After story・チョコレートキス再び

 チョコレートとは、甘くて美味しい食べものである。


 そして、そのチョコレートが最も主役となる日が──バレンタインだ。


 好きな男性のために、女性が手作りのチョコレートを贈る行事。


 私、黒谷 夏凛はチョコレート作りの練習をしている。料理が得意ではないから、市販の板チョコを型に流し込んだあと冷蔵庫で冷やし、出来上がったチョコにトッピングをする程度のもの。


「はい、出来上がり。オーソドックスなハート型のバレンタインチョコだけど、兄さん喜んでくれるかなぁ~」


 愛はいーっぱい込めてますから、きっと喜んでくれるはずです。


「さて、兄さんを起こさなきゃ」



 私は兄さんを起こすために部屋にコッソリ忍び込んだ。


 何故忍び込むかって? 兄さんの寝顔を拝見するためです。

 だって、兄さんのお顔はとても可愛いんですもの。いつまでも見ていられます。


 ギィッと音が鳴らないようにしてベッドに近付く。


 あ、兄さんの顔だ。この寝顔を見れるのは彼女である私の特権。拗ねた顔も、笑った顔も、悲しそうな顔も、全部私のもの。

 最近はエッチの時の顔も見れて、ますます兄さんの事が好きになりました。


 ああ……もうダメ! これ以上兄さんを見てるとお腹の奥がキュンキュンして我慢できなくなっちゃう!


「……はぁはぁ、兄さん……」


 我慢の限界に達した私はブレザーのボタンを外し、更にブラウスのボタンを3つ外して毛布に潜り込んだ。

フワッと兄さんの匂いに包まれて頭がクラクラし始めた。


 兄さんに重なるように覆い被さると、唇が目と鼻の先にあった。


 これ以上は本当に……ダメ!


 私は目を背けた。これ以上は歯止めが効かなくなりそうだから────。


 何故なら、兄さんとの新しい家族ルールがあるからです。そのルールとは、セックスは金曜日の夕方から深夜まで。そういうルールを作らないと、どこまでも落ちてしまうからです。


 今日は木曜日、朝7時……あと一日もあるなんて、地獄そのものです。


 私が理性と本能との間で葛藤しているうちに、兄さんの瞼が開き始めた。


「ん……んん、なんだ。……重いんだが……」


 目と目が合う。私は「あははは……」と乾いた苦笑いを向けるしかなく、意識の覚醒が始まった兄さんは徐々にジト目へと変わっていった。


「夏凛……なんでここにいるんだ?」


「もう7時なので、起こしに来ました」


「起こしにって……ブラを見せながら布団に入ることを言うのか?」


「兄さん、私達はもう禁断の関係にあります。今更これくらい、わけないはずです。ほら、今日は水色のブラです、可愛いですか?」


 兄さんの視線が私のブラに、胸に釘付けになる。すると、兄さんは顔を赤くしてプイッと視線を逸らした。


「可愛いよ、可愛いに決まってる。だけどさ、こういうのでもやっぱドキドキするに決まってるじゃんか。────好きな人の胸なんだし」


「────ハウッ!」


 また射抜かれてしまった。この男性兄さんは後何回私を惚れさせれば気が済むんですか……。


「夏凛……そろそろ準備しないと」


「あ、ごめんなさい!」


 私は兄さんの上から退こうとしてふと考えた。


 今日はバレンタイン、やっぱり特別な起こし方をしたい。だけどルールは守らないといけない。


 どうすれば良いのでしょうか……あ、これなら良いかもしれない!


 私はチョコ作りの過程で出来た余りをポケットから取り出した。


「え、それが朝御飯?」


「今日はバレンタインです。ちょっと変わった起こし方をしたいのです。な・の・で、もう一度寝てください」



「わ、わかったよ」


 兄さんが渋々といった感じに承諾してくれた。妹のワガママに付き合ってくれる兄さん、とても素敵です。


 目を閉じて寝た振りをする兄さん、私はチョコを口に咥えてそっと近付いた。


 ふふ、チョコレートキス再びです♡


 兄の唇に自らの唇を重ねる。それと同時にチョコを一気に押し込んだ。


「んぐっ! ふぁりんっ!? いっふぁい何を!」


 構わず接吻キスを続ける。


「んんっ、……ちゅ……ぁ……はっ、ぁ……ん、ちゅ……」


 互いの熱で溶けたチョコを舌で絡めとる。その際に兄の舌とも触れ合って、まるでピアノを2人で弾いているかのよう。


 ああ、とても心地良い。いつまでもこうしていたい。


 そんな時間はすぐに終わりを迎えた。だって、チョコ一欠片なんですもの、すぐに終わるに決まってる。

顔を離した兄さんは蕩けた顔をしていた。きっと私はそれ以上に蕩けているはずです。


「夏凛、ありがとう。愛してる」


「どういたしまして。本命のチョコは夕方に渡しますから、今はそれで満足してくださいね」


「流石に次は自分で食べるからな?」


「ええーっ! この際ですから全部口移しにしましょうよー!」


「ダメだ。ほらほら、俺は学校行く準備するから、出ていってくれ」


 私は部屋を追い出されてしまった。


 少し危なかったけど、充分満足しました。私も学校に行く準備しなくちゃ。


 私は兄さんと過ごすバレンタインデーを想像しながら学校に向かった。

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