49
ヴァレリー率いる正規軍と、ユベール・シャニョンが先頭に立つ叛乱勢力とが、おのおの陣を構えるそのあいだの地に、両者の会談の場が設けられることとなった。椅子が三脚に小机がひとつ用意され、その様子はその場にいる誰の目からも明らかになるよう、遮蔽物になりそうないっさいが取り除かれた。
愛馬ルナの手綱を下男に預け、身につけた鎧の位置を正したり、腰に佩いた剣を確かめたりしているヴァレリーの隣では、オリヴィエが先ほどからくどくどと文句を云い続けていた。
「おひとりで出向かれるとはどういうことですか!」
「そのままだの意味だ」
なぜです、とオリヴィエは両腕を広げて断固抗議の体勢をとった。
「私を連れて行かれてもなんの問題もないではありませんか。なぜ、あえてわざわざ危険な真似を!」
「向こうはおれにひとりで来るように、と云った。おまえを連れていけば、ジェルマンがどうなるかわからん」
こうも見通しがよくては、隠れてついてきても無駄だぞ、とヴァレリーは云った。
「その代わりにこちらとしても向こうの動きがよく見えるのだ。ジェルマンがこちらに向かう気配がなかったり、シャニョンがおかしな動きを見せたりすれば、それを機に攻め込めばいい。武力衝突を避けたいのは向こうだからな。利はこちらにある」
おれの剣の腕は、ひとりを相手に簡単に負けるほど鈍くはない、とヴァレリーは云った。
「もしもシャニョンが相当な手練れで、突然に斬りかかってきたとしても、おまえが駆けつけてくるまでのあいだくらいは持ちこたえてみせるさ」
それよりも、とヴァレリーは背後に控えている兵らに厳しい視線を遣った。
「手筈はきちんと周知したのだろうな」
「もちろんです」
整然として佇まいを変えないヴァレリー側の軍列に比して、叛乱勢力側の陣営にはやや乱れが生じていた。ヴァレリーが突きつけた交渉条件――エヴラールを伴ってくるのであれば、シャニョンにヴァレリー本人との話し合いを許す――のせいであると思われた。
「殿下のお考えどおり、シャニョンとクザンのあいだで意見が割れたようです」
叛乱勢力と対峙する直前に放っておいた数人の斥候のうちのひとりがもたらしてきた知らせだった。そうであろうな、とヴァレリーは満足げに頷いた。
「シャニョンは殿下との交渉の機会を逃すべきではないと云い、クザンはこれは罠だと云い張った。連中の一部は出撃の準備を整えはじめているようです」
「ある意味ではクザンの慧眼を褒めるべきなのかもしれないな」
「ふざけている場合ではございません」
ふざけてなどいない、とヴァレリーは云った。もしも自分が王太子などという立場になかったら、クザンやシャニョンのような男たちとは、一度おおいに語り合ってみたいところである。なにかと口やかましいオリヴィエと話すよりも、よほど有益な談義が叶いそうな気もする。
そんなことを云えば、オリヴィエは自ら喉を突いての抗議も厭わないであろうな、とヴァレリーは小さな苦笑いを浮かべて、正面へと視線を戻した。
切り立った崖縁へと続くのは、なだらかな草原である。弱々しい陽射しに揺れる草の海は、この季節にはありえない枯れた緑色をしていた。
今年はこれまでに例のないほどの不作に陥るだろう、とヴァレリーの胸は厭な予感に塞がれた。民の一部が蜂起したことも含め、これからこの国の舵取りは相当に難しいことになるはずだ。
すでに西国に向けては、農作物の輸入に関して最大限の配慮をしてもらえるよう強く要請している。しかし、この天候不順が東国のみにとどまるような規模であるとは考えにくく、西国からの援助に大きな期待はできない。
過去の備蓄とこれからの節約、それから大陸を越えての食糧の輸入を大急ぎで検討しなくてはなるまい。富裕層による買占めを防ぐべく対策に遅れがあってはならないし、貧困層への手厚い援助も考えておかなくてはならないだろう。
こんなことをしている場合ではないといのに、とヴァレリーは不意に妙な焦りを覚えた。焦りはすぐに苛立ちへと変わる。国を思うのならば、このようなときこそ民も貴族も力を合わせて利害を越えるときではないのか。民のための
「殿下っ!」
焦るオリヴィエの声を振り返ることもなく、ヴァレリーは苛立ちに任せて一歩を踏み出した。
「まいりましょう、エヴラール殿下」
相対する陣営から、王太子と思しき人影が歩を進めはじたことを見て取ったユベール・シャニョンが、そう呼びかけてきた。エヴラールは、ああ、と応じて彼の隣に肩を並べた。
ヴァレリーの提案に乗ろうとするシャニョンの選択が不満でならないクザンは、ひどく険しい顔をして、絶対に油断するな、くれぐれも気をつけろ、としつこく云い続けていた。
「少しでもおかしいと感じたら、すぐに殿下を人質にとって合図を送れ」
わかってるな、と念を押すクザンに、こいつを人質にとれなどと、本人を前にしてよくもそんなことが云えたものだ、とエヴラールは少しばかり可笑しくなった。複数を相手にするならばともかくとして、シャニョンひとりを相手に、私がおとなしく従うと思っているのだろうか。
思っているのだろうな、とエヴラールは顔を陰らせた。人質にとられているルシエとレミュザのことを思い出したからである。
クザンは彼らの所在についてひと言も漏らさない。たとえ、ここで自分の身柄が解放されたとしても、ルシエらの行方がはっきりするまで喜ぶことはできないな、とエヴラールは思った。
そういう意味では自分は叛乱勢力に捕らわれたままのほうがいいのではないか、とエヴラールはそんなことを思う。こうしてアランが軍を率いて姿を見せた以上、自分の運命は決まったようなものだ。だとしたら、せめてルシエらの身の安全だけでも守ってやりたい。
「わかっているが、なにがあると決まったわけではない。先走っておかしな真似をしないよう、みなによく気を配っておいてくれ」
リオネル、とシャニョンはクザンの肩に手を置いた。
「武力では敵わない。見れば明らかだろう。戦うな。殺すな。いいな」
ああ、とクザンは頷いたが、納得していないことは明らかだった。エヴラールの背中に冷たいものがゆっくりと流れ落ちる。なにやら厭な予感がした。――まだ、だ。まだ、死ぬわけにはいかない。
エヴラールはきつい眼差しで前方を睨み上げ、ふ、と小さな息をついた。
どのような理由があったにせよ、国王に叛逆を企てた者たちに身柄を捕らえられ、王家に連なる者としての立場を利用された罪は死をもってしても償いきれるものではない。
エヴラールにはそのことがよくわかっていた。
王家の男として、身辺への警戒を怠るべきではなかった。学問に夢中になるあまり、そこを疎かにして国を騒がせた自分の罪は重い。シャニョンやクザンらの罪とは別に、自分は正しく――死をもって――裁かれなくてはならない。
死ぬことをおそれるつもりはない。いつか必ず、誰にも等しく、死は訪れる。早いか遅いか、惨めかそうでないかだけの違いだ。自分で自分の身を守ることを怠った愚かな自分には、惨めな死こそがふさわしい。
それは、クザンの罠にかけられたことを知ったときから、エヴラールが決めていた覚悟だった。
償おうなどとは思わなかった。王家の一員でありながら、王家に背く者たちに力を利用された罪は、償っても償いきれるものではないからだ。たとえ誰かの――アドリアン・トレイユの――計略によるものだとしても、これはエヴラールが自身の立場をよく弁えていれば防ぐことができたかもしれない過ちである。
誰かのせいにすることはできない。叛乱勢力の、あるいはトレイユのせいにすることはできないのだ。
しかし、ただ死んでやるというのも癪に障る。あのトレイユのほくそ笑む顔など見たくもない。――必ず、一矢報いてやる。
「殿下、まいりましょう」
ふたたびシャニョンに促され、ふたりは今度こそ歩みを進めた。
歩きながら、エヴラールはまっすぐにヴァレリーだけを見つめていた。華やかな容姿が少しずつはっきりしてくる。
あの苛烈な従兄はこの私の姿を見てなんと云うだろう。死ねと命じるのか、あるいは憐れみを施すつもりか。
双方の距離は、やがて互いの表情が読み取れるほどまでに近くなった。
王太子ヴァレリーと対峙したシャニョンがまず感じたのは、凄まじいばかりの威圧感だった。物理的圧力にも似た迫力に、一度足を止めてしまえば二度と踏み出すことができなくなるような気さえした。
対するヴァレリーの眼中にシャニョンはいない。彼が気にしているのは自身の愚かな従弟エヴラールのことだけであり、叛乱勢力という記号の一部にすぎない男になど興味はなかった。
だからと云っていいのかどうか、そのときその場でもっとも冷静でいられたのは、もっとも弱い立場にあるはずのエヴラールだった。
「お初にお目にかかります、ヴァレリー・アラン王太子殿下」
「無事か、ジェルマン」
せいぜい高飛車に繰り出したはずの挨拶を、完全になかったことにされたシャニョンが苛立ちの声を張り上げるよりも先に、エヴラールが口を開いた。
「……私が云うことではないと思うのだけど」
とりあえず座ってみたらどうだろう、とエヴラールはそう云って、自らが真っ先に椅子のひとつに腰を下ろした。ふたつとひとつとで向い合せに置かれた椅子の、ひとつあるほうへと思わず足を向けたくなったが、そこはぐっと踏みとどまる。
「王太子殿下!」
「ジェルマン!」
ふたりが渋々ながら腰を下ろしたところで、きみたちふたりはよく似ているみたいだ、とエヴラールは云った。
「自分の話したいことを話すばかりでは、話し合いにはならないだろう」
「王太子殿下は僕との交渉に応じてくれると……」
「おれはジェルマンと話をしに来たのだ」
おまえは黙っていろ、とヴァレリーはそこではじめてシャニョンを見た。炯々と光る夏空色の瞳に、しかしびくびくしてばかりもいられないシャニョンは、腹の底にぐっと力をこめて言葉を並べた。
「王太子殿下はいまの状況をまるで理解されておられないようですね」
「理解?」
ヴァレリーの声が冷たく凍りつく。
「しているさ、十分に。おまえたちこそ、自分たちの置かれている立場を自覚したらどうだ」
「していますとも」
僕たちは国の未来を憂いているだけです、とシャニョンは云った。
「しかし、ただ嘆くばかりではどうにもならぬと自覚を抱き、最初に立ち上がったにすぎない。民はみな、僕たちと同じ意見のはずだ」
莫迦なのか、おまえは、とヴァレリーは吐き捨てた。
「おまえたちはただの叛逆者だ。すぐに捕らえ、その咎を負わせてやろう」
「あなたもまた傲慢な王族のひとりにすぎないというわけですか、王太子殿下」
そうだ、とヴァレリーは嘯いた。
「傲慢で愚かで、それを悔い改めもしない国王の一族。しかし、われらはおまえたちとは違う。己の咎による責めを負う覚悟はいつでもできている」
「われらと話し合う余地はない、というわけですか」
気色ばむシャニョンを、ヴァレリーが鼻で笑う。
「話し合う、などとどの口が云うのだ。ジェルマンを
シャニョンは奥歯を噛み締めた。――だから厭だと云ったのに。
もともとシャニョンは、今回の蜂起にエヴラールの力を利用することには反対の立場を取っていた。それを枉げることとなったのは、その策を拒むならば資金の融通は考えなければならない、というトレイユのひと言のせいだった。あの言葉のせいでクザンがトレイユに傾き、結果、シャニョンも肯わざるをえなくなってしまったのである。
「シャニョンに罪はないよ、アラン」
思いがけない声と言葉に、シャニョンとヴァレリーは思わずまともに顔を見合わせてしまい、そののちに慌ててそれぞれの視線をエヴラールへと向けた。
「どういう意味だ? ジェルマン」
「この革命に私を利用するように云ったのは、私自身だ、という意味だよ、アラン」
なに、とヴァレリーは思わず腰を浮かせた。動揺したのは彼ばかりではない。シャニョンもまた同じである。
「な、なにをおっしゃるのです、エヴラール殿下!」
「なにって、真実を述べたまでだ」
「嘘をつくな! ジェルマン!」
おまえがそんな戯けた真似をするはずがない、とヴァレリーは小机を叩いてそう怒鳴った。あってはならない、あるはずがない、という動揺が王太子の全身に広がっていく。
殿下、と震える声を上げたのはシャニョンだった。
「殿下はリオネルに脅され、仕方なく……」
「脅す?」
さも意外なことを聞かされた、と云わんばかりの口調でエヴラールが笑う。
「誰が誰を脅すと?」
「リオネルが、トレイユの企みに乗ったリオネル・クザンがあなたを……」
トレイユだと、とヴァレリーは唸る。
「おまえたちの背後にいる貴族とはアドリアン・トレイユのことか」
シャニョンがさっと青ざめた。とんでもない失言を悔やんでも、口にしてしまった言葉を取り消すことはできない。
「そうだよ、アラン。私はトレイユと手を組んだ。彼らを焚きつけ、唆し、王都へ上って伯父上の治世に終止符を打つつもりだったのだ」
「おまえ……なにを……」
エヴラールの告白にヴァレリーは身体じゅうから力が抜けていくのを感じる。なんだ、いったいなんの話をしているのだ、ジェルマンは。
ヴァレリーの向かい側では、ユベール・シャニョンが王太子とまったく同じような表情で惚けている。おかしなことだ、とヴァレリーは思った。なぜおまえがそんな顔を、――そんな、顔。そうか。
そうか、とヴァレリーは稲妻に打たれたような勢いで立ち上がった。
「黙れ、ジェルマン! このおれに偽りを云う気か!」
そうですよ、殿下、と叫んだのはシャニョンだ。
「あなたはリオネルに脅されて、彼の企みに協力させられただけじゃありませんか!」
「私の父がトレイユと懇意にしていたのは、おまえが一番よく知っているはずじゃないか、従兄どの」
その言葉に驚いたのはシャニョンである。あのトレイユがなぜエヴラール殿下にこだわっていたのか、その理由がこんなところで明らかになるとは。
トレイユが資金の融通と引き換えにエヴラールの拘束を求めてきたとき、どれほど理由を尋ねてもはっきりとした答えは得られなかった。王都へ向かうのにも、国王との交渉に臨むのにも、人質があったほうがことを進めやすいというあたりまえの理屈に押し切られ、その人選に際しても、ちょうど領地視察で北へやってくるエヴラールが誘拐するのに都合がよかったからだ、と聞かされていた。
「叔父上とおまえとは違うだろう」
「なにが違う?」
なにも違わないさ、とエヴラールは云った。
「私が不満を抱いていたのだとは思わないのか、アラン。父を蔑ろにされているばかりか、王太子たるおまえは愚かなる振る舞いばかり。この私が王位に就いてもおかしくはないと、私がそう考えていても不思議はないだろう?」
「おまえのことは調べさせた」
ヴァレリーの声は掠れている。
「金の流れにも、日々の行動にも、おかしなところはなにもなかった」
本当にそうかな、とエヴラールは笑った。
「トレイユはしょっちゅう父上のもとに出入りしていたんだ。私が人目を避けて彼と会い、密談を交わすに不自由することはなかった。金についてはトレイユに融通させた。私の懐は、そう、アランも知ってのとおり、学問という道楽のせいでさほど豊かとは云えないからね」
ヴァレリーは言葉を失い、その場に立ち尽くした。頭の内側から、銅鑼をがんがんと叩くようなひどい音が聴こえてくるような気がする。
嘘だ、ありえない、とヴァレリーは必死に思考しようとする。あのガスパール・ソランですらジェルマンを疑わなかった。職業的猜疑心に凝り固まったような、あの男がだ。
なぜだ。なぜだ、ジェルマン。なぜ、そのような嘘をつく。
「エヴラール殿下」
シャニョンに呼びかけられたエヴラールは、呆然としたままのヴァレリーから目を逸らし、薄く微笑みながら、なんだ、と応じた。
「いったいなぜそのような偽りをおっしゃられるのか、理解に苦しみます」
殿下はリオネルに騙されたのでしょう、とシャニョンは声を震わせた。
「おまえこそクザンに騙されているのではないのか、シャニョン」
「な、なにを……?」
「私はトレイユと結託していたのだ。クザンとではない。わかるか」
シャニョンも、そしてヴァレリーも、もはやひと言も返すことができないまま、エヴラールの言葉に打ちのめされていく。
「蜂起する革命軍と合流することも、行軍の際には私の徽章を掲げることも、すべてはトレイユと示し合わせていたことだ。クザンはトレイユの指示に従ったにすぎない」
「そんな話……」
聞いたこともなかったか、とエヴラールはさも可笑しそうに云った。
「おまえたちになにもかも話す必要がどこにある?」
青褪めていたシャニョンの顔にぱっと朱が差した。震える声を必死に抑えた低い声で、彼が尋ねた。
「……リオネルは、知っていたのですか」
エヴラールはにやりと笑った。吐き出された答えは、粘りつくような笑いにふさわしい底意地の悪いものだった。
「さあ、どうだろうな」
シャニョンが椅子を蹴って立ち上がった。彼の瞳には、相対しているヴァレリーの姿も、すぐ隣にいるエヴラールの姿も映ってはいない。驚いたように自分を見ているヴァレリーの目にも、自分をじっと見上げてくるエヴラールの静かな瞳にも、だから気づきもしなかった。
シャニョンの脳裏に、クザンからかつてぶつけられた厳しい言葉がふと蘇った。――理想、理想とおまえは莫迦のひとつ覚えみたいに繰り返すが、理想で腹が膨れるものか。現実を見ろとは云わないが、気にくわないものを見ないふりぐらいできるだろう。
あのときの彼の顔は、いまでもはっきりと思い出せる。
トレイユから資金を受け入れるかどうかで揉めたときのことだった。貴族制度に逆らおうとする僕たちが、貴族の金を受け入れてどうする、と至極まっとうなことを云ったつもりだったのに、クザンはシャニョンの話など聞こうともしなかった。
故郷の街で神童と呼ばれ、その名を知らぬ者はいないほど賢かったリオネル・クザンは、シャニョンにとって憧れの存在だった。その才を買われて王城学問所に出入りすることを許され、王都へ出ていくときの彼の華々しい様子は、その後何年もシャニョンの胸を高鳴らせたものだ。
やがてふらりと帰って来たクザンに王都でなにがあったのか、すべてをきちんと訊いたことはない。王都にいたときの彼に関心がないわけではなかったが、それよりも近くにいるクザンのほうがよほど興味深かった。クザンの真似をして学び、クザンの真似をして議論を覚えた。
自分でも青臭いと顔を顰めたくなるような理想論を、クザンは飽きもせずに聴いてくれた。そして云った。――おまえの理想は、民の理想だ。そして、俺の理想でもある、と。
仲間を募り、計画を練り、決起のときを待った。
仲間たちを率いる者とそれを支える者。その立場に違いはあっても、シャニョンにとってのクザンは、己の最大の理解者だった。
理解者だと、思っていた。
なのに――、リオネルが僕を裏切っていたというのだろうか。
シャニョンはのろのろと背後を振り返った。仲間とともに後方からこちらの様子を窺っているはずのクザンの姿を探す。信頼すべき同胞の顔はすぐに見つけられた。
しかしシャニョンは、なおもなにかを探し続けるように瞳を眇める。そのなにかとは、見えるはずもない裏切りの影であるに違いなかった。
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