第十話 浮浪者の始まり
辺りが明るくなって朝であることを示す小鳥のさえずりをを聞きながら、私はモソモソと起きた。昨日は野宿だったけど、ここは快適だ。私がどこで寝たかというと……。
そう。ここは【墓地】です!周りには十字架と墓石だらけ。
夜暗くなったら、すぐにここは無人なる。そして墓地の遺体が荒らされないように、魔物除けの魔道具が設置されている。雨はしのげないけれど、大きな墓石があるから風避けにはなる。私にしてはかなり良い選択だったと思った。
さて、日も登ってきたのでこれからどうするか考えよう。
大体なんで私が奴隷商に売られたのか、その前の記憶がない。
確かクラスメイトにファイアボールを当てられて、治療の最中に意識を失ったんだっけ?いや、その後に来た兵士にやられたんだった。
で気が付いたら奴隷紋の焼き小手を押し付けられてた。頬を触ってみると、そこには模様のような痣が腫れたような感じになっていた。
意識するとまだ痛い気がする。
あとは外傷がないか、動けるか身体を確認してみる。
ぐーぱーぐーぱー、ぐーぱーぐーぱー。
にぎにぎにぎにぎ
んーっ!背伸びをして立ち上がる。屈伸をして痛みがないか確認。一応問題ないみたいだね……たぶん。
着ている服は例のメイド服ではなく、奴隷にふさわしいぼろぼろのワンピースだった。
今の状態だけちゃんと把握しなきゃ。
「【ステ……タス】」
===========
名前 : モコ
レベル : 3
クラス : 人間
年齢 : 13
性別 : 女
状態 : 【呪い】【発育障害】【隻眼】【左足損傷】【打撲】
職業 : 奴隷()
称号:浮浪者
HP : 10 / 20
SP : 13 / 13
力 : 1
体力 : 1
器用 : 1
速さ : 1
知性 : 1
運 : -83754
スキル : 【鑑定】(【呪】【禁忌】【詳細】<new!【アカシャ禁書3】 )hidden
【調合】【調理】【生活魔術】
===========
ええー……なんでぇ?運が悪くなってる。
レベルが上がってるけどステータスが下がってる不思議。
大体なんでレベルが上がってるの?なんにも倒してないのに。
【詳細】っていうのも新しく覚えてる。鑑定の詳細って意味かな?生活に関係するスキルばっかりで戦闘はからきしだね私。
あと奴隷落ちした所為か、名前を失ってモコになってる。
もう知ってる人もいないしいいか。
職業が奴隷になってるけど契約者である主人がいないので()になってる。称号もなしからやっぱり【浮浪者】になってるね。
これ見られたら、酷い扱いをされそう。
何もないけれど、自由に動けるのはそこまで悪いことじゃないと思う。前向きに……前向きに……。
まずは川を探そう。
なんか身体が臭うし、おしっこ漏らしたままだったからパンツが気持ち悪い。山の湧き水みたいな匂いが南の方からしたので、そちらに行ってみる。
わぁっ!
そこには緑に恵まれた森の入口近くに絵を描きたいほどの素晴らしい風景がみえた。源泉が森にあるようで、森の奥から川が流れてきている。川は澄んでいて、イワナのような魚が三匹ほど泳いでるのが見えた。
森の入口と川が混じる付近にいくと、城の図書室でみた薬草図鑑にのっている薬草が沢山生息していた。
今は何も持ってないので、以前駅前の本屋さんで立ち読みした【月刊サバイバル】の内容で、できることをやってみよう。これらを採取したり魚をとるには鋭いものが必要だ。私はうる覚えの内容をかき集めた。
確か石を割って、鋭くなった部分を削ってナイフ替わりに……。
小枝を集めて……生活魔術で火を起こして。
私は次にすぽーんと全部その場で服を脱いで、川で洗った。このまま着てたらカブレるし。匂いも気になってたし、いろいろ気持ち悪かったからね。服は焚火の近くに枝を組んで干した。
次は食べ物の確保だね。ちょうどそこにおいしそうなイワナが泳いでいる。取り方は簡単で、堰き止めて追いつめて手づかみという、至極原始的な方法だ。はじめのうちは逃げられてばっかりだけど、すぐに慣れて2匹取れた。イワナは石のナイフで内臓を取って、洗ってから枝に刺した。あとは焼いて完成だ!
焼いてる最中は、体を洗っておこう……。
結構冷たいけど、大丈夫だよね?
ぱしゃっ
「……ひっ!!」
魚取ってるときは平気だったけど、全身で浴びると結構冷たい!
けど、すっきりしてきもちぃい~。
お城でも確かメイファさんが身体を拭いてくれるだけだったし、前の世界でも拭くだけでお風呂は6日前だったから、2週間ぶりぐらいだ。
うーん、今はサバイバル生活で水はふんだんに使えるから、贅沢して毎日はいっちゃおう!どうせ川だし。
ところで周りに誰もいないよね?
カササッ
ん……っ?いま少し離れたところの草が揺れたきがするけど……。
人の気配がないから動物かな?
そろそろ魚ができるかな?
「ん……焼け……てる!」
もっもっもっ
んーっっっっっっまい!
本来の身の塩気と皮に含んだ脂身の甘さが、なんとも言えないハーモニーだった。一匹を食べるともうお腹いっぱいで満足した。これなら暮らしていけそうだ!
食べているところで狐のような動物が草むらから出てきた。
さっき草を揺らしていたのはこの子かな?
私はもうお腹いっぱいなので狐みたいな動物にあげた。
ファンタジーらしく、しゃべったり仲間になってくれないかと期待したが、魚だけ奪って逃げられた。
……まぁ私は昔から動物にも嫌われてたしね。
さて、そろそろ服も乾いたね。
焚火の近くに干しておいたから、ほっこり暖かい。
ふふっ。すっきり綺麗になってちょっとうれし。
さて。少しマシな格好になった私は、近くの薬草と木の実を採取した。これを売って、靴とか服とか手に入れたい。今の私は格好はどう見ても、浮浪者か奴隷にしか見えないからね。
どれがどの程度の価値か、どの部分が薬になるか、という知識はもちろん図書室で確認済みだ。このためにしっかり学んでおいたんだから。
1時間ほど採取したら、もう手で持ち切れる限界になった。
街にもどって、買い取ってくれるところを探そう。
私は街に戻ると、キョロキョロ、キョドキョドとやや挙動不審な感じで、観察しながら歩いていた。観察して分かったことは、ここの街が召喚の時のお城の城下町だったということだ。
街は少し高めの石壁に囲われている。北側のかなり遠くには巨大なお城が見えた。北のエリアは貴族街になっており、通常は平民では入れないようだ。西側には寺院らしきものがある。インドのタージマハルみたいな建物だ。平民の街の南門を出たところのすぐにあるのが、私が寝泊まりした墓地がある。つまり私は今南門から入ってきて、平民街の中央広場に向かっている。
この王都ではだれでも入れる平民の街でも石畳の道路がしっかり整備されており、裸足の私はちょっと、いやかなり足が痛い。
真ん中は馬車が通るので端っこを目立たないように歩いた。この世界では文字があまり使われてないのか、看板が絵で示されている。
中央広場には噴水があり、噴水の中央には大きな女神像があった。
図書室で見た本によると、この国は女神ラティーナの信仰が深い国だ。
ラティーナ教団の権力もすさまじく、今回私たちを召喚したのも教団の魔術師。
そう、人の命をつかって……。
さて、買い取りといったら冒険者ギルド?それとも質屋とかあるのかな?薬草ギルドとかでもよさそう。どれかわからないから数打つしかないな。
人が苦手とか言ってる場合じゃない!それにコミュ障なったら友達できるかもだし!
「こ……こここ、こん……にちは」
「あぁん?なんだよ嬢ちゃん……んん?奴隷?……いや……首輪がねぇぞ……?」
私はそれっぽいマークのお店に入って受付の人に話をしてみた。
かなり大きな体のおじさんで……こわいぃぃぃぃいいい。
「やや、やく……そう……うり……たい……です」
「お、おめぇ……ちゃんと奴隷登録されなかったな?」
「おい帰れ!この浮浪者がっ!お前にかかわるとろくなことがねぇんだよ!」
「……ご、ごめん……な……さい」
ペコリっと私は深々とお辞儀をして逃げてきた。
あの風体と貫禄で蹴られなかっただけ良しとしよう……。
つ、次こそ……!
いくつかのお店や露店を回って、話をしてみたけど結果は同じだった。
それでも話してくれたから、丁寧にお辞儀だけはちゃんとしておいた。
そんな様子を見ていた果物屋台のおやじさんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん。薬草を売りたいのかぃ?」
「……ひっ!……す……すい……ません」
知らない人だったので、さっきと同じようにペコリと挨拶してその場を後にしようとした。この筋肉質なおやじは、私の容姿をみてなにか感じたようだ。
「お、おおぅ。驚かせて……て待て待て、別に食って掛かろうってわけじゃない。それにお前さんまだガキだろう?」
「……は……ぃ……」
「奴隷紋があるのに首輪がねぇのは、浮浪者ですって宣伝してるようなもんだ。ガキの浮浪者なんて、むしろ王都で浮浪者なんて皆無だ。相当目立つし、このままじゃおめぇ憲兵に連れていかれるぞ?」
「……どどど……どう……しょ……」
ダメだ、足ががくがくしてきた、漏れそう……。
「おれぁさっきから見てたが……ひどい扱いされてるってのに、ちゃんと挨拶して立ち去ってるだろ?その気概が気に入った!」
「……ひぅ!」
いちいち声が大きくて、漏れそうになる。
「お嬢ちゃんでもちゃんと対応してくれる店を教えてやる。俺が案内してやるよ。ついてきなっ!」
どっしどっし……路地へと歩いていく。
うーん?ただの果物屋の露天商だろうけど、信用していいのかな?
あまり人が信じられなくなってる私としては、スルーしたいけど……。
「はやくしろいぃ!」
「……は……ぃ……」
怖くて抵抗できない……もう覚悟してついていこう……。
細い路地へと入ると、飲んだくれて道端で寝てるおじさんが何人かいた。
果物屋のおじさんは筋肉質で強そう。
ちゃんと案内してくれるならこれほど心強いことはないね。
足が本調子の時でも遅い。
私の足は左足が治ってないので、さらに遅い。
歩幅も狭いから、普通に歩いてる果物屋のおじさんにもついていくのがやっとだ。
のっそ……のっそ……
のっそ……のっそ……
路地の奥の一角の扉を開けて入っていく。看板も何にもないから何の店かわからない。次に一人で来いって言われても、来れる自信がない。
店内は明るいし大丈夫かな?
私は恐る恐るその店に入って行ったおじさんの後を追った。
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