Dust Devil
四時限目の終わりを告げるチャイムの音と共に、教室は授業から解放され一気に騒がしくなった。
そんな喧騒も、ほのかにとっては無に等しかった。
「今日昼どうする?」
冬真はいつも通り陽太達の席の前に集まり、食事をする場所についての相談を始めた。
「うーん、そうだなー。購買がおにぎりフェアでいつもより二十円安いって聞いたから、買って適当な所で食べようかな」
「へえ、購買でそんなのやってるのか。じゃあ俺も購買に行ってみようかな」
購買ではパンの他、おにぎり、サンドイッチ、飲み物等もあり、小さなコンビニ並に種類も色々とあるのでとても人気だった。
「月島さんはどうする?」
陽太がほのかの方に向き直って言うと、ほのかはスケッチブックに文字を書き出した。
【今日はお弁当持ってきた】
毎日ではなかったが、ほのかは時雨から夕飯のおかずをお
その余りを今日はお弁当にして持ってきていた。
「そっか、それじゃあ教室で待ってて。すぐ買ってくるからさ」
陽太がそう言うのを見てほのかはにこりと笑って頷いた。
その様子を教室のドアからこっそりと覗く者が居たが、存在感の薄さ故、誰一人として気に留めるものは居なかった。
勿論、その者は常日頃忍びの如く三寒四温を付け回し、隠し撮り写真を取る写真部員の女子、
その厘子が行く先はただ一つ、愛華の所だった。
厘子はまさに忍者の様に愛華の背後に近づくと、先程見聞きした事を耳打ちした。
「ふーん、これは使えそうね。ありがとう。でもあなた、相変わらず気配も無く急に話されるとドキッとするじゃない・・・・・・」
愛華が後ろを振り向くと、そこには既に厘子の姿は無かった。
「って、もう居ないし!」
陽太達が購買に辿り着いた時、そこには無数の生徒達が集まり、店に入り切らない程の人だかりが出来ていた。
「あー、これは出遅れたな」
陽太は目の前の光景に
「この様子だと買って戻るまで時間が掛かりそうだな」
「あ、二人ともー、これからお昼?」
愛華はさりげなく二人に近づき得意の笑顔を浮かべて言った。
「五十嵐さんもお昼買いに来たの?」
陽太がそう聞くと愛華は手持ちのビニール袋を見せた。
「あたしは朝コンビニでパン買ってきたから。それよりすごい人混みだねー。この調子だと買って教室戻ったら食べる時間があまり無さそう」
「・・・・・・確かにな。陽太、今日は諦めて食堂にするか? 月島さんも待たせているだろ」
大盛況な店を前に冬真は溜め息をついた。
「うーん、そうだなあ・・・・・・」
「あ、いい事思いついた! 教室まで戻ってたら時間は無いけど、買った後、隣の食堂で食べれば時間はありそうじゃない? あたしが月島さんを呼んでくるから!」
そう言って愛華は二人に手を振ってほのかの居る今日に向かって走っていった。
「あー、五十嵐さん行っちゃったな。ああ言ってくれてるし、もう少し並んでみるか。俺の鶏マヨおにぎり残ってるかなーー」
陽太は楽観的にそう言ったが冬真は何か考え事でもしているのか押し黙っていた。
ほのかが教室でお弁当も広げずに待っていると、愛華がやって来た。
何事かと思い、ほのかは愛華の方を見た。
「あ、月島さん、陽太君達からの伝言なんだけどー、購買がめちゃくちゃ混んでてー、間に合いそうにないから先に食べてて欲しいって」
【分かった】
ほのかはそこまで混んでいる購買に驚きつつもスケッチブックに返事をそう書いた。
「じゃあ、あたしは戻るからまたねー」
愛華はそう言い残してほのかに手を振った。
ほのかはお弁当の包みを広げようとして、ふと手を止めた。
急に、あの独りだという感覚が押し寄せほのかは不安と焦燥を感じた。
教室の周りは皆殆どご飯を食べ終わりつつある様子で、途中から仲間に入れて貰いたいと言うのが恥ずかしかった。
自分で友達を作らねばとは思ってはいたが、ほのかにとってはそれが怖かった。
どう動けば良いのか分からない、こうして一人で居るのも変に見られているんじゃないかと思うと体が勝手に震えた。
所詮、自分はあの二人が居なければ一人なのだと思い知らされた。
ほのかはお弁当の入ったバッグを引っつかむと教室を出て一人になれる場所を探した。
行き着いた場所は屋上だった。
誰も居ない屋上の隅に腰掛けると、ほのかはお弁当を広げた。
勘違いをしていた。
自分は何も変わっていない。
そう考えていると目にじわりと涙が浮かんだ。
一方、その屋上の塔屋の上で食事をしていた夏輝はほのかの姿をみつけ、口にくわえていたパンを落とした。
「あれは・・・・・・スケブ女? また幻影・・・・・・なのか?」
もっと近くで見ようと塔屋から下に飛び降り確認すると、どう見ても本人にしか見えなかった。
何度も目を擦り、夢でも見ているのかと頬まで抓った。
「夢じゃないよな・・・・・・」
更に近づくとほのかも夏輝の姿に気がついた。
ほのかと目が合い、そのハッとした顔に夏輝はそっくりさんでもなく、双子でもなく、幻影でもなく、本人だと確信した。
二人はただ見詰め合った。
屋上に熱のこもった風が吹き、あの夏の日の様な太陽が二人を照りつけていた。
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