部活ハント! 文化部編
「ここだ」
冬真がほのか達を連れてやって来たのは家庭科室だった。
家庭科室の扉を開けると、どこか懐かしくて、優しくて、甘い香りが肺を占拠した。
見れば中ではエプロンを着た女子生徒達が楽しそうに料理をしているところだった。
陽太と冬真は学校では有名人な為、すぐに家庭科部員の注目を集めた。
「あら、三寒四温の二人組じゃない! 今日はどうしたの? 試食でもする?」
家庭科部を取り仕切っている部長がそう言うと冬真が切り出した。
「いえ、今日は転校生の月島さんに部活紹介で来ました。良ければ少し体験させて欲しいんですが・・・・・・」
「まあ、転校生! 氷室君の頼みなら大歓迎よ!」
「月島さん、家庭科部の体験が出来るそうだ」
冬真がそう言うと、ほのかは心を躍らせた。
家庭科部なら、女子の友達も沢山出来て、料理も上手くなって、美味しい料理も食べられる。
一石二鳥どころか三鳥以上はあるとほのかは思った。
「では今日はパンケーキを作りまーす」
部長が料理の手順を説明していくが、ほのかには相変わらず何を言っているのかが分からない為、ホワイトボードに書かれた材料をひたすら量り、兎に角混ぜた。
それらしい生地になると適量をお玉ですくってフライパンで焼いていく。
焼いているだけでも良い香りがする。
とても順調だとほのかは思った。
「お、なんだか月島さん頑張ってるじゃん。結構いい感じ」
「そうだな」
陽太達も安心してほのかを見守っていた。
「はーい、生地にふつふつと穴が空いてきたらひっくり返して下さいね」
部長がそう言い、他の部員は言う通りにひっくり返していったが、ほのかは部長の声が聞こえず、焦がさないようにしなければとずっとパンケーキに集中していた。
「おい、なんか焦げ臭くないか?」
陽太は嫌な予感がして冬真に話しかけた。
「ああ、香ばしいをかなり通り越して・・・・・・」
二人が教室の後ろからほのかに近づくとほのかのフライパンからはもくもくと黒い煙が立ち込めていた。
「あああああっ! 月島さん! 焦げてる焦げてる!」
フライパンの中を見ればパンケーキは裏側から無残にも黒焦げになっていた。
【表面がなかなか焼けないから・・・・・・】
ほのかは涙目でスケッチブックを見せた。
「うん・・・・・・、途中でひっくり返さないとな。まあ、次は気をつければ大丈夫だって」
陽太がフォローするもほのかはパンケーキが食べられなかった事をとても残念に思った。
そんなほのかを見て冬真は手元の部活リストを見て二人に提案をした。
「なあ、他にも部活あるし、他も見てみないか? 色々試してみて、一番気に入った所に行くのも良いだろう」
「そ、そうだな! 月島さん他に興味あるのは?」
ほのかは少し考えてスケッチブックにサラサラと文字を書いた。
【美術部】
「美術部か、じゃあ、行ってみようか」
三人は次なる可能性を求めて美術室に向かった。
「何、美術部を体験したい? いいとも!」
例によって冬真が部長に話をすると、あっさりと部活体験は許された。
「では、まずは基礎として写生をしてもらおう」
ほのかは鉛筆を取り、自前のスケッチブックに必死にスケッチした。
ほのかは思った。
スケッチブックショルダーとして、負けられない・・・・・・と、居もしない敵に立ち向かっていた。
そして三十分後、ほのかのスケッチは完成した。
「お、月島さん完成したの? 見せて見せて!」
陽太がほのかのスケッチブックを覗き見ると、そこに描かれていたのはよく分からないものだった。
あえて言うならば、ムンクの叫びの絵にピカソのゲルニカの絵を足して二で割ったような絵だった。
「えーと、かなりシュールな絵だね。あえて言うなら・・・・・・」
「おい、やめておけ」
陽太が思った事を言おうとすると、冬真が陽太の口に手をあて止めにかかった。
「一体何をスケッチしたんだ?」
ほのかの先にある机の上の物を見ると、それは赤いリンゴが一つ置いてあるだけだった。
「リンゴだったのか!」
二人は声を揃えて言った。
【絵、難しい・・・・・・】
ほのかは見たものの通り描く事はこんなにも難しい事なのだと痛感した。
「いやー、これはこれで・・・・・・、ある意味芸術かも」
陽太はいつものようにフォローを入れてくれるが、ほのかは自分の才能の無さに悲しくなった。
「次行ってみるか? まだまだ写真部や、将棋部なんかもあるし」
冬真がほのかを励ますかのようにそう言うのでほのかは頷き、美術室を出た。
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