ルシエンの見る夢
流木を拾い集めて焚火にしながら夕食。今夜はレトルトのカレー。食べ終わってから、
「やはり及川氏と」
「まあな、あの時もここでテント張ったんだ」
及川氏と付き合って三ヶ月ぐらいの事だそうで、旅行に誘われたんだって。どこに行くのかと思ってたらツバルで、さらにナヌメア環礁に渡ったそうなのよ。今日みたいに荷物を背負い込んでテクテク歩き、海を渡ってここまで来たそうなの。同じようにテントを張って、あははは、一日目はレトルトのカレーだったって。
「その夜に結ばれたよ」
それが及川氏とは初めてだったみたい。ロマンチックと言えない事もないけど、かなりディープな趣味だな。さてだけど、ここは景色こそ壮大だけど、なんにも無いところじゃない。こんなところで愛し合う男と女が二人っきりでやる事といえば、生々しすぎるけど、
「ひたすらやってた」
それも最初はテントの中だったらしいけど、誰も見てるわけじゃないから、外でやるようになり、声だってあげ放題みたいな感じって、どんだけ。
「服もいらないって、なってさ」
「えっ、二人とも素っ裸」
「そうだよ、やったら砂まみれになるから、海で洗ってさ」
すげえな。
「三日目ぐらいになるとさ、変な気恥しもなくなっちゃってさ。裸でいるのが当然みたいになって、頭の中には食欲と性欲しかないって感じだったよ。あれだけやりまくったのはカズ君の時以来かな」
まだ初体験を済ませていないアカネには少々キツイ話だけど、
「これがルシエンの夢ですか」
「そうでもあるが、そうでもない」
はぁ?
「小次郎が悔しがってね」
「なにをですか?」
「カメラが無かったことをね」
これも持っては来てたそうだけど、島に渡る時に濡らしてパーにしてしまったって。
「だからもう一度来ようって」
「うんうん」
「その時にね、小次郎が作ったカメラを持ってくるって約束させたんだ」
そうだったんだ。
「カメラの名前をなんにしようか話してたんだけど」
「それがルシエン」
「当時指輪物語に、はまってたから」
これで全部つながった気がする。そして翌日。
「さてと撮影開始だよ」
そういうや否やツバサ先生は服を全部脱ぎ捨て、
「アカネもボヤボヤしないで」
カメラを構えようとしたら、
「ちゃんと支度をして」
支度たって、写真を撮るだけじゃない。
「ここでルシエンの夢を撮るんだよ、アカネも脱ぐんだ」
「え~」
「ここはそういう場所、そうならないと本当のルシエンは撮れない」
待ってよって思ったけど、エエイ仕方がない。でも誰も見てないと思っても勇気いるな。ブラ外す時もドキドキしたけど、パンティ脱ぐ時には震えてた。
「それでイイ、すぐ慣れる。いや、それが自然になる。行くよ」
「はい」
ひたすら撮りまくった。ファインダーの中のツバサ先生はひたすら美しい。撮ってるうちにアカネも自分が素っ裸であるのが気にならなくなってった。それにしても、大胆なポーズだな。あれ見て奮い立たない男なんていないんじゃない。女のアカネでさえゾクゾクするもの。
きっとあのポーズを及川氏の時にもしてたんだ。そうやって挑発して燃えてたんだ。何度も何度も数え切れないぐらい。そのポーズを写真にするのがルシエン計画だったんだ。翌日は夜明け前から撮影が始まり、朝日をバックに神々しいぐらいのツバサ先生が撮れた。
「さてわたしも撮るかな」
「撮るってなにを」
「アカネしかいないじゃないか」
ウソって思ったけど、気が付いたらカメラを渡してポーズ取ってた。なんかそうする場所って感じがしたんだ。明日はキャンプを引き払う最後の夜の事だけど。
「ツバサ先生、サトル先生のことをどう思ってるのですか」
「あん、社長だ」
「それだけですか」
「元弟子、現師匠だ」
「だから、男としてどう見てますか」
「三十八歳だろ」
そうじゃなくて、
「恋愛対象としてどうなんですか」
ツバサ先生は、
「欲しけりゃ取りに来いだ」
「はぁ」
「それが男だろ。待ってたって何にも起んないよ」
「じゃあ」
翌日には港に戻り、さらにフェリーでフナフティに。驚いたことにエレギオンのビジネス・ジェットはずっと待っててくれたようで、そのまま日本に。なんか物凄い経験をした旅行だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます