第2話出会い。ジャンの片想い Christine view
私の名前はクリスティン。
レスト公爵家の一人娘。
いつも公爵家の恥にならないようにと気を使わないといけない。
爵位と財力をもつ私に気に入られようとする人々は沢山いる。
でも、心からの友達はいない。
5人の兄たちは私に優しいし、お父様も…。
お母様は私を産んだ時に亡くなってしまったけど、幸せだった。
でも、違うの。
なんでも話せるお友達が欲しかったの…………
私はある日、散歩と称していつもは入っては行けないと言われていらるもう森に入ってみることにした。
だめだと言われるほど、やってみたくなるものだ。
好奇心と躊躇いが胸の内を交差する。
意を決して森に入る。
一瞬の張り詰めた空気に目を閉じたが、すぐに緩んだ。
恐る恐る目を開けると、そこには色とりどりの花と揺れる緑色の葉。
隙間から顔をのぞかせる可愛らしい動物たち。
「わあ、きれい…」
少し歩くと、芝生の広がったところに出た。
1人の男の子が寝息をたてて眠っている。
「ねぇ、おにいちゃん、どうしたの?こんなところでねてたらおかぜひくよ?」
男の子が目を開く。
どうやら私に驚いているようだ。
綺麗な瞳に吸い寄せられる。
群青色に金の線という神秘的な色の瞳。
(なんて、かっこいいのかしら…)
「おにいちゃんはなんていうおなまえなの?」
もしかしたら、と思って名前を聞いてみる。
返ってきた答えは…
「俺の名前は、ジャン·ジャック·セルリオール·ウィルフリーズアだ。」
というものだった。この少年が、森の人狼王なのだろうか。
確か、そんな名前だったはず。
「わあ、おにいちゃんは、このもりのおうさまなのね!」
私がそう言うと、ジャンはさらに驚いた顔をする。
一応公爵令嬢だから、幼いながらも少しの教養はあるのだ。
「えっとね、わたしのなまえは、くりすてぃん·れすとっていうの。」
自己紹介した後に、きいてみる。
「あのね、くりすてぃん、おにいちゃんのことじゃんってよんでいいかな?」
期待の目で見上げると、ほんの少し赤く染ったジャンが答えてくれた。
「ああ、いいぞ。」
「やったあ!」
嬉しい。
本当に。
すると、唐突にジャンがきいてきた。
「クリスティン、お前のこと、ジュリアって呼んでもいいか?」
「なんで?わたしのおなまえにはじゅりあはいってないよ?」
「あ〜、そのだな。人狼では、大切な人はジュリアって呼ぶことになってるんだ。」
「くりすてぃんはじゃんのたいせつなひとなの?うれしい!」
大切な人。それはすなわち友達ということだろうか。
ジャンは私を友達だと言ってくれている?
良かった。
初めての友達がこんなかっこいい人で。
こんなにいい人で。
少しの期待から、
「ねぇじゃん、あしたもきていい?」
と聞いてみた。
「ああ、昼からならいいぞ。ただ…」
「ただ?」
「俺に会ったことを誰にも言わないでくれるか?森に入ったことも。この先もずっと。」
「うん!ぜったいいわない!やくそく!」
大切なジャンの頼み事だ。守らないわけがない。
「ありがとう、ジュリア。ここに来る時は絶対に一人で来るんだ。誰かに知られたら、俺の命が危ない。」
「じゃんのいのちが…くりすてぃん、絶対に守るね!」
私はジャンと約束をかわし、家路に着いた。
「あら?あなたはだれ?」
突然、後ろから声をかけられた。
でも、後ろを振り向いても誰もいない。
「あ、ごめんさい。」
すると、後ろの木に止まっていた珍しい青いナイチンゲールが、私の前に飛んできた。
目の前で、1人の少女に変わる。
よく見ると、私と同じぐらいの歳だ。
「わたしのなまえはるーるーりあ。じゃんのいもうとみたいなものよ。あなたは?」
「わたしはくりすてぃん。さっきじゃんのおともだちになったの。」
「そうなの?よろしくね。あとね、わたしのこと、だれにもいわないだくれる?」
「うん、いわない!」
「ありがとう!」
一日で2人も友達が出来た私は、家に帰ってから少し困るはめになった。
「お嬢様!どこへ行ってらしたんですか?探したんですよ!」
「クリスティン!」
「おとうさま…あのね、おさんぽいってたの。あしたから、おひるからおさんぽいっていい?その、ひとりで……ひみつのばしょなの。まもってくれるひとはちゃんといるから…」
「危なくは、ないのか?」
「うん」
「…………………仕方、ないな。だが、何かあっても私は知らないよ。」
「ありがとう、おとうさま!」
こうして、私は2人の友達を得たのだった。
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