頼子と晴くん

神代零児

第1話

 頼子よりこの家には休日によく、お隣さんの子のはるくんが遊びに来る。


 今日もそうだ。彼女はその支度の為にパジャマの上を脱ぎ、二重ふたえの瞳で鏡を見ながら、栗色の長い髪をいている。


 頼子は二十二歳で美人だが、大学生時代から付き合っていた男を知ってる女に寝取られてしまった為に、十三歳の子供を相手にする余裕が有ったのだ。


「そんなヒドい過去説明描写あるかしら? まったく、主人公の私に対する当たりがキツいわ」


 落ち着いた口調で話の構成に文句を付ける頼子。眉根を寄せた表情だが、声を荒げたりしないところから、とても優しくお淑やかな性格なのだと分かる。


「はいはい、埋め合わせにはなってませんからね。それと晴くんが家に来たらもう、地の文さんの相手もしてあげられないわよ」


 今は朝九時十分。今日は『十時から遊ぶ』という約束で、頼子はあと三十五分後には彼が来ると想定し動いている。


 最新のTVゲームを有する現在一人暮らしの頼子宅は、そこまで知る中学二年男子の彼からすれば相当に魅力的。


『楽しいことの為なら時間なんて気にしないよ!』と、そう元気一杯に言ってきた晴くん自身の明るさが、そんな朝からコースを可能にしたのであった。


 強引に、でも無い。頼子は彼のその言葉に『悪くない』という印象を抱いたのだから。


 化粧へと取りかかる。十五分もあれば済む。


 鏡に映る、ブラの肩紐が食い込む肌のその綺麗さは、彼女にとっては当然のもの。


「……私だって、まだまだ元気は有り余ってるんだからね」


 頼子はふと物憂げに呟いた。


 それは自分の心にこびり付く鬱屈うっくつした念に対しての、『負けない』という気持ちの現れだったのだが……。


 既に甘い行為ことを知る身体だった所為か、その眼にはほんの少し濁った輝きが入り交じる。


 仕方の無い事、であった。

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