心の旅 揺れる乙女の大冒険。時々チビ

やまくる実

第1話 誰?


「知羽ちゃん また明日ね」


 優君の声に頷き、階段の前で手を振って、優君の後ろ姿が小さくなるまで見ていました。



 優君が見えなくなってから、階段の壁に手を添えて、少しずつ上がっていきます。



 


 優君。

 優しい、優しい幼なじみ。



 本当は私の他にも友達がいっぱいいて。

 あんまり上手く喋れない、私と居て、

 楽しいと思ってくれているのかな?



 階段の壁に寄りかかり、自分の小さな手を見つめた後、その手を口元に置き、上を見上げました。



 

 階段の壁の隙間から、綺麗な青空が見えました。


 薄く白い雲が見えました。



 


 その雲が優君の被っている帽子に見えました。


 背負っていた、ずり下がってきたランドセルを、もう一度ちゃんと背負い、階段を上がり始めました。




 家の扉の前から明かりが見えました。





 今日はお母さんが帰ってきてる。

 


 扉を開けると、リビングからの灯りが漏れています。

 部屋が温かくて胸がホコホコします。




 今日はお母さんにいっぱい、いっぱい喋ることがあるの。





 


「ただいま」


 私にしては珍しく大きな声で、言ったのだけど、

 お母さんからの返事はありません。



 リビングの扉の向こうから知らない男の人の声がして、心臓がぎゅーってなって、ドキドキしました。




 誰?



 誰?




 びっくりした私はリビングを素通りし、私のベッドがある部屋に飛び込みました。



 ランドセルを机に置いて、ベッド上で膝を抱えて考えました。




 私はお母さんと二人暮らしです。



 家には男の人は......いないはずなのに。




 お母さんの知り合い?




 誰? 誰?




 扉をカツカツ叩く音がしました。

 

 ビクって一瞬したけど、ベッドから降りて扉を開けました。



 扉の隙間から、大きな鼻先が入ってきました。


 扉を大きく開けると、犬のチビが、チビって名前だけど、私の身体くらい大きなチビが、部屋に飛び込んできて、私の身体に乗っかりました。



 思わず笑った私は、チビの頬を撫でました。


 

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