第39話 世界の中心で愛を語る

 ここはかつて世界の中心のあった地、ブレード大陸。今やその面影もなく、地は荒れ果て、河は干上がり、山は崩れている。


「いやぁ……酷いな」

『ここは激戦区でしたので。我らの同胞もここで多く命を散らしました』

「ふ~ん。ま、まずはこの地を復活させるとしよう」


 リクトはおもむろに地面に手を付く。


「ん~……、スキル【再生】」

『『『『はぁっ!?』』』』


 リクトを中心に凄まじい速度で緑が広がっていく。干上がった河には水が流れ魚も泳いでいる。崩れた山は元通り再生し、小動物が飛び回る。

 このブレード大陸から失われたモノは人間と都市のみだ。


『な、何と言う力……! 魔神様より凄いのではっ!?』


 その声にリクトはこう応える。


「誰が誰より凄いとかさ、小せぇよ」

『え?』

「誰だって誰かより優れた所はあるし、劣る所もある。だから皆助け合い、仲間を集い、力を合わせより良い環境を求め生きるんだ。俺だってこんな力はあるけど本当は誰よりも働きたくないし、のんびり暮らしたい。な? 労働意欲では俺は最底辺だ」

『しかし……生きる為には働かないと……』

「そこで助け合いだ。俺は働く環境を作れる。お前らは働く。要は各自にあった役割分担ってやつよ。人一人が出来る事なんてたかが知れてんだ。だから俺は俺の為に働いてくれる奴は差別しないし、認める。それが魔族だろうと獣だろうと差別はしない」


 かっこよく言ってはいるが、要はただ働きたくないだけである。しかし、これまで暗い世界で殺伐とした世界で生きてきた魔族達にはその生き方は眩しく映った。


『グレマンティス様が認めるわけだ……。暗くじめじめした魔界を出て本当に良かった……。リクト様、我ら魔族一同、生涯リクト様に従うと約束しましょう。なので……我らをどうか導いて下さいませ……』

「ああ、任せておけ。さあ、これから皆が暮らす大都市を建設しよう。なにか希望はあるか?」


 魔族が次々と要望を口にしていく。


『私は陽の当たる世界に来たら農業を始めようと思っていました!』

『私は料理を振る舞いたいです!』

『私は鍛冶をしてみたかった!』

『私は……』

『私は……』


 リクトはそれらを全て聞き入れ、頭の中に都市をイメージしていった。


「ふむふむ。魔界ってのは生きづらそうな場所だったんだな。どれも地上では当たり前に行われていたものばかりだ。欲がないな、お前たちは」

『欲ですか。欲ならありますよ?』

「ほう? 例えば?」

『……リクト様との子が欲しい……とか?』

「それは既に決定事項だ。半年後に追加が来るまでお前たちは毎日俺に抱かれる。魔族、魔人両親な? 毎日俺の愛をたっぷり注いでやるよ」

『『『『ありがとうございますっ!!』』』』


 方針は決まった。まず都市の中心部にリクトの暮らす家としてツインタワーを据える。それを中心に線路を敷き電車を走らせる。中心部を商業区とし、商店や料亭、酒場などをメインにする。そしてそれを囲むように、居住区、生産区、農業区、娯楽区と配置し、電車で繋ぐ。町は緑を生かしたのどかな造りにした。都会的にしようとも思ったが、あれはいかん。息がつまりそうになる。

 怠惰に暮らす為にはリラックス出来る田舎的な環境が一番なのだ。


 リクトは消えた神から授かった力を惜しみ無く使い、少しずつ調整を加え、三日で大都市一つを作り上げた。そしてこの地にリクトの領地から民を大移動させ、人間界での全ての民がこのブレード大陸へと集まる事となった。


「り、リクト? 本当に大丈夫なのよね?」

「ああ、大丈夫だよ母さん。皆良い奴らだよ。魔族達もさ、暗い世界で辛い生活を送ってきてたんだよ。まぁ……お互い大勢の命が失われたけどさ、失われた命はまた増やせばいいだけ。今度は種族関係なくさ、お互いに助け合って生きていけばいいんだよ」

「……リクトが言うなら大丈夫なんでしょうね。何かあったらリクトが許さないだろうし……わかったわ」


 最初は人間も魔族もお互いどう接して良いかわからず距離が開いていた。だが次第に語り合うようになり、パートナーを経て家庭を持つ者が現れると、お互いの距離はゼロになった。

 ここに人と魔の楽園が誕生したのである。


 月日はあっという間に流れた。今日は約束の半年、約束通り魔神グレマンティスがリクトの前に再び姿を見せた。


『期待通りの男だった、リクト。素晴らしい街を作ってくれたな』

「ああ、約束だったからな」

『ふっ、約束か。魔神と恐れられた我に引かぬのはお前くらいだぞ、リクトよ』


 魔神はリクトに手を差し出した。


『約束だ。世界の半分、魔界と人間界をお前に任せる。この二つの世界はお前のモノだ、リクトよ』

「そりゃどうも。で、アンタはこれからどうすんの?」

『我か? 我は神界と竜界をいただく。神界のほうは目処がたったが、竜界はまだ手付かずでなぁ……』


 どうやら竜界とはとんでもなく危険な場所らしい。


『我はこれから竜界に行き最後の戦いを挑む。相手は世界の全ての頂点に立つ竜、【世界竜】だ。その力は神を軽く凌駕し、世界一つを軽々と消し去ってしまうほど……。我も神界で神を沢山吸収したがまだ足りぬ。竜界に行き竜を吸収し力を蓄えながら世界竜を狙う。それでも勝てぬかもしれぬがな……』

「諦めるわけにはいかねぇの?」

『無理だ。そもそも魔の者が魔界に押し込められたのも神と竜らの企てた事。許してはおけんのだ』


 復讐ってやつか。難儀だねぇ。


『リクト、お前に我の娘を預ける』

「は?」


 魔神の後ろから小さな女の子が顔をのぞかせる。黒髪ツインテの生意気そうな女の子がそこにいた。


『名を【ウルティマ】と言う。ウルティマ、これからはこのリクトがお前の夫となる。リクトの言う事をよく聞き幸せになるのだぞ』

『え~、やだ~。私は一人でも大丈夫だよ。せっかく自由になったんだし一人でのんびり暮らした~い』


 前言撤回だ。気が合いそうだ。


『わがままを言うでない。我はこれから死地に赴くのだ。後顧の憂いなく向かいたいのだ』

『行けばいいじゃん。パパだって私の強さは知ってるでしょ? 私はパパ以外には負けた事ないし?』


 そこでリクトが声をかける。


「ならさ、俺と戦ってみるかい?」

『はぁ?』


 ウルティマの表情が険しくなる。


「俺が負けたら君は自由にのんびり暮らしてくれて構わない。だが……負けた場合は俺の妻として俺に従ってのんびり暮らしてもらう。受けるか?」

『……パパ、あいつ殺っていい?』


 魔神はニヤリと笑った。


『殺れるならな。では我はその戦いを見届けた後神界へと向かおう。さあ、我の前で力を見せるがよいっ!』


 こうして、リクトは最後の問題である魔神の娘と戦う事になるのであった。

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