第18話 国王が来た

 リウムと母を新居に連れて行き数日、どこで嗅ぎ付けたのかは知らないが、俺の家に国からの遣いと名乗る一団がやってきた。


「この城の主はお前か? ずいぶん若いな」

「城じゃない。これは少し大きい家だ。国からの遣いとやらがいったい何の用だ?」


 遣いの頭と思われる男が一枚の紙を俺に突きつけて言った。


「罪状、国家反逆罪。お前を逮捕しにきた。無駄な抵抗はしない方がいい。お前の財産は全て国が差し押さえる。屋敷、妻、子……全てだ」


 何を言ってるんだろうな、このバカは。


「従わない場合は?」

「その時は残念だが我が【ギュネイ王国】の兵全てがこの城を取り囲み、一人残らずこの世から消え去るだろうな」

「ふ~ん。従う気はないね。寝言は寝てから言うもんだぜ? 雑魚がいくら集まっても俺には勝てねぇよ」

「……それが答えで良いのだな? 今ならまだ間に合うぞ?」

「うっせぇよ、バ~カ。狙いはわかってんだよ。お前んとこの王が御手付きして産ませたガキが欲しいんだろ? 誰がやるかよ。あいつは俺が守る」


 男は笑った。


「ふっ……くくくくっ! ふはははははっ! おめでとう、これでお前は立派な犯罪者だ。今日はこれで失礼しよう。この先ゆっくり休めるとは思うなよ? 我らは常に狙っているのだからな?」

「いつでも来な。来たらたっぷり後悔させてやるよ。誰に手を出したか思い知らせてやろう」


 男は言質は取ったと言わんばかりに上機嫌となり、王都へと帰って行った。

 奴らが離れた所でリウムと母親が隣の部屋から入って来た。


「お尋ね者になっちゃったわね?」

「どうって事ねぇさ。それより……今日から三人で寝るぞ?」


 そう告げるとリウムが顔を真っ赤にし俺に寄ってきた。


「つ、ついに私もリクトにヤられるの?」

「違うわ! 離れてたら守れねぇだろうが。まぁ……別に離れてても奴らはこの敷地内には入れないだろうがな」

「なんで?」


 俺は二人にこの家の説明をした。


「まずあの入り口の門。あれは俺が認めた者以外が触れるとトラップが発動する様になっている」

「トラップ?」

「ああ。無断であの門に触ると足元にゲートが開き、ダンジョンの最下層へと御招待」

「え、えげつないわね!?」

「そうか? 強けりゃ帰還できるし優しいもんだろ。次に、外壁だ。あれをよじ登った瞬間、これまたゲートでダンジョンの最下層へと御招待」

「リクトダンジョンの最下層にやけに拘るわね!?」

「あそこに送るのが一番楽なんだよ。俺は戦わなくても良いし。それに……ダンジョンにはいつも世話になってるからさ。たまには餌を与えてやらないと」

「餌って……。と、とにかく! 私達はあなたの寝室で暮らせば良いのね?」

「ああ。全てに決着がつくまでな」


 その日から数多の刺客が送られてきたが、皆敷地内に入る事なくダンジョンの最下層へと送られていった。刺客では無理だと判断した奴らはついに軍まで投入してきた。だがどうやっても敷地内に突入できず、その内誰も来なくなった。

 おそらく黒幕は後継者達。つまりはリウムの腹違いの兄や姉が犯人なのだろう。もし黒幕が王ならすぐに全ての兵を率い、ここを取り囲んだはずだ。誰も来なくなったという事は、つまり自分らで動かせる兵が尽きたか、王にバレたかのどちらかだろう。


 その間俺はと言うと、もちろん室内にこもりリウムの母親を毎日抱いていた。散々俺達の行為を見せられたリウムも自らしたいと申し出たため、最近はもっぱら三人で楽しんでいる。


「良かったわね、リウム? 今日も沢山してもらえて」「うんっ、お母さん! お母さんだけずっとこんな気持ち良いコトしてたんでしょ~? ズルい!」

「ふふっ、これから先まだまだ時間はあるんだから慌てなくてもいっぱい……ね?」

「うんっ!」


 その一ヶ月後、やたら豪華な一台の馬車がやってきた。中庭で遊んでいた子供たちがそれを見つけ母に報告したらしい。


「リクト、王家の紋章が入った馬車が来たわ……」

「そうか、じゃあ行ってくる」


 俺は門の前に行きその馬車を見た。俺が門の前に来たのを見て馬車から三人降りてきた。


「君がこの城の主か?」

「城ではありません、ただの家ですよ。初めまして、国王様」


 俺は一応軽く会釈をした。多分王冠を被ってるから王に違いないだろう。俺は王の顔なんて知らないからな。


「……すまなかった」

「はい?」

「ここにこのバカ息子とバカ娘が兵や暗殺者を仕向けただろう? 私に勝手にな……」


 今度は王が頭を下げてきた。


「被害は如何ほとか知らぬが、補償しよう」

「被害なんてないですよ。むしろそちらが被害を被ったのでは?」

「被害がない? あれだけ連日攻めこまれたのにか?」

「ええ。来た奴らは全員死地に転送しましたので。この門と外壁に触れたら飛ぶ様にトラップを仕掛けてあります。さすがに王に飛ばれては困るので、今日は俺が出て来ました」

「重ね重ねすまぬ。居るのだろう、ここに私が粗相をした女が……。子供を産んだとこいつらから聞いた」


 俺は誤魔化そうと思ったが意味はないと考え話した。


「いますよ。それがなにか?」

「そうか。ではもう一つだけ。今ここで宣言しておく。その子には継承権を与えない。これでもう自由だ。孕ませておいて身勝手な事は承知の上だが、いらぬ争いをしたくはないのだ」

「なるほど。では次の王はそのお二人のどちらか……ですか?」


 王は困った表情で俺に言った。


「いや、他にもおる。こいつらは今回の件を企てたバカどもだ。詫びとして連れてきた。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「「そんなっ!」」

「いや、別にいらないんだけど……」

「この欲にまみれたバカ二人からも継承権は剥奪した。今後このような事はさせんと誓おう。この城も家だと言い張るなら家と認める」


 本当に家なんだけどなぁ……。


「……お主は正しい事をした。非はこちらにある。この件はこのバカ二人をここに置くことでどうか許して欲しい……」

「だから必要ないと……」

「ならぬ。じきにこの二人の母親も来る。お主が必要ないと思うならこの家から叩き出してやれば良い。これで手打ちにしてもらいたいのだ。私は争いを好まぬ」

「……わかりました。俺も面倒事は嫌いでして。二度と関わらないと言うならばこれで手打ちにしましょう」

「すまなかった」


 王は二人の子をこの場に残し王都へと引き返していった。


「父上っ!」

「お父様ぁぁぁぁぁっ!」


 王子と王女が馬車に向かって叫ぶが、馬車は一度も止まることなく離れて行くのであった。

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