ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

第三十話 収束

Szene-01　レアルプドルフ西側山中、ギャップ

　倒れる寸前のベーアにとどめを刺すべく攻める手を休めない剣士たち。

　疲労が動きを鈍らせている。

　そこへ現れた二組の見習い剣士たちが勢いの底上げをしていた。

「ああもう！　腕力が足りないのか剣さばきが下手過ぎるのか。固くて刺し難い！」

　エールタインは急所と思う部位を片っ端から刺してまわっている。

　だが、思うように刺せずにイライラしていた。

「エール様！　修練だと思って色々試してください！　後で私が癒して差し上げますから！」

　ベーアの血を浴びながら走り回るエールタインは一瞬足を止めた。

「……それ、ご褒美だ！　よし、色々試してみるよ」

　そのやりとりに聞き耳を立てているルイーサ。

　エールタインが魔獣の首に付けた傷口へと薪割りのように大剣を振り下ろしていた。

「あの二人、主従関係なのよね。仲が良過ぎない？　イライラしてきたわ」

　大剣の振り上げをより高くして、振り下ろす力が増された。

「何よ、奴隷と！　そんなに！　仲良く！　するなんて！　変わった！　デュオね！」

　振り下ろす度に一言ずつ発するルイーサにヒルデガルドも一言申した。

「私とは仲が良くないのですね……残念です」

　大剣を振り上げた所でピタリと止まるルイーサは従者へと振り向いた。

「は！？　あなたとは仲が良いどころではないでしょ！　まったく……終わったらいつものようにさせなさい！」

　しょんぼりしていたヒルデガルドは一転、満面の笑みへと変えて叫んだ。

「いくらでもお好きなだけしてください！　ルイーサ様、大好きです！」

　ベーアの頸椎に届いた大剣が大きな金属音を上げる。

　そこでルイーサは再び動きを止めた。

「そうよ、あなたはそれでいいの。いつまでもその気持ちを伝えないと許さないんだから」

　ルイーサは大剣を振り下ろしたままダンに尋ねる。

「ダン隊長！　首は落とした方が良いのですか？」

　二人の見習い剣士が付けた傷口を眺めていたダンはその言葉に反応する。

「あ、ああ。首を持ち帰った方が町民も少しは安心してくれるだろう」

「ではそのように」

Szene-02　レアルプドルフ西側、東西街道上

　剣聖のダン率いる小隊は、犠牲者無しという理想的な形で魔獣を討伐した。

　ただ、この討伐を完了させることができたのは命令違反者の加勢によるものであるということ。

　この点について町長がどのような反応をするのか。

　事と次第によってはエールタインとルイーサの二人、そしてそれぞれの従者は罰を科せられることになる。

　それはさておき。

　行商人を襲ったと思われる大型魔獣を倒したという実績を上げた小隊の剣士たちは、ベーアの首を数組のデュオで森から東西街道へとひきずり出した。

　伝令が討伐完了を知らせに行き、その帰りに荷車を引いてやってくる。

　魔獣を手懐けることが困難であるため、荷車は人力である。

「ダン様。荷車を持ってきました」

「おお、ありがたい。このまま引きずると町へ着く頃には無くなってしまいそうだからな」

「こいつの肉は固いですから大丈夫でしょうけど、恰好がつきませんから」

　皆が軽く笑った。

　森を出るまではベーアの首と共に緊張感も引きずっていたが、張り詰めた空気から解放されたことを実感したようだ。

　街道上で待機していた他の見習い剣士たちも合流する。

「魔獣を討伐したのですね！」

「ああ。おまけに全員無事だ。君たちもご苦労だった。町へ戻るぞ」

　血まみれのエールタインとブーツに血の付いたルイーサが、見習い剣士の従者が持つランタンにより暗闇の中で浮かび上がる。

　その姿に見習い剣士は首を傾げるが、討伐成功の雰囲気にのまれて隊と共に町へ戻ってゆく。

　歩きながらヒルデガルドがルイーサに伝えた。

「今回も試せなかったですね」

「試す場面が無かったのだから仕方ないわ。気にしてくれてありがと。私は忘れていたから」

「うふふ、そうでしたか。初の実戦で華麗な立ち回りをなさるルイーサ様が見られたかもしれないと思ったので」

「さすがに初戦は変な力が入ったみたいなの。修練の足りなさを実感したわ」

　そう言うとルイーサはヒルデガルドの腕を掴んだ。

　掴まれたヒルデガルドは小刻みに震えている主人の腕に驚く。

「……夜はいつも通り添い寝をさせてください」

「添い寝？　私があなたを抱いてあげているのよ。勘違いしないでちょうだい」

「申し訳ありません」

　ルイーサは町役場前に着くまでヒルデガルドの腕を掴んだままであった。