商売繁盛伝説
サキ先輩がいなくなってから、アカネはサキ先輩がやっていたオフィスの収入になる本気の仕事もかなり任されるようになってる。評判も悪くないみたいで、なんか仕事がドンドン増えてる気がする。ツバサ先生からの指摘やアドバイスはもちろんあるけど、
「アカネの写真はユニークだし、なんとも言えない楽しさが出てるからおもしろいよ」
オフィスへの仕事依頼は大雑把に言うと、オフォスに依頼されるものと、カメラマン個人に依頼されるものがあるんだ。ツバサ先生やサトル先生がやってるのは殆ど指名依頼だし、商店街からのものはオフォス依頼かな。
前に柴田屋さんからアカネに個人依頼されたのは例外。個人的に良く知ってたのと、柴田屋さんの御主人好意、いや茶目っ気というか遊び心ぐらいってところだよ。ところがなんだけど、
「ほい、これが今度の仕事、アカネへの指名依頼だ」
ちょっとどころじゃなくビックリした。どこでアカネの名前を知ったのか、いやヒョットしたら、依頼したのはストーカーじゃないかって怪しんだぐらい。スタジオに入って、たかが三年目のアカネに指名依頼なんてあり得ないじゃない。
でも、まあ嬉しいのは確かだから張り切ってやった。そしたら、訳わかんないんだけど指名依頼が増えてく感じなのよね。でも気色悪いじゃない、カツオ先輩だって指名依頼なんてないんだもの。ツバサ先生にも聞いたんだけど、
「それだけ評判がイイってこと。プロとして素直に喜んどいたら」
まあ、そうなんだけど。お蔭でマドカさんから、
『アカネ先生』
こう呼ばれそうになって、必死になって止めた。オフォス加納の先生はサトル先生とツバサ先生の二人で、アカネなんて話にならないのぐらいは、よ~くわかってるから。
そんなアカネへの指名依頼だけど、どう見ても偏りがある。いわゆるアート系は皆無で、ひたすら商品広告。アカネのレベルなら、それ自体は変じゃないんだけど、そういう依頼って普通はオフォス依頼なんだよ。今日も、
「ほい、アカネへの指名依頼だ」
ドサッて感じで渡されて魂消た。内容を見たらやっぱり商品広告ばっかり。それにしても色んなところから、よくまあって感じ。
「急ぐのばかりだから頑張ってね」
「あの、その、不満って訳じゃないですが、ちょっと指名依頼が多すぎる気が」
「あん、仕事が多いって幸せよ。働かざるもの食うべからずって言うじゃない」
どうにもおかしすぎるから、カツオ先輩をつかまえて聞いてみたんだ。
「あれっ、知らなかったの」
「何がですか」
「たまにはオフィスのHPでも見てみたら。ついでにググればよくわかる」
見たら仰天。
『商品広告は渋茶のアカネがお勧め』
なんだ、なんだ、その下にはいわゆる成功事例ってやつか。アカネが撮ったとこばっかりだけど、
・売り上げがなんと三倍に
・注文に追い付かなくて嬉しい悲鳴
・支店を出すほどの繁盛
・潰れかけの店が奇跡の復活
どっかの怪しい健康食品の広告みたいじゃない。ググったら、ずらっと、
『渋茶のアカネの商売繁盛・・・』
さすがに頭に来て、
「ツバサ先生、これはどういう事ですか」
「オフォスも商売だよ」
「それはそうかもしれませんが、渋茶のアカネはひどいじゃありませんか」
「あれ。あれはわたしが広めたんじゃないよ」
広めたのはなんと初仕事をやった柴田屋の御主人。なんとあのアカネ極渋茶がドンドコ売れてるみたいなの。どう言えばいいのか、
『極渋茶ブーム』
こんな感じになってるって。極渋茶ケーキとか、極渋茶饅頭、極渋茶アイス・・・そういえば極渋茶アイスは食べたことがある。あの脳天突き抜けるような渋みが甘さに妙にマッチして美味しかった。
柴田屋は有名茶道教室の御用達だし、御主人も茶道に堪能で、お茶会にも良く顔を出すみたい。そこで極渋茶がブームになったことが話題になり、アカネの写真の効果が抜群だったと話したみたい。
それを聞いた他の業者の人がアカネに指名依頼したら、その商品も売れて、さらに次も、次も、次も・・・その結果があの依頼書の束って結果で良さそう。ツバサ先生は笑いながら、
「見るたびに感心するんだけど、アカネが撮った写真を見るとわたしでも買いたくなるぐらい。それだけじゃなく、買ったらそれだけで幸せになりそう感じと言えば良いのかな。これはアカネの大事な持ち味だから磨きなさい」
褒められたと思った途端にドサッ。
「ドンドン来てるから、頑張ってね」
「せめて渋茶のアカネだけでも変えてくれませんか」
「あだ名が付くってイイことよ。一流にまた一歩近づいたって証」
え~ん、プロにあだ名とか二つ名が付くのは売れてる証拠みたいなものだけど、選りによってどうして渋茶なのさ。それもこんなに広まっちゃったら、変えられないじゃない。せめて抹茶にしてくれ。ほうじ茶でも、煎茶でも、抹茶でも、玄米茶でもイイ。とにかく渋茶はイヤだ。
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