7 待ち合わせ

 放課後。集団の中にいる自分を演じることから解放された、束の間の一人の時間。

 真波は玄関が見える一階の廊下で待ち合わせしていた。下校していく生徒の集団が騒がしく横切っていく。

 待っている相手は柚果と詩織ではない。二人には用事があると言って先に帰ってもらった。何かと理由をつけて毎日一緒に帰らないようにすれば気を遣う必要はなくなるが、今日みたいに「えー、なに男子ー?」とからかわれるのも面倒である。放課後に用事をともにするような女子の友達がほかにいないのも事実なので、そう疑われるのも仕方ない話なのだが。

 待ち合わせ相手はまだ来ない。「ちょっと顧問の先生に呼ばれてるから、悪いけど待ってて」と言われたが、「ちょっと」は真波が思っていた「ちょっと」ではなかった。それならそうと、ファンワーを一回分くらいプレイできるだろうかと、スマホを取り出す。

 マナーモードのままイヤホンは挿さずに、アプリを立ち上げる。学校へ向かう電車の中で、バトルはかなりこなすことができた。この一戦をクリアした次が、第一章の最後である。

 バトルに勝っていくと、ストーリーが進む。プレイヤーの視点となるキャラクターは、仲間とともに四つの鍵を探しながら城へ向かう。出会う敵も同じく鍵を探しており、鍵を巡ってバトルが始まる。自分も仲間も敵もみんな、元々は同じ国の兵士だったという設定だ。自国が壊滅した際にみんな記憶を失ってバラバラとなったために、無作為に敵味方に分かれてしまった。ただし、倒した敵は仲間にすることもできる。

 テレビゲームと今回のスマホ版では、バトルの操作方法はまったく異なっている。幼いころにやったテレビゲームは、十字キーやA・B・X・Yキーでキャラクターを操作して攻撃するオーソドックスなものだった。今回のスマホ版は十字キーもA・B・X・Yキーもない。操作は非常にシンプルではあるが、バトルの攻略は、素早いコマンド入力と戦略がキーとなる。

 バトル開始時、自分のキャラクターと味方のキャラクターは画面の中央に固まっており、その周りに敵のキャラクターが配置されている。バトルで使用できる味方の人数は限られており、自分を含んで最大五人。敵はそれ以上の場合もある。戦いの火蓋が切られると、プレイヤーは自分や味方のキャラクターをタップして、アクションを選択しなければならない。選択肢は三つ。『攻撃する』、『防御に徹する』、『味方を守る』。

 『攻撃する』を選択し、続けて攻撃したい敵をタップすると、あとは自動でキャラがその通りに動く。『防御に徹する』を選択するとその場で防御の体制をとるが、体力が減った状態であれば経時的に回復する。体力メーターは、常にキャラクターの近くに表示されている。『味方を守る』を選択して守りたい味方をタップすると、タップしたキャラに駆け寄って、敵の攻撃を防いだり、反撃したりする。『味方を守る』では、守るキャラと守られるキャラの合わせ技が発動することがある。アクションはバトル中に何度も変更することができる。

 敵も同時に三種類のアクションを駆使してくる。そのため、プレイヤーは素早く味方の全キャラにアクションを入力しなければならない。常に戦況を見て、タイムリーにアクションを変更することも必要だ。体力や攻撃力はキャラのレベルやロールによって異なるから、どのキャラクターでどの敵を攻撃するか考えていなければならない。

 自分のキャラクターの体力がゼロになるとゲームオーバー。バトルはやり直しとなる。自分は生き残ったが、味方がやられた状態で勝利した場合、やられた味方は死となり、以降のバトルやストーリーから消えてしまう。真波は今のところ味方を死なせていない。

 真波は初期のメンバーを気に入って、バトルには毎回同じメンバーで挑んでいた。横田と橋村の話によると、出会う仲間や敵はすべて、ファンワーをプレイしているユーザーが作成したキャラクターとのことである。すなわち、真波の味方のメンバーも誰かが作ったキャラクターであり、真波のミランダも、誰かの仲間になったり敵になったりしているのであろう。

 画面に浮かび上がった、『WIN』の文字。大分この操作方法にも慣れた。味方がさほどダメージを受けることなくクリアすることができた。

 まだ待ち合わせ相手が来る気配はない。それならと、第一章の最後の戦いを始めた。

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