第十二話 モコの決断
がちゃっ……!
そんな時、ガンツさんがちょうど夕飯をたかりに来た。
いつもの風景なので特に驚くことはないんだけど、今日はちょっと様子が違う気がした。
「よぅ……メル、モコ!飯あるかぁ?」
「……こんばん……は……たべた……ばかり……だけど、平気」
「おぉ……じゃあたのむわぁ!メラとも話あるからな」
「なんだいガンツ。まぁたメシをたかりに来たのかいぃ?」
「ああぁ。だが今日はメシだけじゃなくて、ちょっと相談が……」
「ちょうどいいさ。あたしもガンツとモコに話がある」
私は厨房で夕飯の残りを温めなおしてガンツのために盛り付けをしていると、テーブルに座っているふたりは、かなり真剣な顔をしている。
もう夕飯時なので、晩酌用のお酒を二人に注いだ。
かるいおつまみも出して喜ばれた。これで少しでも気持ちを落ち着けて。こっちにも晩酌の風習はあるみたいだね。
ガンツさんの夕飯の準備が終わってテーブルに並べる。
晩酌のお酒はもういらないので片付けた。酔っぱらうほど飲んだら話ができないからね。
今はガンツさんはご飯を食べていて、私とメラさんはハーブティだ。メイファさんほどじゃないけど、私も最近は上手に入れることが出来るようになったと思う。メイファさん元気かなぁ?
「ふぅ……モコちゃんのハーブティは本当においしくて落ち着くねぇ」
「あぁメシもうますぎるし、あとで俺のも頼む」
「……あり……がと」
しばらくは軽い話で場が和んでいたが、ガンツさんの夕ご飯が終わって、ガンツさんにもハーブティーを淹れていると、話は真剣なほうへ傾いていった。
「それで、本題なんだけれどねぇ?街で不自然な人探しをしている輩がいて、さぐったんだが……」
「あぁ……俺も同じ話だ」
「奴隷の女のガキを探してるって話だ。……おそらくモコちゃんのことじゃないかい?」
「問題は……探している側だな」
「そうねぇ……私が集めた情報だけでも……聖騎士、憲兵、神官がいたよ」
「つまり、王国、街、教会だな。しかし俺が集めた情報じゃもっとやべぇ」
「黒狼、それから神威まで動いてるんだとさ……」
「えぇ!?それって……」
黒狼とは【黒狼暗殺傭兵団】のことで、暗殺のプロらしい。それから神威というのは【神威諜報暗部】という帝国の諜報部なんだって。
なんかすごいのが来ちゃった。
帝国とは、ここから南側に位置する国でサウスザッハブルグ帝国のこと。
大きな山と大森林を挟んだ向こう側なので、対立することはめったにないけど、仲は良くないらしい。
大森林や山を越えて戦争するなんてナンセンスだし、この時代の技術レベルでは海軍を用意するのも難しいみたい。
一応東にある港町から海経由での交易があるらしい。
「ねぇ……モコちゃん。これから先を考えなきゃいけない時が来てるみたいだねぇ……どうしたい?」
……私は、二人だけは守りたい……。
おそらくこれ以上私がここに居たら……二人は牢獄か殺される可能性が高いと思う……。迷惑はかけたくないし、下手したらガンツさんの奥さんや子供にまで手が及ぶ……。
……せっかくできた新しい友達!ぜったい守る!
といっても、まったく力のない私が何かできるわけないので、メラさんのもとを離れるしかないんだけど……。
となると……この国の中枢近くにいるのは危険だ。エネルギーが集まっていて、権力が集中してるからね。
それに建国の歴史から、初代は利益をちゃんと分配するよう国際条約を結んだけれど、現在は周辺諸国の不満が蓄積しているようだった。
まさにこれは石油利権と同じ構図だ。サウジアラビアはあのアメリカでもには逆らえないぐらい強い権力を持っていた。そうなると現国王が他国に対して何らかの権利を主張しているか、エネルギーを用いて何かをしようと考えているか……私たちの召喚にも関係ありそう。
お城の図書室の資料に、魔王に関する情報がほとんどないというか、魔王なんて存在するの?ぐらいな感じだった。
だったら私たちは何のために呼ばれたのか……。
仮に戦争するための戦力して?もしくは技術獲得?
うん。そうだねこっちのほうがしっくりくる。
それから仮に私を探しているとしたら、理由はなんだろ?
一番に思いつくのは【アカシャ禁書】だ……。
そもそも私には何の才能も勇者ですらもなかった。私を価値といえばこれだけのはず……。
でもこの一冊の書物が非常に厄い……。
たしか、譲渡ってできたはず……。
信用できる人ができたら譲渡しよう……。そうしよう。
やっぱり帝国へ逃げて、権力争いの中心から遠ざかる方が、まだ危険が少ないんじゃないかな?ちなみに北は北極のように極寒の地で国はない。東西も海なので実質にげるなら帝国一択だ。
「……私……港へ……行ってみる」
「……っ……そうかぃ……さみしくなるねぇ」
「うぅ……モコと会えないとうちのも寂しがる……」
「だけど、逃げるなら今しかない……モコにどれだけの価値があるかはわからないけど、いまそんなに多勢力が動いてるなら、激化するのは必至だ」
「ああぁ……実はよぉそう思って旅の準備はしてきてやった……こいつをもってけ」
ガンツさんはテーブルの上に、革袋をだした。
どうやらマジックボックスになってるらしく、広い空間の収納が可能なんだって。
すごい!ここにきて私が使えるファンタジー要素だ!!
すごくうれしい!!
「ほぉ、ガンツにしては用意周到じゃないかいぃ?」
「うるせぃ!おれぁモコにはこれ以上嫌な思いをしてほしくないんだ!」
「そらぁ同感だね!絶対安全に送り出してやるさ!」
「……あり……ありがと!!!!」
私はすごくうれしくて、寂しくて、精一杯の感謝で声をだした。
いつもたどたどしくて、ちゃんと喋れないけど、この時だけは本当に本気で声を出した。
「今日はもう遅いから、明日出発だな……」
「そうだねぇ……暗部が動いてるんじゃ夜は危ないねぇ」
「行くなら人ごみに紛れるのがいいから昼間だろう」
「おっけー。あたしからも餞別を袋にいれとくよ」
「……あり……がとう……ほんとに」
「気にすんなって、じゃぁおらぁ今日は帰るぜぇ。ごちそうさん」
「あぁきぃつけて帰りな」
……今日は悲しい事実とうれしいことがあってなんだか疲れた。
明日でお別れなんて、悲しい。でも私のことをすごくよく見てくれて考えてくれる二人の気持ちが、本当にうれしかった。
こんなに良くしてくれるのってメイファさんとこの二人だけだった。ぜったいに守らなきゃ。
メイファさんは大丈夫なのかな……。情報がほしい……。
今日はメラさんと一緒に寝た。
メラさんはぶっきらぼうでがさつだけど、私には本当にやさしくて好き。
時には厳しく指摘してくれるし、本当の私のお母さんみたい。
私の本当のお母さんは、お父さんとは別の男の人と遊んでばかりで家は荒れ放題だったから、メラさんのほうが私のお母さんって感じが強い。
メラさんに抱き着いて、胸に顔をうずめると、いい匂いがして柔らかくてとても安心した。
……
……
……おかあさん
次の日もいつも通り、朝食を用意していた。
今日は最後の日だからなんて、ガンツさん一家も朝から来た。
息子のジンくんが、いかないでって大泣きしていた。
ごめんね。
みんなで最後の朝食を楽しんで、少し休んだらみんなとお別れした。
裏路地のスラム街なので、目立たないとはいえ大人数が路地から出ればバレやすい。私は旅支度を整えて、あとから出ることにした。
「じゃあね!落ち着いたらもどってきなよ!」
「あり……がとう……メラさん……わたし……がん……ばる!」
「……あぁいっといで!無理すんじゃないよ!」
「いって……きます!」
今日はすごく自信があふれてて、イケてる私。
きっと人生で一番、喋れたと思う。
今なら何でもできそうなぐらい!
うん。がんばろう!……会えなくなっちゃうけどみんな友達。大好き。
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