第三話 この世界のことあれこれ
気が付くと上質なベッドの上だった。
はぁ~なにこれ?こんなふかふかなベッド初めて!
これだけでも元の世界よりすごく良いよぉ~。
ゴロゴロゴロ……はぁ。堪能した。
ベッドから身を起こして辺りを観察してみる。
かなり広い部屋に天幕付きのベッド。絨毯の装飾や遠くに見えるテーブルなどの彫刻を見る限り、相当高位の人間が寝泊まりする場所なのだろう。
外は少し薄暗い様子。夜明け前?
学校の制服は着ておらず、ひらひらのネグレジェを着ていた。微妙にえっちだね。ちょっと恥ずかしい。
家だと普通に体操服を着てたからね。貧乏がツライ。
そして伊達メガネもない。メガネかなり高かったんだけど、無くなると困る……。
「……目を覚まされましたか?」
優しい声が聞こえた。
シーツの衣擦れの音で気が付いたのか、人がやってきた。
コツコツと足音まで高級感があると思う。きっと洗練された貴族の立ち振る舞いなんだろうね。
天幕を少しまくって顔を覗かせたのはメイド姿のお姉さんだった。きりっと整った顔出しに白い肌。細められた目には優しさを感じた。ただその所作一つをとっても洗練されていてまさに貴族のそれだ。可愛らしいメイドに洗練された動きって本物はやっぱり違うんだね。
「まだ夜明け前ですから、メイドに起こされまでお休みになってください」
「……」
哀しそうな目で近づいてきて、手を私の頬に触れようと……。
パーソナルスペースを侵食する。
「……っひっ!」
あ……あれ?……知らない人がすごく怖い……。
優しそうな人なのに、こんなに恐怖が湧き上がるなんてオカシイ……。
自分で抑えられないほど、がくがくと震えが止まらなくなり――――
「……ふっ……かっ……ひーっ……ひーっ……あっ!」
しょ、しょわあああああああ……。
「あ……ああああ……」
どさっ
過呼吸で耐えきれなくなり、失禁してまた意識を失った。
ああ……やっちゃった。
再び目を覚ましたら、まだ夜明け前だった。ほとんど時間が経ってないのかもしれない。
やばい!そろそろ起きないと!
ぼーっとした頭を振って無理やり、覚醒を促した。
あっそうだ、ここは異世界だ。家と違って早く起きなくても大丈夫だった。
ベッドの横で自分の間抜けに嘆いていると、再び優雅な足音とノックの音が聞こえてきた。
……コンコン。
「ハナサキ様?入室しても、よろしいでしょうか?」
あ、さっきの優しい声の人だ。
こっちに来てから、私のコミュ障は悪化したみたい。
また発作を起こさないか怖かったので、びくびくしながら返事をした。
「……ヴァイ」
……あああああぅ。なんか変な声でた。
あれでも通じたようで、許可を得たものとしてメイドさんが入出してきた。
「失礼いたします、ハナサキ様。私は貴方のお世話を命じられました、側仕えのメイファと申します。以後お見知りおきを。」
「……はっ……ふひ……モ……モコ……です」
メイドのメイファさんは片膝をついて、優雅に敬意を示すポーズをとっている。
対して私は曖昧な返事になってしまったけれど、それで察してくれたようで、にっこりと微笑んで返事をくれた。
……この人ならコミュニケーション取れそう。
「モコ様でいらっしゃいますね!昨日は失礼いたしました。いきなり近づいてしまったため、要らぬ恐怖を与えてしまったようです。申し訳ございません」
あれ?昨日?1日経ってる?
メイファは謝罪をした後、テキパキとお茶の用意をする。
部屋の中央付近にあるテーブルチェアーへ薦められて腰かけると、ハーブティーを入れてくれた。
「……ふぅ……おい……し」
ハーブティを飲んでる私をニコニコと見つめるメイファさん。
どうやら私の気持ちが落ち着くのを待ってくれているようだ。
そして今の私の立ち場や行く末の説明をしてくれた。
初めに聞いた通り、魔王復活に合わせて私たちは召喚された。その召喚時の副作用により、転移者は強い能力を得ることが出来るんだって。
だけれど私はスキルは鑑定のみだったし、いきなり瀕死だった。
そして召喚してから1週間経つと勇者認定式があり、その時に基準を満たしてないとお城を追放になってしまう。
すでに4日経過して、5日目の夜明けだそうだ。
そして追放されるにあたって、問題になるのがステータス登録をしなかったことだ。
本来この国に住まう人は、その能力と個人を特定する為にステータス登録をしなければいけない。それが住民票と同じ役割だそうだ。
でも私は能力値が低く、勇者に認定できない。勇者にもなれないし、貴族でもないし、騎士でもないので登録を中断しているそうだ。平民は町に住む人も村人も8歳時の洗礼祭の時に登録する。私はもう13歳なので平民登録もできない。
つまり王国民としては認められない為、このままだと国民権のない浮浪者扱いだそうだ。浮浪者は人権を一切認められてない犯罪者と同じ地位。人権が認められている奴隷より下に位置する。
ただ召喚した勇者を浮浪者として捨てたと国民に知れ渡ると体裁が良くない。なので国外追放される可能性が高いって。国民管理台帳で縛られてるなら逃げたって、犯罪者と変わらない扱いだ。
逃げても逃げなくても結果は好転しなさそう。
「……そう……ですか」
「あなたの人生は悲壮を感じずにはいられませんが、どうか生きてください……っ。私ができることは精一杯やらせていただきます」
「ふひひ……あり……が……とう……ござい……ます」
メイファさんはよほど哀しい生き物をみるような目をしてこちらを見つめている。今にも泣きだしそうだ。でも実際には私にとっては、今のところ転移前よりは楽が出来てる気がする。それより友達がほしい。
メイファさんは……なってくれないかな?無料の本を読めるところがあればなおいいね。
まだ夜明けまで時間があるのでメイファさんが戻った後、私はまたベッドに横になった。気分的には3度寝だったけど、疲れてるのかすぐに眠れた。
夜が明けて早朝、転生5日目。
私はだいぶ体力を回復していたようで、すっきりしていた。
まだ身分が召喚勇者の扱いであるため、食事も貴族並みに優雅なものを用意してもらえた。
ただこの世界の料理はあまりおいしくなかった。
肉はぱさぱさで脂がギトギト、野菜はべっちゃり、パンはかちんこちん。そして全体的に味がしない。ハーブティーは美味しかったのに……。
「お食事はどうですか?お口に合いまして?」
「……は、い……おい……しい……で……で……」
「で?」
「ゲロロロオrろろろおろrr……!!!!」
「モ、モコ様!?」
4日ぶりのご飯だから、胃が受け付けないみたい。
出された料理の1/5を食べたところで気持ち悪くなって吐いてしまった。すきっ腹にこんな脂ぎった食事を食べたら誰だって嘔吐するよ。
その後は気持ち悪いのはすぐ直ったので、図書室で調べものをしたいとメイファにお願いした。お城の図書室はあまり大きくないそうで、蔵所数も多くないって。
一応は国に関する重要な書類、資料、書物は一通りそろっているそうだ。それ以上の専門的な学術書などは、王都の西側エリアにある【王立エルグランド貴族学院】にあって、関係者なら誰でも無料で利用できるって。貴族だって。
うーん。私が利用するチャンスはないかな……?
ネグリジェのままでは不味いので、メイファさんの同僚のメイド服を貸してくれるそうだ。本来勇者には王立勇騎士団の真っ白い制服が支給されるそうだけれど、私は勇者認定されないので支給されなかったからだ。
それと私はもともと着ていた制服がいいってお願いしたんだけど、近所のお姉さんのお古なので結構年季が入ってたり、私の血糊が結構ついてる所為で、棄てられてしまった。ついでに眼鏡も転んだ時に割れたので捨てられた。
んむぅ……勝手に捨てないでよ……。
メイド服は恥ずかしいけど、借り物だし我慢しよう。
私はしぶしぶメイド服で図書室に向かうのだった。
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