第137話 新年
1月1日の朝──雪奈さんをリビングに招いて、残り物のオードブルを朝御飯として食べていた。
「雪奈さん、聞きたいことがあるんですが」
「わかってるわ。縁結びのことでしょ?」
「ええ、俺達は何で今もこの気持ちを持ったままなんですか?」
「……それは当たり前の事だからよ」
「当たり前?」
「だって、私達は縁結びによって生じたものが元に戻ると言ったのよ? 元に戻るのは右手小指の痣と、イベントが起こりやすい体質だけよ。すでに確定された気持ちが無くなるわけないでしょ?」
あ、言われてみると……そうだった。隣に座る夏凛も失態が恥ずかしくて俯いている。
「なのに、あなた達は……やっちゃったのね」
「──ッ!?」
思わず態度に出てしまった。そう、俺達はやってしまったのだ。お互いに準備もしてなかったから、勿論ダイレクトに。
「あなた達は今日、外にでない方がいいわね」
「何か不都合でも?」
「これで自分を見てみなさいな」
雪奈さんは俺達に手鏡を渡してきた。それで自らを確認すると、首筋に蚊に刺されたような赤い斑点が大量に出来ていた。
所謂、キスマークというやつだ。
「兄さん……私達、こんなに……」
「ああ、夢中で気付かなかった……」
雪奈さんは風呂敷を解いて重箱を取り出した。
「夕食はこれを食べなさい。それと夏凛ちゃん、ちょっと」
夏凛は雪奈さんの方へ歩いていくと、俺に聞こえないように耳打ちを始めた。
「はい……そうです。……危険日です……ええ」
雪奈さんは口に出すなと夏凛を一睨みしたあと、何かを手渡した。
「こっちはすぐに飲みなさい。あなた達はまだ未成年で、保護者から学費を受け取っているでしょ? せめて責任が取れるようになってから、ね?」
「あ、ありがとうございます!」
頭を殴られたような衝撃を受けた。雪奈さんの言うことは正しく、責任能力もないのに衝動に身を任せてしまった……。
「それと、こっちはマルーラと言って……未来でどうしても子供が欲しくなった時に服用しなさい」
「どういう効果があるんですか?」
「遺伝リスクを一般レベルまで軽減することができるわ」
「そんな事、できるんですか!?」
「ええ、だって……私もそれを使ったから」
……え? どういう意味だ? 雪奈さんも使ったって……え!?
俺も夏凛も思考が混乱して、どう反応したらいいかわからなくなった。
「前に、何で白里先生と私と夫が同じ指輪をしてるのか聞いたよね? 実は私、法的には夫と結婚できない立場にいるの」
「ちょっと待って下さい。結婚できない立場にいながらその薬を使うってことは──」
「ええ、拓真は私の実の兄よ。そして白里先生は私の義理の妹、私達は3人で事実婚をしているの」
ってことはだ。女子人気ランキング2位であり、生徒会長である園田 雪那さんは拓真さんと雪奈さんの実の娘ってわけか。
「夏凛ちゃん、あなたは大学に行くつもりはあるの?」
「はい、兄さんを養わないといけませんから!」
「いやいやそれは──」
雪奈さんは俺の抗議を制して言った。
「じゃあ早く飲みなさい。出来てしまうわよ」
「あ、そうでした……」
夏凛は急いで水を汲んだあと、雪奈さんから貰った薬を飲んだ。
「夏凛、間違えてマルーラを飲んでないよな?」
「あ! ……大丈夫です」
脅かすなよ、と胸を撫で下ろした。
その後、雪奈さんから色々と話しを聞いた。兄妹で生きることの難しさ、たとえ追い風であっても昔ながらの考え方をする人はどこにでもいるわけで、そう言った人から非難の声を受けても耐えないといけない。
そう言った心構えを教えてもらった。
特に夏凛に関しては、周囲が結婚報告をするなかで自分1人それが出来ないことの辛さを説かれていた。
その結果、浮気に走ることもあるから、俺は夏凛のメンタル面をしっかりと支えていかないといけない。
今日は雪奈さんが来てくれて助かった。女性の立場から考えた苦悩、経験者故に感じた壁、それに対する心構えを聞いていなければ、きっと別れる確率がぐーんと高くなっていたと思う。
縁結びグッズに関していつも邪険にしていたけど、今度からは少しだけ協力していきたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。