ああ、面倒くさい【2】



 カルンネさんはまともっぽい。

 ダガン村の人たちの事はあの人に任せていいだろうな。

 ダージスがあの調子なので。

 ……パッと見た感じ、ダガン村の人たちは男女の比率的に女が多いように見える。

 身寄りがない者だけがダージスについて来た。

 身寄りがある者は、その“身寄り”を伝手に村を離れた。

 そして、カルンネさんが話をしている村人たちの『女』は容姿があまりいいとは言えない。

 磨けば美人なんじゃない、ってレベルさえいないのだ。

 まあ、失礼ながらお歳もそこそこのマダムな感じだし。

 はあ、やだねぇ。

 スターレットの親父さん……アロード公爵は若い娘が大好きだ。

 ある意味で血は争えないという事なんだが、そこは深く突っ込まない。

 突っ込んでいい事がありそうかと言われると「絶対ないでしょ」って断言出来そうなので。

 それに、若い男もいない。

 いるのは働く事が難しそうなおっさん……いや、じーさんばかり。

 カルンネさんが、一番若い男だ。

 疲れ果てて動けなさそうな人たちに、優しく声をかけていく。

 あれを見ただけで人柄が知れる。


「くっ……ほ、他にはないのか! 他に、もっと、ましな! なあ、ユーフラン!」

「はあ? 俺は知らないよ。自分で頑張れ」

「ううううう〜」

「…………」


 まあ、ね。

 ダージスに同情の余地はあるっちゃある……そもそもアホなのはスターレットだし。

 アレファルドがスターレットのアホ行動とダージスの亡命、ダガン村の喪失に気づかず報告をそのまま受け入れるのなら……俺の告げ口手紙が届く頃になんらかの行動を起こすだろう。

 早くとも十日前後かな、裏ルートからの手紙だから、もう少し早いだろうか?

 確か……『竜の遠吠え』が終わったら『黒竜ブラクジリオス』への遊学の予定だったはず。

 ま、その前には届くんじゃない? 多分。


「……フランの友達じゃないの?」

「は?」


 突然なにを言い出されるんですかラナさん。

 覗き込むような上目使いは威力が高すぎてすぐに顔を背けてもダメージが……うっ、無理可愛い、死ぬ。

 なんて恐ろしい。

 え、つーかなに、なんの話?

 ごめんなんか話の内容飛んだか入って来てないか……え? なんて?


「あんまり親しくない人、なの?」

「え、あーうん、そうなんじゃない?」


 誰の事か聞いてなかったけど。

 俺が親しいのは多分家族だけだと思うし……。

 ラナとは、どうなんだろうか。

 俺はもう少し仲良く出来たらいいなぁ、とは思ってるんだが……男女の『仲がいい』って、どうしたらいいのか本当に分からないのだ。

 アレファルドにもう少し詳しく聞けたらよかったなぁ。


「ふーん? フランって友達が多いイメージだったわ」

「貴族同士で『友達』なんてありえないでしょ」

「え……、そ、そう?」

「……まあ、上辺くらいは仲良く出来るかもしれないけど、ね」


 なんで傷ついた顔してるんだろう、ダージスの奴は。

 意味が分からない。

 少なくとも人間関係を円滑に進めるためには、上辺だけで付き合うのが最も効率的。

 特にアホの相手はそれで十分。


「……そ、そうかな……? えっと、その……んー、いや、これは手紙に書く」

「……。俺も手紙頑張る」

「う、うん、そうね、頑張りましょう!」


 え、あれ?

 なんか書かれる事、増えた?

 な、なぜ?


「なんにせよ、しばらくの寝泊まりは嬢ちゃんちで構わねーのか?」

「あ、ええ。任せてくださって構いませんわよ、クーロウさん。食糧もまだありますし、畑の野菜を収穫すれば一週間は全員面倒見られますわ」


 ……三十人以上を一週間世話出来るうちの畑ヤバくない?

 あ、これ突っ込んだら負けるやつ?

 おっけーでーす、突っ込みませーん。


「だとしても人数が人数だ、さすがに大変だろう。学校入学の希望者は早めに学校の寮に連れて行きゃいい。あっちでも畑作りが始まってるはずだからな。農業経験者がいると、畑作りも捗るだろう」

「! それもそうですね」


 学校とは無論、竜石職人学校の事だ。

 それなのに『畑作り』とはこれいかに。

 そう思う人もいるかもしれないが、衣食住を保証している以上食糧の生産は必要。

 自給自足の手伝いをしてもらえれば彼らも飢える心配がないし、今エールレートが考えている案に『一人に一つの畑を与えて、そこで生産されたものも販売オーケーにする』というものがある。

 この国の植物の生育は他国よりも速く、収穫量も多め。

『聖なる輝き』を持つ者がいなくともそうなのだ。

 それがこの国が『緑竜セルジジオス』と呼ばれる所以でもあるが、そういう事なので例えば隣国……『青竜アルセジオス』や『黒竜ブラクジリオス』辺りに畑で採れた野菜を売るのもアリだろう。

 ここは国境に近いので、隣国の村や町に持ち運び可能な小型冷蔵庫に入れて運べば——まあ、国境を超えたら竜石を取り替える必要はあるけど——鮮度を保ったまま売りさばく事は難しくない。

 基本木材や木工製品が主な交易商品の『緑竜セルジジオス』に、鮮度を保つ方法が出来た事で野菜という選択肢が増える。

 食べ物の輸出入は他国にとっても悪い話ではない。

 冷蔵庫や冷凍庫が他国にも普及していけば、これまで入ってこなかった食材が『緑竜セルジジオス』に入ってくるようにもなるだろう。

 もしかして、ラナが前に言ってた『コメ』とかも……。

 でも穀物って言ってたんだよなぁ。

 小麦は『黄竜メシレジンス』の特産品。

『青竜アルセジオス』や『緑竜セルジジオス』とも相性がよかったため、この国にも広まっている。

 だからもしかしたら……『黄竜メシレジンス』なら『コメ』があったり……する?

 どちらにしてもすぐには無理だけど。


「じゃあ、竜石職人学校を希望する人は今日中に移動させよう。向こうに寮もあるし、個室でゆっくりした方がいいだろう」


 こっから徒歩で三十分、馬車なら十五分もかからないし。

 あと、おっさんとはいえ男が数人でもうちに泊まるのなんかヤダ。


「それもそうね。ダージスは結局どうするの?」

「うっ……、……」

「まあ、ダージスの場合は実家から連絡待ちした方がいいだろう。となると町の方がいいんじゃない?」

「言っておくがうちにゃあ泊めねーぞ。縁もゆかりもねぇんだからな」


 へっ、と吐き捨てるクーロウさん。

 へにょ、と肩を落とすダージス。

 ついでに言えば町で寝泊まりするのはお金がかかる。

 所持金は、というと銀貨が二枚と銅貨が五枚。

 宿屋が一泊銅貨十五枚くらいだとすれば、一週間は問題なく生活出来るんじゃない?


「あんらぁマァ! そういう事ならユーフランちゃんにお金を借りて馬を買えばいいんじゃあないかしらァー?」

「うわあぁぁあああぁ!?」

「うわ、びっくりした」

「レ、レグルスじゃない!? おはよ……じゃなくて帰ってきたの!?」


 ダージスの真後ろから身体190を超えるムキムキマッチョの小綺麗なおっさ……オネェが現れたらまあ、悲鳴は出る。

 俺も今ちょっとびっくりした、ダージスの声に。

 呑気に「エエ、帰ってきたわヨ! レグルスお姉さんガ!」とかピースしてポーズしてる場合か。

 その多種多様なポーズとウインクと目線は必要なの?


「クーロウさんに話があったから屋敷に行ってみたんだケド、なんかこっちでも厄介ごとが起きてって言うじゃナ〜イ?」

「……えぇ……って……」

「ウフフ。…………エェ、アタシもちょっと……まあ、なんつーか、困った事になったから、相談しにきたのヨ」

「「「…………」」」


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