第127話 豪華浴場完成

「さて、話は変わるけれどさ。浴場の組み立てを手伝ってくれないかな。小屋がけも浴槽も皆で組み立てれば今日中に出来るようにカットして貰ってきたんだ。運ぶのはアシュの魔法頼りになるけれどさ」

 おっと、そういうイベントもあったな。


「なら行くか。露天風呂の処でいいんだよな」

「そうそう。今回はミランダにも魔法を使って貰わないといけないしね」

 ミニ龍2頭も連れて全員で風呂場の先の外へ。


「まずはミランダだね。ここの岩というか溶岩、建物の壁際から元からある露天風呂のすぐ下まできっちり平面に削ってくれないかな。今の部分は全部吹き飛ばして構わないけれど、建物だけは壊さないでね」

「わかった。じゃあ皆、どいててくれ。ちょっと危ない魔法を使うからさ」

 何をするかわからないが危険そうだ。

 だから皆ミランダの後ろ方向へ避難する。


 ミランダは自在袋から魔法杖を取り出し、しゃがんで杖を低く構える。

 彼女が魔法杖なんて取り出すのは初めて見た。

 というか簡単な熱魔法や水魔法を日常で使う以外、俺はミランダが魔法を使っているのを見たことがない。

 その意味が今、わかるのだろうか。


「それじゃ久々にやるか。水魔法、超高速水流、起動っと!」

 シャーという音を立て強烈な勢いの水が前の岩場を襲う。

 水流は岩を削り土をならし削り取っていく。

 とんでもない勢いの水流だ。

 みるみるうちに真っ平らな場所ができあがていく。


「あとミランダ、焼土処理もお願い。家は焼かないでね」

「はいはいと」


 先程削った場所がわっと熱気を帯びた。

 土や岩が真っ赤になるまで熱せられた後冷やされる。

 結果、先程削られた部分は焼土やガラス質の平らな岩へと変化した。

 まだ熱いとまずいから触らないけれどコチコチに固まっている感じだ。

 俺じゃさっきの水魔法もこの熱魔法も無理だな。

 パワーが凶悪すぎる。


「相変わらずミランダの魔法は強力だよね」

「威力を絞るのが苦手だからな。こういう時しか使えない」


「でも好きな物焼きヴァストリベントの時は、自分で鉄板を熱する事が出来るようになりましたよね」

「熱魔法と水魔法はかなり練習してやっと慣れた感じだな。それでも自由自在というより極小と無しを交互にやっている感じだ。やっぱり魔法はこうやって思い切り使う方が性に合っている」


 それでミランダは滅多に魔法を使わないのか。

 確かにこれでは普通に使った場合被害甚大だ。


「でも威力が凄い。羨ましい」

「でもこのせいで学校の魔法の授業はずっと見学だったんだぜ。初等学校から高級学校までずっとだ。先生からもお前は魔法を使わないでいいから、実力は充分わかっているからと毎回言われてさ」


 先生の気持ちはよくわかる。

 失敗したら校庭に大穴が開くとか校舎が吹っ飛ぶとかしそうだ。


「さて、それじゃアシュの番だよ。いつもの木材店の前にミランダ様と書かれた木材が積んであるからさ。それをここへ取寄魔法アポートで持ってきて欲しいんだ」


 それなら俺の得意技だ。

 店は何回か行ったからすぐわかる。

 魔法を使って見ると確かにそれっぽい木材が大量に積んであった。

 でも、これってちょっと予想外に……


「随分と多くないか、木材が」

「それでいいんだよ。とりあえず全部お願い」

 俺でさえも1回では無理な量だ。

 仕方ないので3回に分けて積み上げる。


「随分とたくさんありますね」

「風呂小屋の壁と屋根分もあるからね。勿論浴槽分も。そんな訳でここからは力仕事になるよ。テディ以外は身体強化魔法をかけて手伝って欲しいな」

「私もまだ大丈夫ですわ」

「駄目駄目、一応大事をとっておかないと」


 そんな訳でテディ以外全員で組み立て作業だ。

 身体強化魔法を起動してお仕事開始。

 太くて長く重い木の端を2人で持って運んで、指示通りの場所で組む作業。

 全ては木材を組みあわせるだけで形になるように出来ている。

 まずは市販の束石を置き、その上に骨組みになる木材を組み合わせ、それが出来たら壁になる板材を交互にはめ込んで……

 フィオナの指示通り運んではめ込む作業を繰り返す。

 屋根まで全てがはめ込んで固定できるように出来ていた。


「うまく出来ているな」

「その辺の設計はまあ慣れだよね。使っている方法は一般的なものばかりだよ。今回は土を塗らないで木材だけで完成するように作ったけれどね」


「壁のこの部分は開いていていいのか」

 露天風呂側の壁が半分ほど開いた状態だ。


「ここが開放的な方が気持ちいいと思ってね。湯気がこもらないし昼間ならあかり取りにもなるから。

 それじゃ次は浴槽部分を組み立てるよ」


 今度は大きさが小さい分楽かと思えばそうでもない。

 水漏れがしにくいよう、力を入れてはめる部分が多くなっている。


 作っているのは大きな浴槽と深い浴槽、座る浴槽に寝る浴槽。

 かつてバルマンのリゾートで作ったものとほぼ同じだ。

 だが一通り浴槽を作っても木材が結構残っている。


「この木材はどうするんだ」

「中の浴槽の横の空きスペース、あそこをサウナにしようと思ってね。あそこに壁を作って木材を置いて、中に熱する石と適当に水を入れればサウナになるよね。石は各自が魔法で熱するとして」

 つまり大きさこそバルマンのテルメ館より小さいが施設は同等という訳か。

 しかもこっちはずっと俺達専用と。


「そんな訳でミランダ、サウナ用にここの溶岩を適当にぶった切って。運ぶのはアシュの魔法でやってもらうからさ」

「はいはい。形はどうでもいいのか」

「この辺で真横にカットしたらちょうどいい大きさと形になると思うよ」


「あと元からあった浴室内の浴槽も丸々カットするんだろ」

「正解だよ。中の浴槽は下に穴が開かないようカットした後、外の今まであった露天風呂の横に並べる形で設置する予定。この手の溶岩ならミランダの魔法で溶かして再結合できるよね」


「パワーには自信があるけれど微妙な調整は出来ないぞ」

「その辺は考慮済みだよ。多分大丈夫だから遠慮無く」

 次々と新しい設備ができあがっていく。


 それにしてもミランダの魔法、凶悪だ。

 威力というかパワーがとんでもない。

 岩と化している溶岩をドロドロになるまで赤熱するってどんな威力だよ。

 それを分かった上で使いこなしているフィオナもなんだかなと思うけれどさ。


 建物や浴槽や組み上がった後も作業はある。

 まずは何カ所か支柱をつくり、完成品状態で買ってきた木樋をはめ込んで通す。

 更に岩の上部分にミランダの熱魔法で溝を作り木樋をはめ込む。

 最後にやはりミランダの熱魔法で岩に穴を開けた、源泉から湯が全体に流れるようになった。


「これで完成だね。あとはお湯がたまるのを待つだけだよ」

 ここまでだいたい3時間。

 この3時間という時間が長いのか短いのかはよくわからない。


「これで何時間くらいすれば入れる? アシュ未来視でわかるか?」

 こういった事なら簡単に視る事が出来る。

「2時間程度で充分だな」

「楽しみですわ」


 完成した新しい風呂場の施設は、まずは今までの浴場部分に、

  ○ スチームサウナ

  ○ 水風呂(2人用)

  ○ 内湯(3人用)

の3施設。


 新しく出来た壁の一方が開いている浴室が、

  ○ 寝湯3人分

  ○ 座湯(椅子湯)2人分

  ○ 歩行湯(長さ2腕4mの深い浴槽)

  ○ 普通の浴槽(6~7人用程度)

の4施設。


 そして今までの露天風呂の横に内湯で使っていた浴槽を接続し、かなり広くなった露天風呂が1カ所。

 ここの湯船は黒光りする岩で出来ていてなかなか高級感がある。

 単にミランダのハイパワーな魔法で溶かして結合した結果、表面がガラス質になっただけなのだれども。


 更に露天風呂から少し離れた場所にお湯が滝のように落ちる場所が出来ている。

 下はミランダの超高熱魔法で焼いて固めてあり、打たせ湯として使用可能だ。


 こんな感じで見た目にも設備的にもいい感じの浴場が完成した。

 広さこそバルマンのリゾートに劣るが設備の多さと雰囲気はこっちの方が上だ。 


「これはもう移動魔法で毎日通いたい位ですわ」

「というか実際に通うんだろ、テディは。自分でももう移動魔法使えるしさ」

「どうせなら皆で来たいですわ」

「そうだよね。毎日の日課としてここで皆で一服するのもいいよね」

「賛成です」

「なら明日にでも契約に行ってくるか」


 確かにこの施設、なかなかいいとは思う。

 でもここにこの面子と裸に近い格好で入るかと思うと……

 とにかくこうして俺的に悩ましい新施設が出来てしまったのだった。

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