第8話 臨時騎士団員

 騎士団は基本二人一組で動く。臨時団員となった俺の今日のパートナーは濃厚接触してきたあの女騎士だ。

 女騎士は村の周囲の巡回警備と称し、村から離れた人気のない場所に俺を誘い込み、おもむろに背後から抱きつく感じでズボンに手を入れてくる。


「どうしたんですか?」

「……わかるだろう? 実はリクトも期待してたんじゃないのか? こんなに脹らませておいて……」

「勝手に盛り上らないで下さいよ……。仕事はどうするんですか?」


 彼女は俺のズボンを下ろしながらこう言った。


「それならもう一組の奴らがやってるさ。私の今日の仕事はリクトに騎士とはなんたるかを教える事だからな。さあ、たっぷりと教えてやろう……こいっ、リクト!」

「こいっ……じゃねぇっすよ全く……」


 それから俺は昼近くまで騎士とは何かをたっぷりと教えて込まれるのであった。

 そして午後……。


「午後は訓練の時間だ。私達騎士は強くあらねばならないっ! 騎士が犯罪者に負けるようでは話にならないからなっ! わかったら素振り開始っ!」

「「「「はいっ! いっち! にぃっ! さんっ……」」」」


 騎士達は真面目に剣を振っていた。隊長が俺に話しかけてくる。


「リクト、君剣は?」

「握った事すらないですね。と言うか、俺には魔法があるので……」

「ふ~ん。けど……魔法は魔力が切れたら何も出来なくなるでしょ?」

「ですね。けど切れた事ないので。俺の今の総魔力量は五十三万です」

「ご、ごじ……そんなにあるの!?」


 幼い頃から鍛えに鍛えた賜物だ。


「にしても……、何で騎士団なのに隊長なんですか? 普通団長じゃ……」

「ああ、それは私達は騎士団に所属してある一つの部隊にすぎないからだよ。私はこの隊を任された隊長なのよ」

「なるほどねぇ……」

「と言っても私も新人なんだけどね。国は強い騎士を王都から離したくないのよ。そこでここみたいな辺境には騎士に成り立ての人が送られるのよ。……代わりはいくらでもいるからってね。失礼よね~」


 つまり役立たずと言うわけだな。素振りを見た所、こいつらどうやって騎士になったんだという程酷い有り様だし、たった百回素振りしたくらいで既にバテバテだ。辺境に送ったら辞めるだろうと思われたんだろうな。


「た、隊長っ! 休憩っ……休憩お願いしますぅっ!」

「ば、バカ者っ! まだ百回しか振ってないじゃないか! 残り九百! 休まず振りなさいっ!」

「「「「無茶言うなぁっ!!」」」」


 こんな奴らのために税金払ってるかと思うと泣けてくるな……。


「隊長、リクトは素振りしないんですか?」

「彼は魔導師だからな。剣は必要ないだろう」

「ずるいっ!」

「ずるくないわっ!? 魔導師舐めてんのか!?」


 つい突っ込んでしまった。


「隊長、なら模擬戦しましょうよ~。私達対リクトで」

「はぁ? 何でだよ?」

「ふむふむ……。リクト、やってみる?」

「はぁっ!? やだよ!」


 隊長が俺にもっともな意見を述べはじめた。


「私達もさ~、いつかパートナーとなって一緒に働くわけじゃない? そんな時相手の力量を知らなくちゃ話にならないでしょう?」

「いや……(力量ならもう十分わかってるわ。お前ら全員素人に毛が生えた程度だろうが)」

「私達も一応は騎士団の入団試験を突破してるのよ」

「はぁ……(ゆるゆるな試験だな。国は真面目に試験した方が良いぞ、うん)」

「私達はリクトの力量を知らない。リクトがどれだけ出来るか見せてくれないかな?」


 全くもって面倒臭い。知ったら知ったで怠ける気満々だろう、お前ら。


「あ、家の家訓で女性には手をあげるなとありまして」

「はっはっは! 私達騎士は騎士になった時点で女を捨てている。羞恥心は行動や判断を鈍らせるからね! 気にする事はないよ」


 もうやだこいつら……。


「さあ、一対五の乱戦だ。リクト、私達五人を相手にどこまでやれるか見せてみろ!」


 数分後……。


「くっ! 殺せっ!」

「お前ら弱すぎだろ!?」


 魔法一発。それで五人は地に伏せていた。


「魔法を使うなんて卑怯だ!」

「魔導師が魔法使わなくてどうすんの!? バカなの!?」

「ぐぬぬ……!」


 五人は地に伏せられた状態でさらに麻痺を受けている。


「さてと……」

「お、おい……。ズボンを下ろして何をしている? あ、こらっ! 脱がすなっ!」

「敗者には罰をあたえないとね。俺に手間をかけさせた罰だ。お前たちに俺がどんな奴か教えてやるっ!」

「ま、待てっ! あ……」


 俺は夕方までこの五人にたっぷりと俺がどんな男か身体に教え込んだ。

 そして今詰所に作った風呂に全員で浸かっている。


「良い訓練だったよ、リクト。明日からこれをメインの訓練にしよう!」

「「「「賛成っ!」」」」

「懲りないな、お前たち……」

「はっはっは! この訓練は体力が上がるようだ。この調子で鍛えれば私達も強くなれるだろうっ!」


 団員の一人が隊長に言った。


「隊長~、夜の訓練も希望しますぅ~」

「な、なにっ!?」

「おお、自ら訓練を希望するとは……。私は嬉しいぞ!」

「ちょっ、帰らせてくれよっ!?」

「なぁに、日が変わる前には帰らせてやる。さあ、お前たち、訓練の続きだ! リクトをベッドまで運ぶぞ!」

「「「「はぁ~い」」」」

「ちょっ、やめ……!? 潰れるからそこ握んなぁぁぁぁぁっ!?」


 それから俺は深夜までミッチリ訓練に付き合わされた。


「リクトくぅん……、明日は私がパートナーだからね~? 遅刻しないで来てね?」


 俺は深夜帰宅し、直ぐ様行動に移った。


「え~っと……宛先は騎士団長様……っと。あなたの派遣した騎士は善良なる村民を無理矢理臨時団員にし、訓練と称して私の身体を弄んでおります。何とかしてください……と。こんなものかな」


 俺は彼女らの上司である騎士団長に手紙を書き、解放を願った。


 一週間後、リクトの手紙が騎士団長に届いた。


「あ……あぁぁぁぁあのバカ共がっ! 臨時団員だと!? 勝手に制度を変えおって……! 副団長っ!」

「は、はいっ!」

「馬を用意しろっ! 私は今から辺境の村に向かうっ!」

「は、はい? 今からですか?」

「当たり前だろう! あのバカ共を再教育してやるっ! 私がいない間はお前が団を率いよっ!」

「わ、わかりましたっ!」


 こうしてまたリクトは怠惰な生活からかけ離れていく事になるのであった。

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