遅刻回避!走る少女と愉快な町

人生☆迷子

ベタな展開は好きですか?


「やばい!遅刻!!」


時刻は8時27分を少し過ぎたところ、白い壁の一軒家から少女の声が響き静かな朝を終わりを告げた。


「もう!なんで起こしてくれなかったのよ〜」


「起こしたよ、それなのに起きなかったのは姉ちゃんだろ?」


「起きなかったら起こしたとは言わないの!行ってきます!」


食パンを咥えながら玄関の扉を大慌てで飛び出した少女は学校への道を全速力で走る。

それはもう、ラブコメの王道かと言わんばかりにである。しかしこの作品はラブコメではなかったのだった……


少女の家から学校までは走っても15分はかかり正門の施錠時間は8時40分、この時点で遅刻は当然回避できないものだった。


この作品は、遅刻が確定した少女がどうにかして遅刻を回避する為に走る、只それだけの作品である。


「まずい、このままだと遅刻不可避。使いたくなかったけど……近道するわよ!」


などと独り言の激しい少女だったがそれは作品の都合上、仕方の無い事だと割り切っていただきたい。

そんな事はさて置いて、少女は民家の中へと入って行く。


「あらおはよう、また遅刻しそうなのかい?」


「そうなのおばさん!お邪魔してました〜」


「気を付けて急ぐんだよ〜。まったく毎回飽きないわね」


そんなご近所からの熱いエールを受けて少女は勝手口から出て行く。

これで1分の短縮と言ったところだろう。

それにしても、この町の防犯は大丈夫なのかが気になる所ですね。


 そして、少女は大通りを走り商店街へと向かって走っていた。

今の時代には珍しく昔ながらの店が立ち並びながら活気のあるこの商店街、朝の準備をする為に店先に出ている人が大勢見受けられる。


「なんだまた遅刻か?走るのが好きだねぇ」


「好きで遅刻してるんじゃないわよ!」


「あぁ、お前さんはそうかもしんねぇな!にしても今日も暑いからなほら持ってきな」


そう言って投げられた2つの紙パックジュースの1つを器用に受け取るとロードレーサーもビックリなスピードで口の中へと流し込み、近くのゴミ箱へとそのゴミを投げ入れた。


「ありがとうおじさん、いってきまーす!」


既にこの商店街での名物行事となっているのかその場の全員が笑顔で手を振ってくれる、暖かい町です。


「はぁはぁ、ダメだ間に合わない。今日は生徒指導のチュパカブラが居るから1分でも遅れたらアウトなのに!」


生徒指導のチュパカブラとは少女の学校の名物教師に付けられたあだ名である。

通常のハゲならば先ずは頭頂部から禿げていくが、そのチュパカブラはサイドから禿げていくタイプの様で頭頂部に残った髪の毛がヒレの様に見えることから付いた大変不名誉なあだ名なのだ。


「よし、少し汚れるけどあの道を使うよ!」


そう言って少女は素早く靴を脱ぐと用水路の中へと入って行く、もはや道ではなかった。

普通ならばこの用水路を渡る為の橋を通るのだが、中を進んでしまえば時間短縮になると考えたのだろう。

最速で最短で一直線とはよく言ったものである。


「よし、これで更に4分短縮。これなら間に合いそうよ!」


そんなことをスカートにザリガニをつけながら言っている姿を見ると笑いが込み上げてくる。

そして、用水路を抜けて田畑が多く見られる砂利道へ更に走る。


「それにしても昨日のあの映画、予告詐欺過ぎなかった?あれを映画館で見てたらって思うとため息が出そうよ。特にナレーションが面白さを狙い過ぎてて逆に寒いのよね」


そんな事を読者に言っても分かるはずがないと言うのに、少女はあたかも隣に誰かが居る様子で話し続けた。


そんな無駄話をしていると下り坂へと差し掛かる。

少女の学校はこの坂を下った先の低地に位置している、洪水が起きたら真っ先に沈む、避難所としての役割が皆無などとツッコミたい気持ちはあると思うが見逃して欲しい。

そしてこの坂は緩やかな傾斜ながらその距離は長くとぐろを巻いている為、特に自転車通学の生徒達からは"行きは良い良い帰りは怖い蛇坂"と呼ばれている。


もう少し語感をよく出来なかったのかと問いたい。


「さて、ここを下ればもう学校よ。良かった間に合いそうね」


余裕を見せる少女に少し不安を隠せないが、確かにここまで来れば余裕であろう。


「んぎゃーんぎゃー」


「キャー!赤ちゃんが!」


そんな事はなかったのだった。

緩やかな坂道を勢いよくこちら側へ進んで来るベビーカー。狙ったかの様なお約束展開なのだがそれを放置する少女ではないだろう。


「もう!なんで今なのよ!」


そんな事を言いながらも身体をベビーカーへと向け走り出す。

そして、ベビーカーをそのまま受け止めるのでは無く半回転させて衝撃を最小限に抑え静止させる。

先程から思っていたがこの少女、実はかなりの器用なのではないだろうか?

などと錯覚させる程度には完璧な動きだったと言える。


「よしよし、もう大丈夫だからね。」


「あーい!あーい!」


「ありがとうございました!本当になんてお礼すれば……」


「いえいえそんな、普通の事をしただけですから」


「でも、それではこちらも収まりがつきませんので何かお礼を」


「すいません、急いでて……」


「でしたら、連絡先だけでも!」


一向に食い下がることの無い母親に時間を取られ気付くと10分が過ぎていた。


現在の時刻は8時50分、完全なる遅刻であった。


「はぁ……どうしてこうなるのよ」


「姉ちゃん、今月27回目の遅刻おめでとう。あと、3回で今月もコンプリートだね」


「うるさいな!てか、私の話無視して何ずっと実況みたいな事してんのよ!」


「え、あぁ。昨日の映画の真似だよ」


 そしてこの後、少女もとい姉と僕はチュパカブラにこってりと絞られましたとさ。

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遅刻回避!走る少女と愉快な町 人生☆迷子 @zinsei_maigo

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