学校帰りの殺人鬼
家島
学校帰りの殺人鬼
林太郎は、電車で通学する高校生。学校の最寄りの駅は、歩いて5分くらいの所にあり、駅員のいない無人駅。駅まで道は、外灯がなく、夜は道に接する家屋の窓から漏れる光のみで、暗い。
ある日、林太郎は学校を出るのが遅くなった。歩道を歩く人はいなかった。
ここ数十年間、毎年1度、同じ学校の電車通学の生徒が殺される事件が発生していた。犯行の手口から、同一人物によるものとされていたが、犯人は捕まっていなかった。毎年起こっていたが、その年に1度起こると、例外なくその年のそれ以降は起こっていない。
だから皮肉なことに殺人事件が起こらないと不安になっていたのであった。
林太郎もそう感じていた。
パシッ
いなかったはずだが、後ろで地面を叩く音がした。着地音のようなものだった。このときの林太郎には、その音の主が家屋の屋根から飛び降りてきたことを知るすべはなかった。
林太郎は後ろを振り返ると、音の聴こえてきた辺りに、林太郎が振り向くのを待っていたかのように立っていて、周囲の他の物より一際光を反射していた鋭い針—knife—を持っている人を確認した。林太郎は、恐怖で足が崩れる直前に走り出した。前—駅の方向—だけを見ながら。
林太郎は自分のものではない足音が一定の距離から聴こえ続けるのをもって、足の速さはほぼ同じくらいと察した。小さい駅舎の、蛍光灯の明かりが迫って来ていた。心臓の鼓動が速く、大きくなっていたのは、たんに走ったからなのか、刺されるのが怖いからなのか分からなくなっていた。
駅舎の蛍光灯は、手の届くところにあった。
林太郎は、走ってきた勢いでジャンプし、蛍光灯にしがみつき、もぎ取った。蛍光灯の熱さなど感じる暇はなかった。
数呼吸遅れて駅舎付近に着いた、人—殺人鬼—に向かって、蛍光灯を投げるような格好で蛍光灯を構えた。これを見て殺人鬼は足をいったん止め、林太郎の喉元を指すようにknifeを構えた。しばらくお互いにこの状態が続いた。
2人が動き出したのはほぼ同時だった。2人の間の距離が一気に縮まった。
殺人鬼のknifeが、林太郎の腹を貫く。そうなるはずであった直前、林太郎は左足で地面を蹴り、殺人鬼の左側へ移動、それと同時に、彼の左足を引っ掛けて転倒させた。両手をついて肘を上げた殺人鬼を起き上がらせまいと、胸の裏を強めに左足で抑え、再び胸を地面に着かせた。左足の圧力を少しでも弱めたらすぐに身を起されてしまう状況では、殺人鬼の背中に乗り移るには1秒も持て余せなかった。そして、殺人鬼の髪の毛を引っ張り首を上げ、喉ぼとけの下に、まだ熱さの十分に残っていた蛍光灯を押し付けた。
もうすぐで静止する電車に気付き、殺人鬼の頭を靴裏で擦ってから、車内に入った。
ドアが閉まり、電車が発車し、駅舎の中で倒れている殺人鬼が視界の端へと移動していった。林太郎は心の底から大きなため息をついた。
林太郎が、自分の太腿をknifeが貫いているのを知るのは、knifeの先から滴る血で赤くなっていた床を見てからであった。
学校帰りの殺人鬼 家島 @Shochikubaitaro
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