第27話 恋する☆フォーチュン③

 「はぁ……」


 プールサイドのチェアベッドで舞はひとり溜息を。

 目の前ではフランチェスカと安藤がきゃいきゃいと水を掛けあっている。


 せっかくの作戦が台無しじゃない……。


 また溜息をひとつつくと、顔に水がかかった。


 「わっ! ちょっと!」

 「まいまいも早く来なさいよ! 準備運動終わったんでしょ?」

 「あたしはいい……というか、まいまい言うなっての」

 「なんでよ!? 誘ったのあんたでしょ? まあ、あたしはアンジローに誘われたから来たんだけど」


 そう言われてはぐうの音も出ない。


 「あ、あのさ、笑わないでよ……? あたし、カナヅチなの」


 笑い声がしたので、見るとフランチェスカが腹を抱えていた。


 「おいっ笑うなっていったそばから!」

 「だって、まいまいがカナヅチって! ウケるんですけど! プークスクス!」と舞を指さしながら笑う、その様はもはやシスターのそれではない。


 「フランチェスカさん、誰にも不得意なものはあるんですから!」と安藤がたしなめる。


 「神代さん、よかったら俺が泳ぎ方教えましょうか?」

 「え?」


 図らずも安藤からそんな提案が来ようとは。舞は驚きを隠せない。


 「ここ、足つきますから。練習しましょうよ」

 「う、うん……」


 梯子を降りてちゃぷんと入水。

 まずはバタ足からということで、プールの縁に掴まってバタ足の練習を。


 「そうそう上手いですよ。神代さん」

 「そ、そう?」

 「はんっそんなんで浮かれてるようじゃ、まだまだね」


 フランチェスカの茶々にむっとする。


 「うるさいわね! 上手くなったら因幡いなばの白兎のように海を渡ってやるわよ!」

 「なによそれ?」

 「日本神話に出てくる話で、白兎がサメの背中を渡るんですよ」と安藤が代わりに説明する。

 「それ、泳いでなくない? その点、キリスト教じゃ、イエスが海の上を歩いたっていうし、なんならモーゼも海を割ってたりするわよ」

 「それも泳いでねーだろ!」と舞のツッコミ。

 「ま、とにかく習うより慣れろよ。こういうのは実戦で覚えるのが一番よ」


 そう言うなり、フランチェスカはプールの壁を蹴って無駄のない動きで5メートル先まで泳ぐ。

 そして立つとこちらに向かって手を広げる。


 「さ、ここまで泳いでみて」


 あんたがアンジローの代わりにやってどーすんの!?


 心の中で突っ込み、フランチェスカの善意を呪わずにはいられなかった。


 「さ、神代さん泳いでみてください。なにかあったらサポートしますから」

 「そうよ! あたしを信じて飛び込んで!」とフランチェスカが天道寺公彦のセリフそのまま言う。


 ちょっ! それまさにイケメン生徒会長のポジション!


 とは言うものの、無下に断るわけにもいかない。癪だが、ここはフランチェスカの言うとおりにするしかない。

 壁をキックして慣れないバタ足とぎこちない動きでなんとかフランチェスカのところまで泳ぐ。


 「頑張って! あと少しよ!」


 あんたに言われるまでもないわよ!


 執念でなんとか泳ぎ着いた。フランチェスカが抱きしめる。


 「やれば出来るじゃない! まいまい」

 「あ、ありがと……てか、まいまい言うなって」


 にかりとフランチェスカが笑う。


 こいつ、男だったらとんでもなくイケメンね……それこそあのマンガの生徒会長みたいに。


 「神代さん上手でしたよ。フランチェスカさん泳ぎけっこう上手いんですね」


 安藤がざぶざぶ進みながらやってくる。


 「まあね。スペインにいた時は毎夏、家族でよくピアリッツ(バスク地方の高級リゾート地)に行って泳いでたものよ」


 えっへんと胸を反らす。


 「それより流れるプールとか行こうよ。ここ飽きたし」


 


④に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る