第2話

 十一時三十分。


 三人掛けのソファーに、頼子と晴くんが並んで座っていた。


 頼子はブラウスシャツにスキニーパンツ、晴くんはTシャツにチノパンという格好だ。


 二人は目の前のTV画面へと意識を集中させている。


「なんだよこのボス。全然ダメージ入ってないじゃん!」


 悪態を吐く晴くん。自キャラの女魔法使いが放つ光弾ショットが、相手にまるで効いていないのである。


「晴くん、ここもう五ステージめだよ? これはいつまでもゴリ押しが通るような、そんなヌルゲーじゃないの」


 頼子は何処か勝ち誇った感じでそう告げる。


「なんでドヤ顔してるんだよっ。頼子ちゃんが作った訳じゃないだろ」


 彼のツッコミは子供のクセして的確だった。


 ――的確なツッコミを決める程の状況判断力、それを有するこの晴くんは中々の少年だと言えるだろう。


 さっぱりとした黒髪、はつらつとした表情、口調には甘えた感じがまだ残るが、実際に声色もまだまだ子供っぽいのでそれが絶妙に合ってしまう。


 その上で頭の回転は悪くないから、頼子からすればナマイキにも見えるのだ。


「ふふん。数ある新作の中で私が『これだ』と選んで買ったんだから、そりゃ自慢げな顔もするわよ」


 だから『この子をからかいたい』なんていう心理が起きる。


 しかし――


「ふーん」


 ――晴くんはまだ少年だから、自分より九つも上のお姉さんの心理なんてものは分からない。


「ちょっとぉ、トークに飽きるの早過ぎるでしょっ! ――って、やられて速攻コンティニューしてる辺り晴くんもめちゃハマってるじゃないの」


「えへへ。だってもうちょっとでなんかコツが掴めそーなんだもん」


 もっとも彼女の心理が分からないからこそ、晴くんは頼子に対していちいち細かいことを気にしなくて良かった、という側面もある。


 彼の屈託の無い笑顔に、頼子もまた気さくで居られた。それも確かだ。


 年の差はあっても、お互いお隣さんとして長い付き合い。


 理屈とか抜きにして、感情を転がしながらコミュニケーションが取れる。二人はそんな間柄であったのだ。


「頼子ちゃん、お腹減った」


「そろそろお昼ご飯にしよっか。簡単なので良いでしょ?」


「うん。うどんとかで良いよ」


「前来た時もだったじゃない。ホントうどん好きね」


 一人暮らしな頼子宅の冷蔵庫には、お手軽さ重視で袋のそばやうどんが備蓄されている。


 恥ずべきことではない。恥ずべきことではない。


 なんなら頼子は――食べ盛りだから、また二玉ふたたまぺろりといっちゃうんだろーなー――などと、そんな風に考え自然と笑みを漏らすまでしていた。

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