EXTRA Why did you come to Japan?


 成田空港――。


 到着便の案内表示板がパタパタとめくられ、『ARRIVAL(到着)』と表示されるなか、ロビーでは邦人のほかに世界各国から人種雑多な旅客やスーツに身を包んだビジネスマンが行き交う。

 そのさなかでマイクを持ったテレビクルーが外国人にインタビューを。その後ろでカメラマンがカメラを構える。


 「すみません。『YOUはなぜ日本に?』という番組です。どこから来ましたか?」


 キャスターの後ろで通訳者が英語で話す。


 「アメリカから来ました。今回で三度目の来日なんです」


 「ドイツだよ。日本にはザゼンをしに来たんだ。ザゼンってわかる? お寺でこうして足を組んで瞑想するんだ」


 「これもしかして『YOUはなぜ日本に?』 いつも見てるよ! オーストラリアでも人気の番組だよ!」


 外国人を見つけては次々とインタビューしていく。


 「もう撮れ高十分じゃない?」

 「最後にあとひとりインタビューしようか? あの女の子なんてどう?」


 カメラマンが向こうのスーツケースを転がす金髪の可愛らしい少女を指さす。テレビ的にも映えそうだ。


 「すみませーん、『YOUはなぜ日本に?』です。インタビューよろしいでしょうか?」

 「インタビュー? あたしに?」


 テレビクルーがマイクを向けたその少女は修道服スカプラリオに身を包み、頭にはヴェールを被っていた。


 「もちろんいいわよ!」

 「日本語がお上手ですね」

 「日本のマンガやアニメが好きで覚えたの。スペインでも日本のマンガは人気あるわよ!」

 「なぜ日本に来たのですか?」

 「あたしの場合は、日本の教会に勤めてるから、いま帰ってきたところなの。バカンスからね」

 「シスターでも旅行したりするんですね?」

 「まぁね。“疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう”(マタイ伝第11章28節)と聖書にもあるとおり、人間休みは必要よ」

 「なるほど」


 その時、着信音が鳴った。


 「あたしのだわ。ちょっと失礼」


 ポケットからスマホを取り出す。出たのは懐かしい声だ。


 「アンジロー? いま空港に着いたところなの。うん、うん。そ、今から教会本部に行ってマザーに会うつもり。なに? いま何が食べたいかって?」


 そうねぇ……と少し考える。


 「お寿司食べたいなー……って冗談よ冗談。アンジローのつくるものなら何でもいいけど、和食がいいな。出来ればまだ食べたことのないやつね」


 テレビクルーが「お友だちですか?」と質問に「うん!」と元気よく答える。


 「あ。ごめん、こっちの話。うん、いまテレビのインタビュー受けてるの。えーとね、『YOUはなぜ日本に?』って番組。知ってる? もしかしたら今度テレビに出るかもよ? え、マザーに怒られないかって? あはは……そん時はそん時」


 テレビクルーが「ありがとうございました」と礼を言って別れ、フランチェスカはスーツケースを転がしながら地下鉄へのエスカレーターで降りていく。


 「もうすぐ電車乗るから切るわね。え、なに? うん、うん。じゃあ今夜ね。期待しないで待ってるわ」


 通話を切ろうとしてはたと気づく。


 「そういえば言い忘れてたわね。『ただいま』って……いいじゃない別に。好きな日本語のひとつなんだし」


 すぅっと息を吸う。


 「ただいま! アンジロー」




次話に続く。

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