僕は、あと何人犠牲にすれば君を諦めることができるだろうか。
高畠莞爾
第1話
「浮気なんてする智明が悪いのよ。そう、私は悪くない。」
「落ち着け、莉愛。あれは気の迷いなんだ。本当だ。俺が好きなのは莉愛だけだよ。」
「同じことをあの女にも言ってることくらい知ってるんだから。次に生まれ変わる時は浮気しないでね。」
「待て、落ち着っ。」
そこで、目が覚めた。今日は浮気性の男か。
亀崎舜の朝は、人の死とともに訪れる。夢を見始めたのは、いつからだっただろうか。毎日毎日、人に殺される夢を見る。小学生の頃は面白がっていた気もするが、中学生になると何も思わなくなった。ただ、高校に入り、ニュースをなんとなく見るようになって、僕が見ている夢の恐ろしさを知った。
そう、僕はその日死ぬ人間の夢を見ていた。もう偶然では済ますことができないほど、状況が一致している。この夢について分かっていることは、恐らく自分が寝ている場所から最も近い位置でその日死ぬ人間が分かるということだけだ。しかし、その日死ぬ人間が分かったところで僕にできることなど無い。こんな話をしても信じてもらえるとも思えないし、死ぬ人間がどこのだれかも分からないからだ。
今日は始業式だ。二年に上がったからと言って、クラスが変わるくらいで、特に変わることなんかない。いつも通り、駅に向かい、電車に乗り、正門までの坂を上る。そして坂でいつもの男が後ろからやってくる。
「久しぶりだな、舜。春休み中にもっと俺に構っても良かったんだぞ?」
「おはよう、俊哉。部活に一生懸命な俊哉を邪魔しちゃ悪いと思ってさ。」
僕に話しかけてきたのは、白沢俊哉。この学校で唯一と言っていい僕の友人だ。だが、僕と違って友人も多いし、甘いマスクからか、女子にもモテる。
「クラス分けって緊張しないか?舜と離れたくないぜ。」
「そういうセリフは男の僕じゃなくて、そこら辺の女子に言ってほしいもんだ。第一、僕は男が好きなわけではないし。」
「冗談だよ。ほら、あそこにクラス貼ってあるぜ。」
クラスを見ると、俊哉と同じ二年二組だった。表情には出さないが、一年間クラスの誰とも話さない生活を送らなくて済みそうなことは嬉しかった。
「俺の思いが教師にも届いちまったかー。それに、富貴さんもいるなんて、運がいいぜ、俺ら。」
「富貴さんって誰?有名な人?」
「富貴明日香さんだぞ?舜、知らないのか。すごい美人さんなんだぞ、ただ、独特の雰囲気があって、良く言えばミステリアスなんだが。」
「悪く言えば、変人ってことでしょ?」
雪のように白い肌、すらっと伸びた長い髪、そして吸い込まれそうな黒い瞳だった。美人という印象より先に僕はどこかで会ったことがある気がした。
「え、富貴さん、そんな変人だなんて、これっぽっちも思ってないよ。」
「そう?私は別に変人と思われても構わないけど。」
「いやいや、ほんとにそんなこと思ってないって、俺たち富貴さんと同じクラスになれてラッキーだなって話を今してたところなんだよ。」
「ああ、同じクラスなんだ。これからよろしくね。君が白沢くんってことは知っているけど、隣の君も同じクラスなの?」
「はい、俊哉の友人の亀崎舜って言います。始めまして。」
それが、富貴明日香との出会いだった。富貴は誰が見ても美人と評価する見た目だ。その美貌に惚れてか、週に一回はクラスに男が来て告白していった。だが、富貴はすべて断っていた。ある男が断る理由を教えてくれと頼んだ時、彼女は悲しそうな眼をして答えた。
「だって、まだ死にたくないでしょ。」と
それだけ言って、去っていったのがあまりにも印象的だった。
朝、今日もいつもの坂を上り、俊哉に話しかけられる。
「それにしても聞いたか舜、富貴さんの噂。」
「俊哉以外の友人がいないんだから、聞いたことあるわけないだろ。」
「それもそうか、それでな、富貴さんのことなんだが、何でも中学の頃に死神って呼ばれてたらしいんだ。」
「死神?」
物騒な名前だと思った。
「そうだ、どうやら、中学で付き合っていた男子がいるらしいんだけど、その男が交通事故で死んだらしいんだよ。」
「へぇ、でもそれだけで死神なんて呼ばれたりするのか?」
「それ以外にも、富貴さんをナンパしようとした男が、彼女に刺されそうになったりとか、襲いかかった中年の男が心筋梗塞でいきなり倒れたりとか、何かと死にまつわる事件に絡んでるらしいんだとよ。」
「そうよ。それで付いたあだ名が死神。だから、白沢君たちも私には関わらないほうがいいわ。」
話を聞いていたと思われる富貴さんに声をかけられた。俊哉は何度も謝っていた。彼女からしても聞いていて気分のいい話ではないだろう。
「別に、私の話をしていて怒るということはないわ。私のこと、調べたりしたら、そうやって書いてあるはずだもの。。」
「だからと言って、女の子にそんなあだ名がついていいということではないと思う。」
「えっと、亀崎くんだっけ、私のことを思って言ってくれるのはありがたいんだけど、私のことは好きにならないでね。」
まただ、また彼女は悲しそうな眼で遠くを見つめる。そうだ、あの眼だ。あの眼を僕は知っている。
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