第25話 国王陛下の秘密
折角作った岡山県東部発祥で実家流のカキオコも4分割してしまえば僅かな量だ。
「どれも美味しいけれどアシュのは別格だな」
残り2人はそれぞれ夢中で食べている。
ガシガシ食べるフィオナ流。
一口ごとにじっくり味わうテディ風という感じにだ。
ただ俺以外のお好み焼きも悪くはない。
ソースもオリジナルとはかなり違う。
ここのは色々出汁を加えたマヨネーズという感じ。
けれど味そのものは結構美味しい。
その辺店主らの試行錯誤が感じられる。
「さて、2回目分を作るか」
俺は今度は広島風に挑戦。
まずは生地だけを鉄板に円形に伸ばし、ある程度しっかり出来るまで焼いて……
もやしが無いのは俺的には構わないがイカ天は欲しかったかな。
そう思いつつ片面が薄い生地、片面は焼きそば&卵のほぼ広島風、無事完成。
ちなみに実家ではこれを広島風と言わずモダン焼きと呼ぶ。
モダン焼きの定義も人と地方によって変わるらしいけれどその辺は省略。
「アシュの作る奴は今度も大分違う感じだな」
「これが多分本来の
ちゃんと麺もスパゲティの細いものではなくラーメン風の麺だった。
どこかでかん水を調達しているのだろうか。
そう思いつつこれもまた4つに切り分ける。
「今度の合宿でこれをマスターするのもいいかな」
「そうだな。こっちの簡単な方なら切って焼けば何とかなりそうだ」
そんな事を言いながら取り敢えず満足いくまで食べて店を出る。
「こういう食べ方も面白いよね」
「そうですわね。今度家でやってみてもいいかもしれませんわ」
「だな。どうもアシュ、知っていそうだからな」
バレたか。
「でもあのソース、結構作るの面倒だぞ」
「それくらいレシピ本召喚出来ないかな?」
「ソースは確か作った後ある程度寝かせないと美味しくならなかった気がする」
「それじゃ今度の合宿に間に合わないな」
そんな雑談を話しているうちふと思い出した。
「そういえば陛下は何処であの料理のレシピを手に入れたんだろう」
そうだ、それが問題だったんだ。
「何か外国からの旅行者とかに聞いたんじゃないのか」
ミランダの台詞が一般的な見解だろう。
でもおそらく違う。
大阪風お好み焼きと広島風お好み焼きが併存する場所なんてのがこの世界にあるとは思えない。
強いて言えば東京あたりのいい加減な店だろうか。
でもそれならもんじゃ焼きがあってしかるべきだと思うのだ。
「取り敢えず服を受け取ってこようよ」
「そうですわね」
俺の疑問は宙ぶらりんのまま持ち越される。
◇◇◇
今日はテディの日だ。
絶対こんなのバレたら特に学校時代の親衛隊の皆さまに抹殺されるよな。
何せ侯爵家から勘当された後も数こそ減ったが親衛隊は存続していたから。
男子で構成された隠れファンクラブみたいなものもあったようだし。
こうなった今でもこんなに綺麗どころを独占していていいのかという気がする。
その辺の質はなまじの大貴族の当主以上じゃないだろうか。
本当に俺相手でいいのだろうかと悩むとどう考えても……という結論に行きつきそうなので最近はあまり考えないようにしている。
とまあその辺細かい事は置いておいて。
さて、夜の時間も相手によって部屋での大雑把な進行は違う。
そしてテディとの場合はお茶を飲みながら雑談、という形で始まるのがだいたいのパターンだ。
そして今日の話題でこんな話が出た。
「夕食の帰り、陛下の話が出ましたのを覚えていますか」
俺はすぐ思い出す。
というよりずっと頭の中に疑問が消えないで残っていたのだ。
「何処であの料理のレシピを手に入れたんだろう、そんな話だよな」
「ええ」
テディは頷く。
「それで思い出したことがあるんです。
父や祖父、いや改革前に政権中枢近くにいた大貴族のほとんどは今の陛下に対してある疑問を持っています。あの陛下は、あの化物は何なのだろうかと」
「化物ですか」
「父達に言わせれば」
テディは頷いて続ける。
「俗にクーデターと言っていますが、実際どうやって殿下が政権を掌握され、国政を変えられたか噂でもいいから聞いたことがあるでしょうか」
「陛下単独で国王及び側近全ての護衛魔法騎士を倒してという噂なら」
あえて俺が耳にした事がある、誇張された噂だと思うものを言ってみる。
しかしそこでテディは頷いた。
「実際その通りだそうです。当時の当主であった祖父によると、単独で先代国王陛下を始め側近大貴族数人が談話中の処へやってきて、国政をないがしろにした罪で先代国王に退位を宣告。取り押さえるよう命令された魔法騎士数人を瞬時に戦闘不能にして、先代国王及び貴族達自らの反撃をあっさり受け流した上で再度退位を宣告したそうです」
馬鹿な。
魔法の性質上、ありえない筈だ。
何せ基本的にこの世界では誰も使える魔法は同じ。
無論元々備わっている魔力は最大で2倍程度の差はある。
逆に言えば2倍程度の差しかない。
いかに王家が優秀な魔法使いの血を引いているとしても、3人以上の魔法騎士に魔法戦で勝つのは困難だ。
それに大貴族なんてのは大抵本人もかなり強力な魔法使いの筈。
そんな相手を何人も一度に相手して勝つ方法だと。
不意打ちなら何とか可能だろうか。
いや、それでもまず無理だ。
魔法使いなら魔力に応じた魔法抵抗力を持つ。
かけられた魔法が既知のものならとっさに相殺する魔力を発動させて耐える事が可能だ。
そして護身の為に王族だの貴族だのは大抵の攻撃魔法は習得済み。
つまり睡眠魔法とか直接対象者にかける攻撃魔法はかけられる相手の魔力の合計より自分の魔力が上回っていないとほとんど効果は無い。
あ、でもこんな方法はどうだろう。
「例えば建物を潰すとか崖崩れに巻き込ませるなんて方法なら、1対多も辛うじて不可能ではないかもしれない。
あとは特殊な召喚魔法で巨大な怪物を出して圧倒するとか」
テディは首を横に振る。
「クーデターは王宮内であったそうです。祖父の話によると、陛下にはどんな魔法で攻撃しても全く効かず、逆に陛下の魔法には誰も抗しえなかったそうです」
ちょっと待った。
「それってあり得るのか」
「目の前で祖父は見たそうです。それで祖父は陛下に従い、自身は当主から退いて隠居したのですわ。それでも従わなかった往生際が悪い某侯爵は身柄を拘束されて強制的に隠居させられたそうですけれど」
なるほど。
「それで化物という訳か」
確かにそう呼びたくなる気持ちはわかる。
何せこの世界の魔法の常識をはるかに超えているのだ。
「もちろんその後の国政の事を考えれば、陛下がやった事は正しいと思います。少なくとも国王陛下と側近貴族が密室で何事も決めているような政治よりははるかに。ですがそういう意味で陛下は謎の人物なのです。
ですがつい1年前の秋、私はそれを可能にする方法を一つ知りました」
1年前の秋か。
俺が生徒自治会に入った頃だな。
とするとアレか。
「俺はそういう魔法を使えないけれどな」
「でもアシュの使う本の取り寄せと翻訳は、アシュの知識が無い他の人には使えない魔法です。それと同じように他の人が知らない知識を使った魔法なら可能性があるのではないか、そう思うのです」
確かにそうだな。
俺が頷いたのを見てテディは続ける。
「アシュの、陛下は何処であの料理のレシピを手に入れたんだろうという疑問。何となくその疑問が陛下の魔力の理由と結びついているような気がしたのですわ。
さて、陛下の話はこれで終わりにして、もう少し楽しい私とアシュのこれからの話に移りましょうか」
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