第33話 新しい町

 深い森を切り開き、スラムの住人のために作った町。リクトはその町を【ブルーフォレスト】と名付けた。


「よし、では各自に役割を与える!」


 リクトは住人たちに役割を与える事にした。

 まず、戦で怪我を負ってスラムに流れた兵士たちを町の警備兵に取り立てた。彼らは怪我さえなければ一般人よりも強いことは明白。これで治安も問題はないだろう。加えて彼らにはリクトがダンジョンで手に入れたアホみたいに強力な装備品を支給してやった。彼らは泣いて喜びリクトに忠誠を誓った。


 次に老人たちだ。老人たちには若者に様々な知識を授ける役割を与えた。農業だったり鍛冶だったりと自分の長い人生で得た知識を新しい世代に引き継がせる事が目的である。こうする事で手に職のなかった若者たちは職を得ていく。老人たちも若者と関われて人生が明るいものになるだろう。


 次に女性たちだ。彼女らには宿や雑貨屋、料理屋など町にとって必要な施設の運営を任せる事にした。だがいきなりやれと言われても出来ないだろうからリクトはここをリウム母娘に仕切らせる事にした。リウムの母は元メイドだ。任せても問題はないだろう。


 残る少年少女らは孤児院で生きていくために必要な知識を学ばせる事にした。少年らには兵士が戦う術を、少女らは……リクトが自ら教育を施す事にしてある。


 こうして城下町からスラムは消える事となったのである。スラムのあった場所はリクトが更地にし、町長に与えた。どうやら最近旧リンカネット帝国から税金が無いとの噂を聞きつけた民が流入してきているらしい。町に土地が無くて困っていたとか。町長はスラム地区を流入者用の土地に充てるようだ。


 そしてスラムは城下町だけにあるわけではない。リクトは数ヶ月かけ各町を回り、スラムで暮らす住人たちを集めて回った。町はスラムがなくなりさらに栄える。ブルーフォレストはスラムからの移民が生きる道を得て栄える。全てが良い方に転がっていった。


 加えて森を切り開いた際に発見したダンジョン。リクトはこのダンジョンを冒険者ギルドに報告してあった。そのため、町には臨時の冒険者ギルドが設置され、数多くの冒険者たちが富を求めてやってくるようになった。今やブルーフォレストは領内一の繁栄を遂げていた。


「まさかダンジョンが落ちてるとはなぁ……。スタンピード防止にミハルとチグサに定期的に狩らせるとしよう」


 この盛り上がりに商業ギルドや薬剤ギルド、魔法ギルドや鍛冶ギルドとあらゆるギルドが利益を求めてギルドの支部を出したいと懇願してきた。さらに教会も神殿を建ててくれたらすぐにでも司祭を送ると言ってきたのでリクトはブルーフォレストの隣にロックハンドと言う地区を作り、そこをギルドや教会関連の集まる特区とする事にした。

 リクトは教会に送る神殿を前世の知識からパルテノン神殿を模し、プレゼントしてやった。この神殿の出来映えにいたく感動した枢機卿は教会本部から聖女をこの地に送ってきた。


「はじめまして、リクト様。私は聖女と呼ばれている【ジャンヌ・ダルク】と申します」

「よく来てくれた。歓迎しよう。お父上にも礼を」


 そう言い、リクトは有り余る資産から多額の寄付を送る。


「こ、こんなに!? 多過ぎますわっ……」

「気にしないでくれ。聖女を寄越してくれた礼だと思って欲しい。これからも教会とは深く付き合っていきたいのでね」

「その信心深さ……、きっと神も祝福してくださるでしょう……。リクト様に最大級の敬意を……」


 そこでリクトは最近神に会っていない事を思い出した。戦を終わらせスラムの住人も助け、さらにリンカネットからの難民も受け入れている。別にもう欲しい力は無かったが、神が現れない事に僅かな疑問を覚えた。


「……現れないって事はまだまだ足りないって事なんだろうな」

「どうかされましたか? リクト様?」

「いや、なんでもないよ、ジャンヌ」


 これを偶然と言うのだろうか。その日の深夜、リクトは再び夢の中で神と対面した空間にいた。


《ここは……神様?》

《神は死んだ》

《……は?》


 突如後ろから声を掛けられ、リクトは素早く声の主から距離をとった。


《何者だっ!》

《初めまして、田中 陸人》


 目の前にはいつもの神ではなく、若く禍々しさを感じる男が立っていた。


《……誰だ》

《それを今君が知る必要はない。ただ、神は死んだとだけ理解しろ》

《死んだ? あの爺さんが? ってか神って死ぬのか?》


 男は笑った。


《死ぬさ。普通の殺し方では無理だがね》

《……俺を呼び出した理由はなんだ》

《くっくっ……。話が早いな。どうやら頭の回転が速いらしい》

《御託は良いんだよ。要件を言え》


 男は漆黒のマントを開いた。そのマントの下にあった手には神の首が握られていた。


《神界は我が支配下に入る。今日はお前を勧誘にきたのだ、田中 陸人》

《勧誘?》

《そうだ。田中 陸人よ、我の仲間となれ。なるならば世界の半分をお前に与えようではないか》

《うさんくさ。別に与えてもらわなくても欲しくなったら自分で手に入れるから必要ねぇよ》

《くくくくっ、はははははははっ! 欲しくなったら……か。欲がないのだな》

《んなモン手に入れた所で面倒なだけだろうが》


 男は神の首を手のひらに乗せ魔法で燃やし尽くした。


《気分が良い。特別だ、先ほどは知る必要はないと言ったが……お前にだけは我が何者か教えてやるとしよう》

《……いや、知りたくない。出来れば関わりたくないんだが》

《くくくっ、そう言うな。我は魔神。魔神【グレマンティス】。神界と魔界を支配する者である》


 あぁ、魔神とか……もう面倒事しかない気がする……。


《この世界は神界、竜界、魔界……そして人間界の四つの次元が重なり構成されておる》

《……》

《竜界はまだ危険過ぎるのでな。次は人間界を支配しに行くつもりだ。今から六年後、神と戦い力を減らした我が子らが再び力を取り戻す。そうしたら次に狙うは人間界だ。良いか、今から六年後、人間界は地獄の炎に包まれるだろう。侵攻前にもう一度尋ねにくる。賢いお前ならどちらの味方につけばいいかわかるはずだ。では六年後また会おう……》


 そこでリクトは謎の空間から追い出された。


「っはぁっ! はぁっ……はぁっ……!」

「リクト様? どうなされたのですか?」


 隣で眠る聖女を起こしてしまったらしい。リクトは全身に嫌な汗が浮かび上がっていた。


「……ジャンヌ、お前……神の声は聞こえるか?」

「え?」


 リクトは真剣な表情で聖女にそう問い掛けるのであった。

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