第16話 闇オークション

 馬車に揺られる事数時間、体感では深夜零時。馬車がようやく止まり、俺達は黒服に手を引かれながら建物の中に入った。


「到着いたしました。では目隠しを外させていただきますね。ああ、それと……」


 黒服は目隠しの代わりに仮面を差し出してきた。


「身元がバレる事を防ぐためです。会場ではこちらをご使用くださいませ」

「徹底してますね」

「はい。なにせ非合法ですので」


 俺達は仮面を被り会場入りした。会場内は薄暗く、客は全部で二百人前後。どこかライブハウスを思わせるつくりだった。

 全員が入ると扉が閉まり、奥にあるステージに照明があたる。


「皆様お待たせいたしました。これより数ヶ月ぶりのオークションを開催させていただきます。通常毎月行っておりましたが、今回はよりよい品を集める為に日をおかせていただきました。お待ちいただいていた皆様にまずは感謝を」


 会場から拍手が巻き起こった。


「ありがとうございます。それではさっそく競りに入りましょう。皆様、財布の紐はゆるめておいて下さいね?」


 会場から笑い声があがった。


「店長、落札するためにはどうすれば?」

「ん? 手元に番号札があるでしょう? まずはそれを上げてから、反対の手で金額を示すのよ。人差し指一本が同額上乗せ、二本で二割増し、親指なら倍額ね?」

「なるほど。それと店長?」

「なぁに?」

「暗闇だからってズボンの中に手を入れないで下さいよ……」

「あ、あはは……。暗いからつい……。こう言う雰囲気って興奮しちゃうでしょ?」


 わからないでもないがやめて欲しい。隣の婦人と思われる方がそわそわし始めてきたじゃないか。全く……。


「では最初の品から……」


 俺は品物を見て唖然としていた。なぜならほぼ全てが俺が店長に売り払ったログインボーナスの品だったからだ。


「……店長、まさか……」

「あはは、バレたか。そうよ、リクトの持ち込んでくる品はかなり珍しかったからね? 今じゃコレクターたちに大人気なのよ。たんまり稼がせて貰ったわ」

「……まぁ、店長に売ったものだし俺は何も言いませんがね」


 しばらく眺めているが特に欲しい品がない。変わった事と言えば隣の婦人の頭が俺の下半身にあるくらいだ。……上手いな。

 数発献上したら婦人が俺のジャケットに住所と名前を書いた紙を押し込んできた。どうやら気に入られたのだろう。その内挨拶に行くとしよう。


「さあ、いよいよ本日残り三品となりました!」

「店長、何か欲しいものありました?」

「無いわね。期待外れだったかな。今日は帰りに売り上げをもらって行くだけね」

「そうですか」


 やがてオークションは最後の品となった。


「いよいよラストとなりました。ラストは本日の目玉商品……それは現国王の血を引いている隠し子です! 借金に悩む母親に売られ、奴隷になっていた所を我々が探しだしました! この商品、未だ未使用!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉっ!」」」」


 会場のボルテージが一段上がった。


「これが目玉かぁ。つまんな……。リクト、私先に帰るわね?」

「あ、はい」


 俺はステージに立たされているボロを纏った少女に目が釘付けになっていた。


「母親曰く! 城で働いていた際にお手付きにあったそうで、その時孕んだとの事。孕んだ母親はすぐに城を離れ、国内を点々とさ迷っていたとか。理由はわかりますね? 捕まったら母娘は殺されてしまうのです。誰とは言いませんがね? しかし、この娘に罪はありませんっ! どうか皆様の優しいお心で救ってあげて下さいませ! では本日ラスト……スタートします! スタートは虹金貨一枚からです!」


 しかし誰も手を挙げなかった。それはそうだ。もし国にバレたら我が身すら危うい。おそらくあの娘を亡き者にしようと王位継承者たちが暗殺者を送り込んでくるのだろう。


「どなたかおられませんか!」


 俺は……立ち上がった。


「……虹金貨十枚」

「「「「なっ!?」」」」

「おぉぉぉっ! 虹金貨十枚出ましたっ!! 他にいらっしゃいませんか?」


 会場にどよめきが走った。


「あいつ……バカか?」

「暗殺者が恐くないのか……」

「それか筋金入りの愛好者か……どっちにしろ関わりあいにはなりたくないな……」


 いつの間にか隣の婦人を含め数人が消えていた。商品に興味がなかったのだろう。

 競りはそのまま終わり、俺は品物を受け取る為に小さな個室に案内され向かった。


「ご購入ありがとうございます」

「いや、構わないよ。じゃあ虹金貨十枚だ」

「はっ。……確かに。それでは品物を。ああ、そうだ。お帰りの際は扉の外にいる者に声をお掛け下さい。この会場から少し離れた場所まで馬車で送りますので」

「ああ」


 途中で捨てる気か。まぁ【ゲート】があるからどうでも良いが。

 

 俺は室内で購入した少女と二人きりになっていた。


「君、名前は?」

「……リウム。……十二歳」

「リウムか。俺はリクトだ。歳は十五。よろしくな?」

「……はい、ご主人さま……」


 そう言い、少女はボロ布を捲し上げた。


「ん? どうした?」

「……変われたらこうしろって。……私にはこれしか価値がないからって……。私を買った目的は……これでしょ?」

「いや、違うよ。それと、俺の事はリクトで良い。ご主人さまなんて柄じゃないしな。あと、身体は無理に寄越さなくて良いよ。心からしたいと思った時にまた見せてくれ」

「あ……」


 俺はリウムの頭を撫でてやった。


「母親がどこにいるかわかるか?」


 リウムはこくりと首を縦に動かした。


「辺境にある村に行くって言ってた……。もし、上手く逃げ出せたら来なさいって……」

「辺境にある……村? まさか【グラート村】?」

「……っ!? ……知ってるの?」

「マジか。そりゃ俺が住んでた村だ。今は少し離れた所に屋敷を構えているけどな」


 リウムは俺にしがみついてきた。


「お母さんを助けて!」

「お前を売った母親だぞ?」

「……私が売ってって言ったの……。逃げる為にはお金が必要だから……。私は……この身体を使って買った人を騙して逃げるつもりだった……」


 幼いくせにやけに頭が良いな。


「リクトは……手を出してこなかった……。リクトなら私と……お母さんを助けてくれるかもって……! 図々しい……よね」

「ああ、ちょっとな。でも……自分を犠牲にしてでも母親を助けたかったんだろ? その心意気は気に入った。わかったよ、ここを出たら母親を探しに行こうか」

「ほ、ホントッ!?」

「ああ。母親も一緒に俺の屋敷においてやるよ。そこで親子仲良く暮らせば良いさ」

「あ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 リウムは泣き崩れた。身体を使う云々は本当は嫌だったのだろう。今リウムは僅かな幸せに向かう希望を手にし、安堵から涙を流したのだ。

 俺はリウムが泣き止むまで待ち、馬車で落ち着いたリウムと会場を後にした。


「じゃあ村に行こうかリウム。手を」

「手? 繋いでいくの?」

「ああ、魔法でな。【ゲート】」

「わぁっ!?」


 目の前の空間に穴が開き、そこから村の景色が見える。


「な、なに……これ? すごいっ!」

「凄いだろう? 俺はこう見えて大魔法使いなんだよ」

「私と三つしか違わないのに?」

「はは、そうだ。俺はガキの頃から鍛えてたからな。さあ、行こうリウム。お母さんを探しにな?」

「あ……うんっ!」


 俺達はゲートをくぐり、村へと帰るのであった。

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