1章 自宅

1章 自宅


工場勤務は朝が早い上に夜は遅い。

その上通勤は電車を乗り継ぎ2時間以上かかる。


残業代は雀の涙。

うちの会社ブラックなのかな?

けっこう、重労働だし……。


人とあまり話さなくても良いという一点のメリットだけで働き続けている。


ようやく取れた休日を堪能しながら、タバコから立ち上る煙に思いをはせる。

タバコにほのかな甘さを感じつつ、同僚のことを思い浮かべる。

あの同僚は働きすぎておかしくなってしまったのかな?

不幸な事故に見舞われてしまった事は残念だった。


同僚は休憩時間に話せる数少ない人間だった。

自分も彼も家族がおらず、似たような境遇にシンパシーを感じていたのかも知れない。

今でも気になる存在だ。


「!」


その時、思わず何かの気配を感じて飛び起きた。

視線を感じ、気配の先を確認してみるが何もない。


タバコの煙もさっきと変わらず部屋を漂っている。

注意深くあたりを見回すが、いつもと変わらない自分の部屋が映る。


自分も働き過ぎだろうか?


誰に問う訳でなく自問自答してみる。


ちょっとした恐怖を感じ、気分転換に何かしようと思い立った。

今日は時間もあるし、ちょっと掃除でもしてみようか。

もう半年もしていない。

一人暮らしであまり家にもおらず、汚れていないとはいえ埃はたまる。


誰かこの家に訪ねてくる事でもあれば掃除をしているのかもしれない。

だが、長い間、誰も来ることもなかったし、今後もないだろう。


いつの頃からだったか、友人も恋人も家族も作ることなく生きてきてしまった。

とにかく何もかもおっくうになってしまったのだ。


つれづれと思いつつ、タバコの火を消し重い体を引き起こして隣の部屋に向かった。


そういえば、押し入れを長い間、開けてないな……。              


押し入れを開ける。

煩雑に詰まった様々な物が崩れ落ちる。


「やっぱり開けなきゃ良かったな」


床に散らばった物を見てみると懐かしいものばかりだが、見覚えのない金属が見えた。

押し入れからバールのような物が見つかった。

「バール……かな?」

その物体はバールに違いなかった。


自分で入れた記憶はないが、吸い寄せられるように手に取る。

何故か安心感が広がり、わずかに心が軽くなったように思う。


少し散歩に行ってみようかな?

散らかった物をそそくさと押し入れに放り込み出かける準備を始めた。



出かける準備をしていると、長年玄関にほったらかしにしてあったフリスビーが目に留まる。

特に考えて行動したわけではなかったが、思わず手にとって眺めてみる。

懐かしい子供の頃のことが脳裏によぎったが、すぐに掻き消えてしまった。


「そうだ!公園に行ってやってみようか。」


馬鹿な考えかもしれないが、不思議とやってみたい衝動にかられる。

急いで準備し、フリスビーを片手にでかけた。


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