第60話 サヤVS蓮司

「いきなり何すんだよ!」

 漆黒の鞘から無数の連撃が繰り出される。

 困惑の中にいる俺はなんとかそれを防ぎきるのに精一杯だった。


 平時の彼なら、その持つ『劔』の力でいともたやすく退けたであろうが、混乱のさなかにある彼にはそこまでの冷静さは持ち合わせていなかった。

 無論、サヤはそれを見越してこの追撃へと撃って出たのである。



「手、抜いてたんだろう?」

「は?」

 じわりと汗がにじむ。

 その動揺を嘲笑うように、切っ先が俺の鼻先をかすった。

「ヘリオスを始末するには格好の機会だったもんな。この討伐戦のさなかでヘリオスを殺すつもりだったんじゃないのか? もとからそのつもりだったんだろう?」

 この女!


「さぞ目障りだったんだろろう? よかったな、自分の手を汚す手間が省けたじゃないか」

「うるせえ!!」

 大きく剣を薙ぎ払うも困惑のさなかにあっては、その太刀筋には切れ味もない。たとえ、炎をまとっていようともサヤが見切るのは容易かった。


「図星を突かれて動きが鈍くなったな」

 挑発するように嘲笑った。


「こ、こいつはオニの仲間だ! そうに違いない! なあ、みんなでこの化け物を仕留めようぜ」


「やれやれ。まだ、自分の置かれている状況がわからないらしいな」

 ことさらに挑発するように言い放った。


「ポメ子、この馬鹿に状況をわからせてやれ」

目の前の女の合図に合わせて、犬耳の少女が手の平を胸のあたりでかまえると魔力を放出した。なんらかの魔術の類だろうか。

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