きゃばかつ! ~童貞の俺がキャバ嬢たちと深夜限定日常ラブコメだと?~
三澤凜々花
ようこそ クラブ・ラ・メールへ
「レイナさんです。お願いいたします」
「初めまして~レイナです~、お隣失礼しますね!」
「マリアさん、ご指名のお客様です」
「はぁ~い、すぐ準備するわね~」
「いらっしゃいませ。現在フリーですと20分ほどお待ちいただきます」
「えぇ~、兄ちゃん! 特別にすぐ入れてよ~」
――ここはクラブ・ラ・メール。
歌舞伎町の真ん中にそびえ立つ、開店5年目の新規キャバクラ店である。
ドレス姿で接客をする女性が、灰皿を持ったスーツ姿の俺に向かって手のひらを下に向けて掲げた。
「レイナさん場内指名です」
それを確認した俺はインカムに向かって小声で囁く。
「了解。そんじゃ6卓の2回転目はリナにすっか」
するとイヤホンから低くて太い声が聞こえた。
レイナさんが場内でずっと2卓に付くから、6卓の2回転目はリナさんを付けて、6卓に今いるエレナさんは待機にしよう。
「エレナさん」
小太りの男の肩に体を委ねる女性――エレナさんの目の前に立つ。
男とエレナさんが持つハイボールのグラスの氷が、カランと揺れた。
「はぁーい……時間になっちゃった。次の子いく? 私いてもいいかな?」
「あー、他の子も見てみたいから今度指名するよ」
「はぁ~い」
エレナさんが仏頂面で立ち上がろうとする。
俺は深くお辞儀をして、その場を後にする。
ええと、リナさんを呼びに行こう。
「リナさーん! 6卓フリーに付きますよ!」
「タバコ1本吸わせて~」
「えぇ……もう時間なのでダメです!」
「ケチ!」
待機室で足を組んで座っていたリナさんを引っ張り出し、背中を押す。
溜息をついて、ゆっくりな歩幅で6卓へと歩き出した。
「リナで~す、初めまして!」
「おお、リナちゃんね。おいで」
「…………いそがしい」
歌舞伎町の新店キャバクラ、クラブ・ラ・メールでボーイとして働き始めて1か月。
元はと言えば、俺はこんな夜の世界なんて1ミリも知らない平凡な大学生だった。
「おい令作! ぱっぱと女の子つけぇや!」
「す、すみません……」
客席から少し離れたところでうなだれていると、後ろから身長190cmはあるであろう大男が、俺の肩を掴んで叫んだ。
「…………」
「あれ~? 令作くん、体調でも悪いの?」
「おわっ!? レイさん!?」
気付くと、金髪をハーフアップのポニーテールにした女が俺の目を覗いていた。
驚き思わず仰け反る俺。
「ちょっとちょっと~、私のえっちな胸元でも見て元気だしなよ!」
「ちょ、いいですって!」
白い歯をニッと出しながら、ドレスの胸元を開いて近づいてくるレイさん。
相変わらずお調子者だな……。
「はははっ……ボーイさんが浮かない顔してたらお店のテンション落ちちゃうよ~?」
「す、すみません……」
またもや謝ってしまった。
気付くとレイさんは踵を返して待機室へと吸い込まれていた。
「疲れちゃうなぁ……」
イカつい先輩ボーイや天真爛漫キャバ嬢たちとの深夜労働生活を、ただの平凡大学生だった俺が始めてしまった理由。
それは本当の本当に、偶然の出来事だった――。
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