ほしいものはなんですか?

こめ おこめ

目指すべき場所

 この世界には不思議があふれている。どこからでてきたのか分からない魔物、誰が置いたかもわからないお宝。

 僕たち冒険者はそれらをあらゆる目的で探し求め、手に入れ、時には破壊する。

 もちろん危険はつきものだし安定したお金が入るわけではないから人に薦められる職業ではない。

 しかし、ロマンはどの職業にも負けない。大多数はそのロマンを求めて冒険者をしている。

 え?僕?僕はもちろん……


 「また国家試験落ちたぁ!」

 「あんたまた落ちたの?これで何回目?」

 「3回目……」

 「過去には12回試験受けてやっと受かったって人もいたしあと9回はいけるわね」

 「安心材料にならないよ……」

 「てことはあんたまた冒険者やるの?」

 「うわぁ……またあの苦痛を味わうの嫌だな……」


 冒険者の依頼、補助を取りまとめている『ギルド』とよばれているものがある。

 そのギルドは国が運営しており、職員になるには資格がいる。

 資格の取得は特定の期間内の冒険での功績と年に二回行われているテスト、面談に合格しなければならない。

 まず冒険での功績がなければそもそもテストを受ける資格をえられない。なんでも冒険での知識、経験が非常時において柔軟な対応、対策をするのに必要不可欠なんだとか。他にもいくつか理由があるが省略。そのぶん功績をあげればそれの分が加算され、テストの合格ラインを下げることができる。ただしそれは試験から半年以内でないとダメで、過去の栄光にすがり続けることはできない。


 僕が冒険者をやっている目的はただ一つ。ギルドの職員になって安定した高額の仕事につき、エリート街道を歩みたいからだ。

 誰が好き好んで大変で危ない、しかも安定もしない仕事に就きたいっていうんだ。

 

 「しっかし、ドラゴンの鱗じゃ足りなかったって相当テストの点が悪かったんじゃないの?」

 「テストの点自体は悪くなかったんだけどね……最終面談で今回は絶対いけるって思ったら緊張が限界に達しちゃって全然喋れなかったんだよね。」

 「次は緊張しなくなるようなお宝でも見つけるのね」

 「そんなピンポイントなお宝あるかな……」

 「前回運よくドラゴンの鱗が落ちてたっていって功績がよかったらしいけど、今回はそうはいかないじゃない?遠くまで探しに行くの?」

 

 そう、ドラゴンは希少であり、まず見ることすら難しい。そして何より強い。ゆえに入手困難であるドラゴンの鱗1枚は大きな功績になった。

 僕の今回の試験での功績はこれのみで、おかげでそれ以降は一切冒険にいかないで試験勉教に集中することができた。おかげでテストの点数はよかったのだが。


 「う~ん……もう少し何か楽できないか考えてみてだめならそうしようかな」

 「あんたらしいわ。遠くへ行くなら声かけて。私も欲しいものあるし一緒にいきましょ」

 「りょうか~い」

 彼女は少しあきれた様子でこの場をあとにした。

 さて、楽な方法でも探しますか!



 「てなわけでまた鱗ちょーだい!」

 『気軽に言うな!あれ結構いたいんだぞ!』

 大きな躯体。白く光沢のある鱗。か細いが確かに圧のある目。誰が見ても一目でわかるシルエット。

 僕が話しかけたのは希少といわれているドラゴンであった。

 「まさか試験にあんな罠があるとは……」

 『これからは精神修行でもするんだな』

 

 このドラゴンは僕の家に昔からいて、赤ちゃんの時からずっと一緒だ。おじいちゃんが冒険者をしてた時に色々あって家に住んでるらしいけどよくは知らない。

 家族以外には知られてはいけないというのが我が家の唯一あるルールだが、当たり前だよね。こんな希少種が近くにいるってわかったら周りがパニックになるし、国ごと動き出して捕獲しにくる。

 僕の家族もこのドラゴンもそれを望んでない。だから今の関係が築けている。


 『というかまた同じものを持っていったら怪しまれるだろう。まず身辺調査はされるだろうな』

 「あー、やっぱり?それは避けたいな。そうなると……なんかない?」

 『少しは考えろアホウ』


 1、2回目はわりと近場で功績を上げたのだがテストの点数が足りず不合格。なので今回は少しでもカバーしようとこのドラゴンの頼みをいくつかクリアして鱗を譲ってもらったのだ。

 あの時は鱗一枚はがすだけだったのだが凄い咆哮を上げていた。本当に痛かったんだろうな。


 「ドラゴンって知識凄いんでしょ?ならここらへんでそこそこいいお宝とか知らない?次回はテストは大丈夫だろうしあとは功績だけなんだよね」

 きっと前回ほどの功績を上げる必要はないはずだ。というか前回以上のものはそうそうないだろう。

 『ふむ……お前が望んでいるであろうものがある場所なら教えてやらんでもない』

 「僕が望んでいるもの?」

 なんだろ?今必要なものってなると功績だけど。

 「ってことはお宝があるってこと?それ教えて!」

 『うむ、その代わり対価はもらうぞ』

 こいつは知識だったり物だったり、大体のものを与えてくれる。しかしどれも対価が必要で、前回も鱗をゲットするために少し苦労した。

 『そうだな……最近できた甘味処のケーキが美味しいらしいからそれを持ってきてくれ』

 「あぁ、街の西口の方にできたところ?そんなんでいいの?」

 『買うために朝5時から並んでる人もいるらしいぞ』

 「たしかに大変ではあるけども」

 このドラゴンはなんというか、わりと俗っぽいところがある。

 無理難題を押し付けることはなく、こちらが少しめんどくさいと感じる程度の要求ばかりであった。そのかわりこちらの欲しいものと少しずれていることがあったりもするのだが、こればっかりは仕方ないと諦められるものばかりだった。

 「りょうか~い。んじゃ買ってきたら情報よろしく!」

 『なるべく早くな。楽しみにしてる』

 「……ドラゴンのくせに威厳もクソもないなぁ」

 『威厳だけで欲望が満たせてたまるか』

 ドラゴンとこんなもので共感するとは思わなかった。


 ドラゴンのいた空間の扉を出る。すると一軒家のなんてことない、少し乱雑なリビングにつながっている。

 我が家にドラゴンが住んではいるがもちろんこんな大きなものが普通にいたらスペースが足りないし何より目立つ。

 魔法で空間を拡張、座標の転移により扉をつなげている。魔法の力ってスゲー!



 次の日。ドラゴンの要求するものを求めて店の前までやってきた。

 時間は朝の5時。言っていた通り人が並んでいる。しかも10人程。マジかよ……。

 その中に一人知っている顔がいた。

 「君、そんな甘いもの好きだったんだ」

 「……あんたこそ。そんなに甘いもの好きだったの?」

 昨日僕と試験の話をしていた彼女が、少し眠そうな顔をして並んでいる。

 「僕は頼まれてね」

 「ふ~ん。それはご苦労様ね。ここのケーキ本当においしいから食べて損はないわよ。自分の分も買ったほうがいいわ。絶対に」

 「そんなにおいしいんだ。せっかくだしそうするよ」

 そういって僕は最後尾に並ぶ。すると彼女も一緒に最後尾へ来た。

 「並んでたのに、よかったの?」

 「一分一秒を争ってるわけじゃないし。それに今後どうするかも聞きたいしね」

 「そっか、なんかごめんね……今後なんだけど」

 一連の流れを説明する。もちろんドラゴンのことは伏せて。

 「だから頼まれてきたのね。けどその情報はあやふやすぎない?」

 「まぁ、割と信頼してる筋からだし、そんな苦労するわけじゃないから」

 「ま、あんたがいいならいいけど。一人でいくの?」

 「そうだね。そんな危険じゃないだろうしたぶん近場だろうからそんな時間かからないだろうからね」

 「そ。油断だけはしないようにね」

 「くれぐれも気を付けるよ」

 ここら辺は国がある程度整備してるだけあって危険度が低い地域だ。もちろんどんな場所でも事故が起こるし、怪我する可能性がある。どんな場所でも入念に準備をしていくのが冒険者の鉄則だ。

 「あっ、そういえばどのケーキがいいのか聞いてなかったな。どれが一番おいしいんだろう?」

 「私のおすすめは……」


 そこから開店まで彼女のプレゼンが止まらなかった。なんだったら買った後も話してた。ここまで熱狂的に甘いものが好きだったなんて……。今度から怒らせてしまったときは甘いものでも買っていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る