佐倉佳乃子のスパルタ投資塾

広田こお

第1話 学校に来ない同級生

 隣の女の子と仲良くなる。

 それが新学期始まったときの僕のミッション。


 で、その年の彼女にする。真面目な恋愛だよ?少なくとも一年間は一途な恋を演じる。中学の頃から毎年そう。高校デビューして、中学の頃の女の子がらみの悪評も消えたから今年はやりやすいはず。どんなタイプじゃない子でも必ず隣の子を落とす。え?タイプの子と付き合った方がいいだろうって?付き合っているよ?僕は小学校の頃から付き合っている本命の女の子がいるんだよ。


 正確には彼女は恋人ではないのかもしれない。だって、小4のとき告ったら

「博士が私のことが本当に好きか、賭けしない?」

と彼女は変なことを言い出した。


「これから、博士は毎年彼女変えて振っていろんな女の子と付き合うの。大学に入る頃それでも私が良いっていうならOKだよ?」


 彼女には新学期に学校で一番近い席の子と毎年彼女になることを誓わされた。

 中学高校は別々になったけど、それでも白崎梨香とは毎年一度だけ報告に会っている。その年付き合った彼女の写真報告だ。彼女は報告が終わると決まって、


「もう私なんかじゃなくて、その子と付き合っちゃいなよ?」

みたいなことを言う。わかっている。脈がないことは。それでも、僕は彼女から課せられたミッションをこなすために毎年がんばってきた。


 今年の隣の子、なかなか学校来ないんだよなぁ。来るのは放課後だったり。授業終わっているし。で、帰宅部だから、すぐ帰る。アイツなんのために学校に来ているんだ?でも僕はがんばって、声をかけ続けた。


そのかいあって、佐倉佳乃子、学校に来ない変わり者は僕に興味を持ってくれたようだった。


「なんで、放課後に来るの?すぐ帰るならいっそ学校止めたほうがいいと思うぜ?」


と、あるときもっともな疑問をぶつけてみた。


「うーん、普通の人の体験も積むのも良いかなって思って、私3時まで家にいなくちゃいけなくて、それまでは学校に行けないんだ。」

と学校にいかない罪悪感などなにも感じさせない口調で彼女は言う。


「高校卒業できないぜ?」


「いいよ?私家業継ぐから」


「あーそ、いいねー気楽なことで」

あまりにあっけらかんと言うので皮肉も言いたくなる。


「博士くんは、てか変わった名前だけど、勉強すきなの?だって博士くんだもんね、ふふ、ははは。」


名前をネタにからかわれるのは慣れている。

「親は俺に発明家になって欲しかったそうだ。いいよ、わかっている。変な名前だろ。」


「お互い親に就く仕事を決められちゃった系か、私は投資家になるの。別に私はそれ嫌じゃないよ?」


聞くところによると彼女の両親は投資家?で佳乃子はいま英才教育を受けている最中だという。


「百万円スタートで、今は一千万円ぐらいになったかな。」


ちょ、待て、こいつ高校生なのに一千万円持っているのか?驚きを隠せなかった。そして間抜けな、とても間抜けな質問をしてしまう。


「百万円を一千万円に増やすって、マジ?おれも投資家になって一億ぐらい稼ぐか?」

軽口のつもりだった。だが、その言葉は佐倉佳乃子のプライドを強く刺激したらしく。すぐに食いついてきた。


「高校やりながら、一億稼げるほど、甘くないけど?」

彼女は怒っている。忘れてたけど僕こいつと付き合わなきゃいけないんだった。


「じゃ、高校辞めるよ。お前より稼いだら、俺の言うことなんでも聞けよな?」

こうして僕と佐倉佳乃子の恋は投資バトルから始まった。佳乃子は


「博士が一億稼げたらね?ま、すぐ根をあげるでしょ?大体あんたいくら持っているの?小銭から一億にできるほど投資は甘くないんだよ。いいよ、あんたに百万貸してやる。それでフェアな勝負だよね?来年までに百万円返せなかったら、博士は私のいうことをなんでも聞いてもらうから!」


 僕が手書きの借用書に母印を押すと、彼女は後日あっさりと百万円を貸してくれた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

佐倉佳乃子のスパルタ投資塾 広田こお @hirota_koo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ