第八話 町の昼事情
Szene-01 街道交差点、三番地区前
町が昼休みに入って歩きを止めたエールタイン達。
ちょうど街道交差点に到着したところで鐘が鳴った。
「こんなにはっきりと鐘の音を聞いたのは初めてです」
「そっかあ。ティベルダはブーズから出たことないんだね」
「はい」
「これからは気にならなくなるくらい聞くことになるよ」
「まだ想像つきません」
交差点周辺は繁華街の中心。
街道沿いには座ることが出来るように、どの建物にも段差が作られている。
それは同じ高さなので横一文字のデザインにもなっている。
「今日はティベルダの防具と、良いのがあれば武器も買おうと思うんだ」
「緊張します。ほんとにエールタイン様の助手をするんですね」
「まだお互いにどんな動きをするかもわからないけどさ、何も無いんじゃ試すことも出来ないからね」
「エールタイン様の戦う姿を早く見てみたいです」
「なんだか恥ずかしいなあ。まだ見習いだし」
「私も見習いです。実戦はしたこと無いのでいっぱい教えてください」
座っている間でも手を離さないティベルダ。
エールタインの手をひざの上に乗せて両手でにぎる。
「ほんとにさ、ティベルダがボクを気に入ってくれて良かったよ。最高のデュオになろうね!」
「はいっ!」
元気よく返事をしてひざから胸の前へ手を運び、大事そうに抱きしめる。
「はあ、身体に温かいものが入ってくるようですごく気分が良いなあ。ティベルダとは相性がいいのかな」
「それなら私は幸せです。エールタイン様が助かるように頑張りますね」
「うん。でも、無理したら駄目だからね。どんなことでもすぐボクに伝える事。これは絶対に約束ね!」
街道交差点の一角では温かい絆が芽生えていた。
Szene-02 泉広場
休憩終了の鐘が鳴り渡る。
「さあ、行きましょ」
「はい、ルイーサ様」
改めて軽快な足音を出しながらとある人を探すルイーサ。
ヒルデガルドも再び絶妙な距離を保ちながらついてゆく。
「あまり町に来ないのかしらね」
「ルイーサ様が一目ぼれされた時の一瞬しか情報が無いですから難しいですね」
「あん、一目ぼれとか……顔が熱くなること言わないで」
「ルイーサ様、可愛いです」
「もぉ」
目的地を決めず一日中人探し。
ほんのり顔を赤くしたルイーサは地面を見ながらひたすら歩く。
ヒルデガルドは後ろからその姿を嬉しそうに見ながら満足気だ。
そんな二人が街道交差点にさしかかった頃、斜向かいをエールタイン達が歩いていた。
Szene-03 街道交差点、南北街道沿い
「ここは生地のお店。後で寄ろうね」
「生地ですか?」
「そうだよ。ティベルダの服を色々と用意しないと。ヨハナ達が作ってくれるからね」
「嬉しいです! 本当に想像していた生活とは違っていておどろくばかりです」
「まだ普段の生活に必要な物を揃えるだけだから。買い物には何度も来るよ」
ティベルダがおどろくのも無理はない。
他の剣士ならば戦闘重視な物ばかり与えられる。
家族としてむかえられる風潮になりつつあるが、まだ浸透しきっていない。
ダンやエールタイン、ルイーサのような奴隷との付き合い方をする家に入れた者は、幸運だと言える。
ティベルダは、あえて厳しい環境であるとすり込まれたのであろう。
「なんだかボクも楽しくなってきたよ。ティベルダとこうして歩いているとさ、すごくいやされるんだ。不思議だね」
「そうですか? お役に立てているのならうれしいです」
交差点の手前で南北街道を渡る。
時々運び屋が上手に人込みをさけながら荷物を持って走り過ぎてゆく。
「ここを上がっていくよー」
道を渡り切ると細い路地へ入る。
店と民家が乱立している間を上り階段がくねくねと曲がっていた。
道幅は片側一人でようやくすれちがえるほど。
多くの荷物を持った人が現れるとすれちがいにくいため、建物のすきまに入って道をゆずる。
「階段上るのになれていないと危ないから手はしっかりつないでいてね」
「絶対に離しません!」
「と言いつつ、寄る所はここなんだ」
「へ?」
ティベルダがさらににぎりを強めたのは、目的の武具屋前だった。
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