EXTRA ある日のアンジロー
「これでホームルーム終わるぞー。あと、今から前に言っていた第二外国語の選択用紙配るから、勉強したい外国語に丸つけとけよー」
アンジローこと安藤の通う高校では三年生になると英語の他に第二外国語の授業を選択できる。
担任の教師が先頭の生徒にまとめて渡すと、後ろへ順に配られていき、一番後ろの安藤にも渡される。
選択用紙にはドイツ語、フランス語、スペイン語の三つで、それぞれ丸をつける欄がある。
「なあ安藤。お前どれにする?」
前の席の同級生が話しかけてきた。
「んー……特にこれといってってのはないけど……」とぽりぽり頭を掻きながら。
「俺は絶対ドイツ語! ドイツ語って響きがカッコいいじゃん? これドイツ語でなんて言うか知ってるか?」
取り出したのはボールペンだ。知らないと言うと自慢気に「クーゲルシュライバー!」と言った。
「……ムダに長くないか?」
「そこがいいんだろ!」
中二病真っ盛りで目を輝かせる同級生をよそに安藤は窓のほうを見る。
正直言ってどうでも良かった。英語はまあまあ得意なほうではあるが、さらに外国語を勉強するなど……。
ふと、見習いシスターである彼女の顔が浮かんだ。
どうしたもんかな……。
そうぽつりと呟くと、同級生が「まだかよ? 早くしろよ」と急かす。
「いまどれにするか考えてんだよ」
「スペイン語にしろよ。俺知ってるからな。お前が教会のスペイン人のシスターさんに入れ込んでるってこと」
「べ、別に入れ込んでるわけじゃ……!」
安藤のあわてふためく様を同級生がにやにや笑う。
「まだ書いてないやつはいるかー!?」と教師が声を張り上げたので、まだ決めかねている生徒が一斉に書いて提出する。
「ほら、早くしろよ。あの先公、期限にうるさいのは知ってるだろ?」
「わかったよ。いま書くよ。フランス語にするから……」
さらさらとシャープペンを走らせて同級生に渡す。
そしてふたたび窓のほうをぼうっと眺める。
「お前、やっぱりスペイン語じゃないか!」と同級生の声に安藤がどきりとする。
「勝手に見るなよ!」
「そこ、うるさいぞ!」と教師の声で教室は静寂を取り戻した。
次話へ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます