四天王、鋼炎機巧【イグニスマキナ】
まったく何の前触れもなく、【それ】は墜ちてきた。
ズドンという地響き。同時に聞こえたのは、肉のようものが砕けて潰れる生々しい音。続いて衝撃波のようにビリビリと空気が震え、肌が焦げるような、痛みを覚えるほどの熱風が周囲に広がっていった。
「ちょっ……今度は何?!」
熱風から身を庇うように腕を翳し、ナルは動揺したように口走った。
ショウマも突然の轟音と熱風に驚きと痛みに顔をしかめながら、【それ】が墜ちた先を見つめる。そしてあることに気づいた。
「す――凄い熱さだ――いったい、これは――それに、さっきの男の人が消えてる――?」
「いえ、消えてるんじゃないです」
間髪の入れずにミズホは応え、すっと剣を振るう。その途端、肌を灼く熱気が消えた。少女は3人に襲いかかる熱風の流れを【断ち切って】いた。
熱風が断ち切れられたことによって、視界が晴れた。
ショウマの言う通り、
「さっきの
小さく呟いたミズホの視線は、黒々とした塊の周囲を泳ぐように巡る。
灼けた血の跡と炭化した肉片。もはや、男のものだったのか獣のものだったのかも判別のつかなくなった屍の欠片が、黒の塊を中心に散らばっていた。
「これは――新手ですね」
「だね」
ナルはミズホの言葉に頷くと付け加えた。
「しかも、さっきの男とは比べ物にならないほどの魔力を感じる……こんな強力で【格】の高い魔力を宿しているなんて、まさか……」
「グギギギギ……」
黒の塊が異音を発した。様々な形の鉄屑を組み合わせたようなそれは、小刻みに震えだし、下の部分からは二本、脚のようなモノが生え、左右からは腕のようなモノが伸び、上方の鉄屑の隙間を掻き分けるように、頭のような突起物が盛り上がる。
「グギギギギ……逃走は……許さぬ……我が、
「はあ? 何言ってんのアンタ……だからって……」
「だからって、殺すんですか――」
塊から発せられたヒトの言葉に、ナルとミズホは同時に応えた。
黒の塊はいつしかヒトの形へと変形していた。黒々とした鋼の身体。まちまちな大きさ形の鉄屑を組み合わせたような歪で、しかし屈強な身体。無数の隙間からは煙と、赤々とした炎が漏れ出している。
まるで鉄の蒸気機関をそのまま人間のカタチに組み替えてしまったかのような、異形の巨人。
「ダイスロウプ魔軍四天王が一人、
ヒトガタの鉄屑は明確にヒトの言葉を発した。
それを聞き、ミズホは我に返ったように口元を抑えた。
「これ……人間の言葉を喋って……?!」
「四天王、【
そう言うナルの表情は苦々しそうに歪んでいた。横目でそれを見やったミズホは小さな声で聞く。
「そんなに……ですか?」
「あれは自律型
ナルの説明にショウマとミズホはほぼ同時に息を呑んだ。
「魔力によって造られた、人間を超える存在……?」
「そう……その中でも、あいつはヤバい。四天王……あたしが戦ってる敵、ダイスロウプ魔軍を構成する4つの組織の内の【炎】を司る魔軍のトップ。【
「この世界やあなたの事情は存じ上げませんが、つまり……敵の大幹部さんの登場ってことですか」
そう静かに呟きながらも、相対した相手の威圧感を敏感に感じ取っているせいか、ミズホの声は僅かに上擦っていた。
「でも、なんでそんなやつが、急にこんな場所に……?」
「
ショウマの疑問の言葉を握り潰すように、重くくぐもった声が周囲に響いた。
「我らの王は、
「で、潰して殺したと?」
素っ気なく問いかけるミズホに、ドミジウスと名乗った鋼鉄の怪物は金属同士が擦れるような、けたたましい奇声を鳴らした。
「グギギギギ……
一頻り声を上げ、ドミジウスは腕と思しき部位を伸ばすと、その先端をミズホ達へと向けた。と同時に、腕が筒状に変形する。
ドミジウスの筒状に変化した腕の中が赤い光を帯び、その光が瞬いた瞬間、腕から灼熱の溶岩の塊が射出された。
ミズホは突然の攻撃を事前に察知していたかのように飛び退いて溶岩を避ける。目標を外れた溶岩は三人の背後に着弾して炸裂すると、轟音とともに炎の渦を巻き上げて地面を灼いた。
「ナルさんの言うとおり、確かに桁外れに強力な力ですね――これは確かにマズそうです。ただ、人間と同等か、もしくはそれ以外の知性があるという割には、なんだか会話が成立しそうにありませんが――」
「だから、こいつはマジでやばいんだって!」
吐き捨てるように言うと、ナルは指先を伸ばし魔術を放つ体勢を取った。
「【
詠唱と同時に鋭い水流が魔術師の少女の指先から放たれる。
しかし、ナルの放った水の魔術は、ドミジウスの表面に揺れる炎を僅かに靡かせただけで、屈強な鋼の身体へと達した瞬間、その装甲に傷一つつけることなく蒸気と化して消えてしまった。
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