六章 それぞれの結末 その9

 観覧車が下に着くころには、紅葉はさすがに落ちついていた。俺達は観覧車から降りると、そのまま遊園地のゲートのほうに向かった。もう日は落ちかけており、あたりはうす暗かった。


 ゲートをくぐって外に出ると、アンネが俺達の方に駆け寄って来た。どうやらずっとここで俺達を待っていたらしい。すっかり存在を忘れていたが、悪いことをしてしまった。俺達はほぼ放置していたことを謝ると、テレーズとアーサーが無事成仏したらしいことを報告した。


「確かに、霊の気配は完全に消えているようですね……」


 やっぱりあいつらはもういないのか。見習いとはいえ霊媒師からお墨付きをもらって、俺は改めて寂しさを感じた。もうあのござる騎士はいないんだ……。


 その後、俺達は電車に乗り、家路についた。駅を出ると、家の方向が俺達とは正反対だというアンネは一人で去って行った。少しの間、俺は紅葉と並んで歩いた。すっかり日は暮れて、あたりは真っ暗だった。


 紅葉はテレーズがいなくなったことにまだ落ち込んでいるようで、ずっとうつむいたまま何も言わなかった。やがて、俺達は別れ道に差しかかった。


「……じゃあ、私の家はこっちだから」

「ああ」


 紅葉は早足で俺から離れて行った。


 あいつとはもう、関わる理由はないんだよな……。一人、家に向かって歩きながらぼんやり思った。そう、俺達が今まで接していたのは、あくまでテレーズとアーサーの問題があったからだ。あいつらがいたから、紅葉は不本意ながらも変態の俺と関わってたんだ。それが解決したから、もう俺と紅葉は口を利くことなんて、ないんだ。この先ずっと……。


 そう考えると、ふいに胸に鈍い痛みが走った。あいつ、俺のこと変態だってさんざん馬鹿にしたけど、自分だって大概だよな。周りに嘘ついて、必死に自分を大人だってアピールして、でも、本当はすごくガキだ。見た目も、メンタルも、趣味も、何もかもガキで、あやうい。なんだかほうっておけない気になるような……。


 と、そのとき、俺は上着のポケットに小さくて丸いものが二つが入っていることに気付いた。なんだろう。取り出して見てみると、それは二枚のメダルだった。表面には絶叫王と刻印されている。


 そうか。あいつらちゃんと四つの絶叫マシンを全部制覇したんだな。これは、その記念のメダルなんだ。アーサー達が絶叫マシンを楽しんでいる姿を想像すると、ちょっとほのぼのした。もうあいつらいないけどな……。


 だが、そこで、それが二枚あるという事実に気付いた。一枚はアーサーのものだが、もう一枚はテレーズのものだ。それがこうして、二枚とも俺の手の中にある……。


 返そう。これは、一枚は紅葉のものだ。渡しにいかないと。俺はそう考えると、すぐに来た道を引き返し始めた。全速力で走って。

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