持参金目当てで悪役令嬢と結婚しましたbyモブ王子様【祝8万PV感謝感涙!!!】

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

 

 プロローグ

第0話   七歳のお誕生日、おめでとう!

「ハッピバースデー、ディア、アイリース!」


 僕の名前はクラウス・シュミット。騎士の家系の、長男だ。


「おにーちゃま、いつもありぎゃとう! ケーキ、たべてもいい?」


「うん、じゃあ、さっそく切り分けようか」


 主役を含めて、参加者二名。でもアイリスが寂しくないように、空いた椅子に手作りのぬいぐるみをたくさん座らせて、なんとか工面してきた食材で、ご馳走とケーキを作った。


 義母かあさんにも、たまには参加してって言っておいたのに、どこ行ったんだよ、まったく……僕たちだけで全部食べちゃったら、またねて何ヶ月も家出するんだろうな。


 今日も義母さんの分だけ、取り皿に分けておくことになりそうだ。


 はぁ、ってため息をつきたくなるが、妹の前では、我慢我慢だ。優しい妹は、すぐに「おにーちゃま、だいじょうぶ……?」と不安そうな顔で見上げてくるのだから。


 玄関のベルが鳴り響いた。義母さんが出かけ先から帰ってきたのが足音でわかる。でも、こんなに急ぎ足なのは久しぶりに聞いたな。まるで、耳寄りな幸運を掴み取ったかのような、ドタドタとした、落ち着きのない――


 そのまま、食堂の扉が押し開けられた。人懐ひとなつこい性格の妹が歓喜したのは、言うまでもない。


「おかえり義母さん。待ってたよ。すぐ座る?」


 立ち上がって、椅子を引いたが、義母さんはテーブルの上の料理を一瞥しただけで、首を振った。


「ご馳走なら山ほどお腹に入れてきたから、今日はいらないわ」


「え?」


「そんなことより、聞いてちょうだいな! 我が家に、伯爵家からの縁談が舞い込んできたのよ〜!」


 押さえきれない喜びのあまりか、普段は見向きもしない僕に抱きついてくる。あのー、縁談とかじゃなくて今日は妹の誕生日を祝ってほしいんですけどー……まあいいか、ここは合わせておこう。気になる話ではあるしな。


「なに? 僕の縁談?」


「なに言ってるのよ〜、うちの可愛いアイリスに決まってるじゃな〜い」


「は、え……? あ、そうか、アイリスが許嫁いいなずけに選ばれたって意味か。伯爵にご子息がいたなんて、初耳だな」


 ああびっくりした、許嫁が決まるのって、こんなに早めなんだな。


 アイリスも十年後くらいには、今よりももっと美人になっているだろう。そしていつかは、縁談が持ち上がった相手の家に入る……そんな未来は、美人のアイリスならばきっと避けられないんだろうとは、思っていたけど……あれ? ……想像するだけで、涙ぐんできたぞ。


 涙でぼやけた視界の中で、義母さんが「違う違ーう」と、手に持った扇の羽飾りをぶんぶん振ってみせる。


「バカねぇ、伯爵様にお子さんなんていないわよ〜」


「え? じゃあ、アイリスは誰と……」


「伯爵様ご本人に決まってるじゃな〜い。来月には式を挙げたいそうよ。よかったわねぇアイリス」


「ちょ、ちょっと待ってよ! アイリスは今日七歳になったばかりなんだよ。結婚なんてさせられるわけないだろ」


 他の国のことはわからないけど、うちの国では結婚ができる歳は十六からだ。これは身分関係なく、そう定められていた。


 義母さんはようやく、目の前のケーキが誕生日ケーキだと認識したらしい、細く鋭く描いた眉毛をひょっと上げた。


「あら、そう言えば今日はアイリスの誕生日だったわねぇ。血の繋がりがないと、どうしてこうも記念日とかどうでもよくなっちゃうのかしら。すっかり忘れてたわ〜」


「血は関係ないだろ」


 義母さんはそういう事をいちいち言うから、いろんな人からひんが無いって言われるんだよ、とのどまで出かかったが、妹の不安そうな青い瞳と目があって、なんとか笑顔を浮かべてごまかした。


 義母さんは、特に誕生日プレゼントを持っているでもない空いた手と、広げた扇で、小踊りし始めた。


「七歳のお誕生日、おめでとうアイリス〜! そして結婚おめでとうアイリス〜! 我が家に幸運を、ありがとう! アイリス〜!」


 小さな椅子の周りを、くるくる回りだす、つぎはぎだらけの分厚いスカートと、扇の毛羽立った羽飾り。


 妹がつられて、はしゃいでいる。まだ小さいから、状況が理解できていないんだ。


 僕はもう、黙っていられなかった。もう何百回目か数えてもいない、義母さんとの口論になった。今までだって、彼女は何度も目先の利益や、うまい儲け話に騙されて、僕に相談もせずに多額の借金を積み重ねてきた。しかも、ちっともりてくれない。


 さらに、その支払いを、幼い妹と結婚したがる変態に肩代わりさせて喜ぶなんて最低だ。そんなんだから、僕らは没落したまま這い上がれないんだ。


「おにーちゃま、マンマ、ケンカしないで……」


 妹が怖がって、涙をこぼしながら震えている。このままじゃ、最悪な誕生日にさせてしまう。いつものように、ほどほどに怒りをこらえなければと、わかってはいる、けど……ダメなお兄ちゃんで、ごめんな。今回ばかりは、引き下がれない。きっと僕も我慢の限界がきていたんだ。


 噛み合わない会話、価値観の違い、それらがごちゃまぜになった口論の結果、義母さんは婚約を絶対に破棄しないと言い張るので、僕がその変態のもとへ、直接向かうことになった。


 こっちから婚約破棄が頼めるかは、わからない。案外、伯爵は善い人で、幼い妹を哀れんで、早めに衣食住を提供してくれようとしているのかもしれないが、やっぱり手紙も何もなく、いきなり来月アイリスをよこせと言うのは、人柄を疑わざるをえない。


 僕が出かけたら、アイリスが屋敷で一人になってしまうな……。仕方ない、連れて行くか。絶対に、手を離さないようにしないと。


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