第112話 ゴーレムへの魔法教育? その2
翌朝午前10時過ぎ、事務室にて。
俺はグルーチョ君に魔法の教育中。
どうせなら教えられる魔法を一通りおぼえさせようと思ってだ。
既に熱系統魔法と風魔法、生活魔法のほとんどは出来るようになった。
強いて言えば苦手は水魔法だ。
空気中の水分を集めて取り出す方法では水を集めるのに大量の空気が必要になる。
たとえば炊飯用に水を出したりすると、キッチンに風が吹き荒れてしまう訳だ。
その辺別の方法論がないか現在考えている。
だがいい方法がどうにも思いつかない。
一方、テディとナディアさんは俺の書いた空間操作魔法のテキストを学習中。
ただ進捗ははかばかしくない状態だ。
「難しいです、これは」
テディが俺の書いたテキストを読みながら嘆く。
テディとナディアさんの移動魔法習得計画は遅々として進まない。
ナディアさんは一般相対性理論のところで早くも躓いている。
テディも量子論で停滞中だ。
「確かに難しいかもしれないけれどさ。文章の意味はわかるだろ」
「文章の意味も図の意味も理解出来るのですわ。でも頭の中に入っていかないのです。書いてある事を理解しようとしても感覚が受け付けないのですわ」
「納得出来ないという方が正しいのでしょうか。静止している状態で出した光の速さとゴーレム車で走りながら出した光の速さを同じとして考える時点でもう理解というか納得できないです」
言いたい事はわかる。
「グルーチョ君のように魔法を全部おぼえられれば楽なのですけれどね」
確かにこうやって理論をそのまま受け入れられれば楽だよな。
人間だと今までの生活で得た経験や感覚が邪魔をする……
そうか。
確かにそれは試してみる価値があるかもしれない。
「グルーチョ君に移動魔法をおぼえさせるか。出来るかどうかわからないけれど」
「それで代わりになるでしょうか」
未来視を使って確認してみる。
「大丈夫そうだ。ちょっとキッチンからグルーチョ君を借りてくる」
「良かった。これでこの難しいメモを理解しないでいいんですね」
「うまくいけばだけれど」
グルーチョ君は基本的にキッチンでスタンバイしている。
「グルーチョ、事務所までついてきてくれ」
ついてくるのを確認して階段をおりて事務所へ。
「テディ、ちょっとその教本を貸してくれ」
これをおぼえさせるのが一番手っ取り早いだろう。
「グルーチョ、これから空間操作魔法に関する理論を教える……」
◇◇◇
「……この一連の操作が移動魔法だ。理解したら頷いてくれ」
グルーチョ君はゆっくりと頷く動作をする。
理解したらしい。
「ならグルーチョ、移動魔法で今の場所からナディアさんの後ろまで移動してくれ」
ふっとグルーチョ君の姿が消える。
そして同時にナディアさんの背後に出現。
成功だ!
「ゴーレムに抜かれてしまったと思うと悔しいですわ」
テディが何ともいえないという表情をしている。
「でもこれでこの難しい理論を覚えないで済む方がありがたいです」
ナディアさんは明らかにほっとしている感じだ。
そんなに難しかったのだろうか。
難しかったのだろうな、きっと。
良く考えたら俺も結構苦労したし。
「でもグルーチョ君が不用意にこの魔法を使わないように、何らかの制限をかけた方がいいですね」
「命令者を絞って、更に何か条件を付けた方がいいでしょう」
確かにそうだな。
「命令者はこの家の住人に限定して、更に移動魔法でと明示的に付け加えた時でいいかな、当面は」
「そうですね」
「妥当な線だと思いますわ」
「それでこの件は皆に話しておくか」
2人とも頷く。
「単に魔法を教える実験でやってみたら成功した。そういう風に言えばいいのではないでしょうか」
「アシュがいなくても移動魔法を使いたい時があると思いますから。でも移動先に誰もいない事を確認するにはどうすればいいでしょうか」
それは難しくない。
「こうすればいい。
グルーチョ、移動魔法を使う際の条件に付いて指示する。以降は明示的にこの指示に従わなくていいとした場合を除いてこの指示を守るように。
指示1 移動先を確認して、俺、テディ、ナディアさん、ミランダ、フィオナ、サラ、ジュリア、ジョーダン国王陛下、ロッサーナ王妹殿下以外の人に目撃される事が無いようにする。目撃される場合は移動しない。ただし目撃されてもかまわないと後述する指示者が明示的に命令した場合は例外的に移動していい。
指示2 移動魔法を起動するのは明示的に移動魔法でと指示された場合に限る。
指示3 移動魔法を使用するのは俺、テディ、ナディアさん、ミランダ、フィオナ、サラ、ジュリアに指示された場合に限る。
以上だ。了解したら頷いてくれ」
グルーチョ君は頷いて了解の意志を示してくれる。
「それで大丈夫だと思いますわ。あとは移動魔法で何処へでも移動できるよう、場所や地図を覚えさせればいいと思います」
なるほど、そういう作業も確かに必要だな。
「それじゃ地図を持ってこよう」
図書室からスティヴァレの国内地図とゼノア、ラツィオの詳細地図をそれぞれ引っ張り出してくる。
「グルーチョ。これは地図と言って……」
地図についての教育が始まる。
◇◇◇
地図を覚えさせた後、ここの面子が行く可能性がある場所として、
〇 ラツィオのヴァルレ公園
〇 ゼノアの木材屋近くの路地
〇 バルマンのリゾート
を取り敢えず俺が同伴して移動し覚えさせた。
「これで大丈夫だな。他に行きたい場所があったら教えてくれ」
「今のところこれで充分ですわ。それでは早速行ってみますね。グルーチョ君、移動魔法で私をラツィオのヴァルレ公園までお願いしますわ」
すっとテディの姿が消える。
成功かな。
試しに空間操作魔法でヴァルレ公園にテディがいるかどうかを見てみる。
お、いたいた。
周りを見回してうんうん頷いている。
どうやらヴァルレ公園に着いた事を確認しているようだ。
王宮や教会の塔が見えるから確認は簡単だよな。
あ、何か急に困ったような表情をしたぞ。
どうしたのかな。
「ところで今の呪文で自分だけ移動した場合、どうやって帰ってくればいいのでしょうか」
ナディアさんの台詞で気付く。
見るとグルーチョ君はさっきと同じ、ナディアさんの後ろにいたままだ。
なるほどテディが困った顔をしているのはそういう事か。
仕方ない。
テディの周りを確認して移動魔法をかける。
テディが現れた。
周りを見回してほっと息をつく。
「助かりましたわ。まさか帰る手段がないとは思いませんでした」
仕方ない。
「グルーチョ君、指示をひとつ追加だ。移動魔法を使う際は、明示的な否定が無い限り、移動魔法をかけた人と一緒に同じ場所へついていく事。了解なら頷いてくれ」
グルーチョ君は首を縦に振る。
これで問題は起きないだろう。
多分、きっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます