を把握し始めた。


「爆発は感じ取ったんだ。でも何も壊れていないしボクも無事だ」

「あの人たちだけを爆発させたみたいです」


 周囲を見渡すエールタインだが、賊が一人もいない。


「そんなことができたの?」

「できたみたいですね」

「何も跡がないんだけど」

「跡形も無くなるように願ったら、叶ったようです」


 エールタインはその場に両手をつく。


「服は燃えてしまったんだね」

「あは、そうなんです。恥ずかしいな」


 少し膝を曲げる仕草をするティベルダ。


「今まで全身の火傷を治していました。エール様が来るまでに醜い姿を治せて良かった」


 彼女は続ける。


「でも、髪の毛は治せなくって。これが精いっぱいなのですが、嫌われてしまうのかな」


 エールタインは涙で床を濡らしていた。

 胴体に巻き付けていたストールを取り、ティベルダに掛けてあげる。


「これだけの愛をもらって嫌いになるわけないだろ!」


 エールタインは続ける。


「とっくにティベルダのことを好きだし、いやもう今では愛していると言えると思う」


 涙を拭ってさらに続けた。


「愛なんてさっぱりわからないけどさ、自然に口から出たってことはこの気持ちがそうなんだろうね」


 エールタインは顔を近づけて唇を触れさせた。


Szene-03 トゥサイ村南東部、賊のアジト


「何よ……これ」


 エールタイン達が最初に運ばれたアジトに到着したルイーサたち。

 一面に広がる乾きかけの血の海と死体を見て唖然とした。


「……ひどいですね」

「ここにいないということは――」


 ルイーサが言い切る前にアムレットが到着した。


「アムレット……うん、ありがとう。北西にある別のアジトだそうです」


 アムレットに木の実をあげるヒルデガルド。


「ルイーサ様、教えてくれると言っています。すぐに向かいましょう」

「わかったわ!」


Szene-04 トゥサイ村北西部、賊のアジト 


 まだエールタインとティベルダはアジトに残っていた。

 ティベルダの回復に時間が掛かっているようだ。

 爆発を直に受けているのだから能力が無ければ生存はあり得ない。

 自力で回復をしているが、途中で力が切れてしまう。

 切れるとエールタインが口づけをして回復させる。

 これの繰り返しをしていた。


「私、ずっとこの方が幸せな気がしてきました」

「冗談はやめてよ。いつまでも傷ついたティベルダは見ていられないから」

「はい……エール様が幸せにならないといけませんから。頑張って治します」


 そこへ二人分の足音が届く。

 ルイーサ達が到着した。


「やっと見つけた! あなたたち、大丈夫……ではないわね」


 エールタインが涙を拭いながらティベルダのそばにいる。

 ルイーサたちからはストールからのぞく白い脚しか見えない。

 目を潤ませたままエールタインが振り向いた。


「ルイーサさんにヒルデガルドちゃん。来てくれたの?」


 エールタインが振り向いたことで、横たわる人の顔が見える。


「ティベルダさん、なの!?」

「そうです。ボクのためにこんなになってしまって……」


 ティベルダの頭を撫でてあげるエールタイン。


「詳しい事は後で話します。今はこの子が回復するのを待ってもらえますか」

「回復? あなたが泣くほどのことが起きたのだから簡単に回復する状態ではないのでは?」

「この子はヒールが使えます。今は自分で治療中なんだ」


 ヒルデガルドが話に混ざった。


「どんな能力を持っているのか聞こうと思っていました。ヒールだったのですね」

「うん。でもね、今回のことで他の能力も覚醒したんだ」

「ん、んん」


 力が尽きてきたティベルダは主人を求めた。


「ごめん、また後で」


 エールタインはその言葉を残してティベルダへと向き直る。

 撫でていた手が位置を変えるとストールからティベルダの頭が露になった。


「それ……い、行きましょう、ヒルデガルド」


 ルイーサはヒルデガルドの背中へ手を当てこの場を離れるように促す。

 ゆっくりと、そして項垂れたまま二人は離れた。

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