第135話 勝手ラーメンと行動予定

 条件を考えられる限り考えて、何度も未来視を試してみた。

 でも未来視では結局あるべき未来は具体的には視えなかった。


 自室を出て階段を降り1階へ。

 いい匂いがする。

 ニンニクとショウガとネギと肉の匂いだ。

 キッチンをのぞくとサラが料理をしている。

 寸胴鍋が2つ湯気を出していて、ゴーレムのグルーチョ君が麺帯を作っている。


「昼はラーメン?」

「ええ。その予定です」

 なかなか美味しそうだ。


「楽しみにしているよ」

「任せて下さい」

 まだかかりそうなので食堂では無くリビングへ。

 テディ含めサラ以外の皆さんが揃っていた。


「この部屋はリビングだった筈だけれど、机のせいで事務所みたいになったよね」

 確かに事務所の机を全部並べたから雰囲気的にそうなっている。

 本棚を向こう側に配置しているところまで同じだ。


「何なら机は別のところに移動させようか」

「僕はこのままでいいと思うな。あの事務所と似た感じで作業しやすいしね」

「同意」

 フィオナとジュリアが真っ先にこのまま説を支持する。


「私もこのレイアウトがやりやすいですわ」

「私もです。向こうの家でも事務所にいた時間が一番長いですから」

 テディとナディアさんもこのレイアウトに賛成の模様だ。


「私はあまり事務所を使わないしな。どっちでもいいか」

 ミランダの意見がそうだと反対する者はいない。


「一応図書室の向こう側にソファーとか長椅子とかを置いた場所を作ったけれど」

「なら私の昼寝場所や皆の一服場所はそれでいいか」

「それじゃリビング部分のレイアウトを考えてみようか」 

 そんな訳で更にレイアウトを更新したところで。


「お昼ができました」

 サラの台詞でキッチンへ行き、食堂へと昼食を運ぶ。


 先程聞いた通りラーメンだった。

 だが微妙に配置が普通のラーメンと違う。

 各人の丼に入っている麺は茹でで水を切った状態。

 なお麺の量は俺とジュリアはだいたい一玉半程度で他のみなさんは三玉程度。

 あとはタレ3種、スープ2種、トッピング各種という形で並んでいる。


「今日は勝手ラーメンです。タレとスープを自由に混ぜて好きなように食べて下さい。汁たっぷり熱々のラーメンにしても汁を濃く少なめにしてぶっかけ麺にしてもいいです。タレをスプーン3杯分入れ、スープを丼半分程度に入れれば普通のラーメンの味になりますので参考まで」


 なるほど。

 これもなかなか面白そうだ。

 俺個人としてはぶっかけラーメン風にしようかな。


 いや、今日は油そば風にしてみよう。

 豚肉タレを2杯入れ、ほんの少しだけ鶏出汁を入れ、ネギを入れて酢を回し入れてガンガンにかき混ぜる。

 食べてみるとちゃんと油そば風になっていた。

 成功だ。


 あとは茹でキャベツやほうれん草、煮豚を加えて美味しくいただく。

 皆さんの食べ方を見ると俺以外は熱い汁入りラーメン、つまり普通のラーメン風。

 タレやスープの配合にそれぞれ個性が出ているけれども。


「アシュさんのちょっと食べてみていい」

「どうぞ」

「なら代わりにこれも」

 ジュリアと丼を入れ替えて食べてみる。

 ジュリアのは魚出汁と鶏出汁のさっぱり風だった。

 昔、日本の何処かで食べたような素朴だけれど美味しい中華そばの味だ。


「これも美味しいな」

「鶏タレと魚出汁。あえて冒険しなかった」

 なるほど。


 更に見てみるとどうやらミランダが調合に失敗したらしい。

 麺入りスープ入りの丼を持って消える。

 帰ったところを見ると麺がきれいさっぱり洗われた状態になっていた。


「すまんサラ。おすすめ調合頼む」

「わかりました。汁多めとぶっかけ風どちらにしますか」

「汁多め、味は肉系」

「わかりました」


 サラが調合して渡す。

 ミランダは食べてうんうんと頷いた。

「やっぱり美味しいよな」


「先程はどうしたのかな?」 

 フィオナが突っ込む。

「いや、料理に類することはたとえ簡易的でも私がやってはいけない。それがよくわかってしまっただけだ」

 やはり調合に失敗した模様。


「どうすればこの美味しい組み合わせで失敗するのでしょうか」

 ナディアさんが不思議そうな顔をする。

 ちなみにナディアさんのラーメンはニンニクマシマシヤサイナシアブラカラメオオメに、ブタをトリプルというか盛りまくった代物だ。


「これはミランダの才能だよね」

「負の才能ですわ」

 高級学校時代からの知り合いは厳しい。

 でも確かに負の才能だよな。 

 他の人に真似できないという意味で。


「ところで御飯を食べたらどうしようか」

「私はちょっと情報収集に行ってくる」

 作って貰ったラーメンをはふはふ食べながらミランダが言う。


「大丈夫でしょうか」

「衛視庁ではなく近衛騎士団が突入してくる時点で全国手配は無いだろう。そうだとしても逃げるのは簡単だ。非常事態だからこそ今何が起きているか常につかんでおくことが必要だろう。そんな訳でとりあえず情報を常時とれそうな体制を作っておく」


 ミランダがどうする気かはわからない。

 でもこいつは知り合いも多いし行動範囲も広い。

 俺が思いつかないような方法もあるのだろう。

「なら頼む」


「私は買い出しをしてこようと思います。万一の事を考えで出来るだけ多めに。1人だと注意不足になるかもしれませんからジュリアと行ってきます」

 おいおい。


「気をつけて行ってきて下さいね」

「一応念の為にゼノアでもラツィオでもない街、今回は南部のレッツアの市場へ行くつもりです」

 なるほど。

 ならばだ。


「申し訳ないが買い出しを1点お願いしていいか」

「いいですけれど、何でしょうか」

「カツラが欲しい。金髪で出来るだけ長くて髪の量も多い奴。お金はとりあえずこれで買える一番いい奴」

 小金貨10万円を20個取り出す。


「ウィッグ、ですか?」

 確かに突然すぎてわからないよな。

「ああ。金髪の長い奴。最低で肩まで、出来れば脇くらいまで来る奴がいい。生え際は見せないのでその辺は気にしないでいい。髪の質はいいやつで頼む。本当は俺が買いに行きたいのだが目立ちそうだから」

 必須ではないがあった方が後々いいと未来視で見えたものだ。


「アシュは念の為動かない方がいいですわ」

「被疑者で中心人物だものね」

 すかさず言われてしまう。

 わかっている。

 だから頼んでいる訳だ。


「何かわかりませんが了解しました」

「きっちり選ぶ」

 サラぐらいの女の子ならメイドとして頼まれたでも何とでもいい訳がつくだろう。


「それじゃあとは留守番ですね」

「僕もちょっと出かけてくる。必要になるかもしれない物があるんだ。危険かもしれないけれど、今のうちに手に入れておかないと入手できなくなるかもしれないから」

「わかった。でも気をつけろよ」


「それでは残った私達で馬車でここまで来る道を塞いでおきましょうか」

「そうですね。やった方がいいでしょう」

「あとアシュはここに残っていてくれないか。大量の荷物を運ぶ際にお願いしたい」

「あ、僕もその方がいいな。アシュだけはこの家から動かないでいてくれると助かる。場合によっては重量物を大量に移動させる必要があるかもしれないし」


「何を動かすつもりなんだ」

「僕の方はまだ確定していないよ」

「私のほうもだな」

 わかった。

「じゃ俺はこの家にいるようにする」 

 そんな感じで午後はスタートした。

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