[ 宿り木 ]


 アタシはキミに寄りかかる

 キミはびくともしない

 キミにそっと頬ずりする

 頬がちょっと痛い

 キミの中を命が流れる

 キミは身体を揺らす

 アタシは耳をそばだてる

 命の音を聞き取るために

 キミの中を命が駆けめぐる

 キミは腕を精一杯伸ばす

 キミは命をほとばしらせる

 アタシはそれを分けもらう


 アタシに物心がついたころ

 キミは、とっても大きかった

 アタシだって、とっても大きくなったけど

 キミはもっと、もっと大きい


 アタシは、キミに寄りかかって生きてきた

 キミは、一人でも生きていける


 アタシはもう、長くはない

 この冬を越すことはない

 それがアタシの運命さだめだから

 アタシの命は終わらない

 ここに子供たちが根付くから

 それがアタシの輪廻りんねだから


 夜霧がアタシとキミとを包む

 アタシは、キミを抱きしめる

 もう、キミのほとばしる命を受け取れないけど

 せめて、最後の思い出に、と……


 暖かい腕に抱かれ

 アタシの頬が水に濡れる

 もしかして、キミ、泣いているの?

 アタシなんかのために

 何もしてやれなかったのに


 涙を流してくれたキミ

 子供たちをよろしく。

 アタシの命たちをよろしく。




 楠の木よ。


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