今回の珍客もアホ!【4】



「今回の件の一番の曲者はニックスだよ。『ダガンの村』が流され、スターレットは村人たちに一時避難の指示をして、そのあと水が引いてから村を再建するよう指示を出した。でも……」


 そこを嗅ぎつけたのがニックスだ。

 さあ、今度は視点をニックスのものに換えてみよう。

 いくら馬鹿でもお勉強の出来るスターレットは、被害状況も上がらないうちから報告書など出さないだろう。

 そこはさすがに慣れている。

 だがニックスはそれを分かっていて、事前に用意した『被害なし』の報告書を国に提出した。

 混乱したのはスターレットだろう。

 誰が出したか分からない謎の報告書。

 ニックスの部下にそういうのが得意なリッツフェルトという奴がいるのでまあ、まず間違いない。

 そうなってしまえばスターレットはその突然降って湧いた『失態』をなにがなんでも隠さなければならなくなる。

 偽の報告書を出した者を探し出すのはそのあとだ。

 ダージスに命じてすでに被害の出ている村人をバラバラに、被害をきちんと把握してから村の再建に移る。

 正直村一つの再建がコソコソ出来るはずもないのだが、それこそダージスの家から搾り取れるだけ搾り取って秘密裏に進めようとでも思っていたのだろう。

 そのしわ寄せをもろに食らったのが身寄りのない村人とダージスだ。

 彼らは奴隷同然にされる未来を恐れてここまで逃げてきた。

 上のくっだらない潰し合いに巻き込まれた彼らにとって、まさに『つき合ってられない』。


「……そ、その証拠は……」

「ふふん、部下同士にもそれなりにつき合いってのがあるからね。ダージスが泣いて教えてくれたよ」


 カルンネさんに声をかけてほしいと頼まれて、面倒くさいなーと思いながらも声をかけて聞いてみれば、ダージスは洗いざらい話してくれた。

 面白い事にニックスの部下で、俺やダージスのように使いっ走りにされていた同じ『友人』のリッツフェルトが「ニックス様がいよいよやばい事を頼んできた」と愚痴っていたらしい。

 部下同士、相談出来る横の繋がりというやつだ。

 ダージスはその相談を聞いて、うちのスターレット様も〜、と愚痴談義に花が咲いていたのだそうだがよもやこんな事になるなんて。

 いや、ほんとに。


「で、ニックスの『助言』を本気にしたスターレットはカーズ、お前をここへ派遣した。お前がエラーナ嬢を害していれば無論国際問題になる。お前はもちろん、お前の家もただでは済まない。最悪、その問題は王家同士にも飛び火しかねない。国境を超えて私兵とはいえ兵を連れてきてしまったんだから。バレたら侵略行為と見做されて、アレファルドも無傷ではないだろう」

「っ……!」

「スターレットとしてはここまでが台本通り。でも、ニックスの台本はここからが本番。スターレットが今回の件の首謀者だと暴露すれば、お前とアレファルドだけでなくスターレットも罰の対象になる。アレファルドはともかくスターレットは家のお取り潰しやむなしだろう。ニックスとしてはそんな事をした二人の『側近候補』を諌められなかったアレファルドの事も蹴落としてリファナ嬢との婚約を解消させ、一人勝ちしたいわけ。さっきから根拠、証拠と騒いでいたけど、ちゃんと調べれればどっちもゴロゴロ出てくるよ。ただし、調べるのはここでは無理だから『青竜アルセジオス』に帰ってからにしてね。俺、夕飯間に合わなくなるからもう帰りたいんだ。それじゃあ、あとは頑張って」


 じゃーね、と手を振って牧場に帰ろうとすると大声で「待て!」と引き止められる。

 もう帰りたい。

 お腹すいた。


「な、なら、俺がやろうとしていた事は……スターレットとニックスの……!」

「まあそうなんだろうね。……ちなみに『ダガン村』の事も村の人が避難してきてる事もアレファルドにチクってあるから、無駄だよ」

「!」

「そのあとの事はアレファルドの采配次第だけど、ここでお前がエラーナ嬢を害する事を敢行するっていうんなら俺が相手をするし、その責任はお前とスターレットが背負う事になるだろう。もちろんニックスを巻き添えに全員道連れにしてアレファルドの一人勝ちでも面白いんだけど……」


 俺としてはそれも面白いと思ってるけどね。

 一応俺の元主人はアレファルドだから。

 喧嘩別れしたわけではない、と思ってるし。

 だが……そうなると国が、ね。

 いや、アホが三人消えてくれた方が、リッツフェルトみたいな優秀な奴が引き上げられて逆にいいかもしれないけどさ。

 ……でも、アレファルド……そうなるとお前の下に残る者は誰もいなくなるんだね。

 自業自得とはいえ……それは……なんだか……。


「…………」


 女一人のために国が傾く。

 まったく……なにが『守護竜の愛し子』だ。

 とんでもない『傾国』じゃないか。

 改めて問いたいよ、お前らに。


 どちらが毒婦だ?


 ああ、ラナにも聞きたいね。

 物語のヒロインだかなんだか知らないが、あの女一人のために未来の国王とその側近たちがぐちゃぐちゃになっている。

 溺愛? 愛され?

 よく分かんないんだけど、それの『作者』は『青竜アルセジオス』を滅ぼす気は本当にないの?

 陛下の具合がよろしくない今、経験不足のアレファルドが即位したら……いつ滅んでもおかしくない。

 とんでもない皮肉じゃないか。

 国を繁栄させる『聖なる輝き』を持つ者……『守護竜の愛し子』様が、国の中枢を蕩け溶かして滅ぼすのだ。

 他国に経済的な支配をされるか、内戦が始まって地獄と化すか……。


「……不可侵を破って私兵とはいえ兵を連れてきた。この事実は揺るがない。一国の公爵家子息が行うにしてはあまりの愚行。短慮もいいところ」

「……うっ」


 ほんの少し難しい言葉を並べ、カーズに自分の罪を思い知ってもらう。

 そう、だから、本当なら……。


「『青竜アルセジオス』の『法』を司る者の末席の者として、お前らをこの場で斬り裂いて……その肉片をアレファルドに送りつけるのもやぶさかではないけれど」

「ひいぃ!」

「あ! こ、こら! ま、待てお前ら!」


 ちょっと脅すと逃げていく。

 賢い部下だな、カーズ。

 お前にはもったいないよ。


「『俺たちは会わなかった』『この国に入る前に、きちんと調べて企みに気づき、アレファルドに報告した』事にすれば俺もそこまでしないよ。あとは自分たちでなんとかして」


 これ以上構うのめんどい。

 あとお腹すいた。

 冷たく言い放つと、今度は引き止められる事はなかった。


「…………あとはアレファルド次第だなぁ」


 カーズは単細胞だ。

 頭を使う部下でもいればいいのだが、カーズの部下のシェルドもかなりの肉体派なんだよなぁ。

 それは、カーズが大体力でねじ伏せる、筋肉で解決する系だからだろう。

 連れて来てはいないようだが……シェルドも無事だろうか?

 ……なんか適当に体使う系の仕事を押しつけられて、身動き取れなくなっているとかじゃ……ないと、いい、なぁ。


「すっくらんぶるえっぐ〜」


 まあいいや。

 あとで今回の件も親父とアレファルドにチクっておこう。

 ふんふーん、そんな事より、ラナのスクランブルエッグ〜!

 たーのしみ〜。

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