第109話 白月神社
白月神社のバイトの話しを聞くために、保健室に入ると白里先生がいた。
「黒谷兄妹と城ヶ崎さん、話しを聞きに来てくれたんだね? 嬉しいよ~」
「いえ、まだ聞きに来ただけですので」
「黒谷君、今回は試供品とか無いから安心して良いんだよ?」
「それなら良いんですけど……てか、何で依頼主が白里先生なんですか?」
「言ってなかったかな? 私、一応あの神社の巫女さんなんだよね~」
夏凛は巫女という言葉に反応して、興味津々と言った表情になっていた。
「巫女! 巫女って、正月に御守りを買う時とかに見るあの!?」
「黒谷さん、巫女に興味あるの? うーん、バイト内容には無いんだけどね、最終日なら試着しても良いよ」
「兄さん! やりましょう! 1度あれを着てみたかったんです!」
ああ、この子もうやる気満々じゃん。こうなった夏凛は止められそうにないな。
恵さんに視線を向けると、肩を
「そうですね、夏凛もこう言ってますし……バイト、やらせて下さい」
「はい、わかりました。みんな、ありがとねー」
白里先生は嬉しそうにVサインをしている。きっと募集中なのに誰も来ないから、少し不安だったのかもしれない。
にしても、夏凛が巫女服にそこまで興味があるとは思わなかったな。脳内で想像しても絶対に似合ってると思う。
そんなこんなで、バイトをすることになった俺達は翌日の放課後から早速始めることになった。
☆☆☆
普段通らない道を歩き、学校の裏にある小さな山を登った。道中には真新しい石段があり、運動部ではない俺は息を切らしながら頂上に辿り着いた。
「黒斗、神社に着いたけど……大丈夫?」
「……はぁ、はぁ……大……丈夫……」
「恵先輩、私が兄さんについてますから先に社務所に行ってて下さい」
もう冬にも関わらず、汗だくの顔を夏凛がそっとハンカチで拭いてくれた。
「うっわ、夏凛ズルい! でもまぁ、それが良いかもね。んじゃ、白里先生のところに挨拶行ってくるわね」
恵さんが枯れ葉を巻き上げながら社務所へと駆けていった。
息を整えながら周囲を見渡すと、清掃募集をしているだけあって、大量の落ち葉とゴミが散乱していた。
「建物は割りと新しいですね。あまり使われてないから痛んでないのでしょうか」
「でも歩く道は比較的、落ち葉が少ないからここに住んでるんじゃないか? どっちが副業なのか知らないけど、教師やりながら掃除まで手が回らないだろ」
「そうですね……というより、教師って副業ありなんですか?」
「ダメって聞いたことあるな。事実上、ここは機能してないみたいだし、ただ所有してるだけなのかもな」
息が整った俺が立ち上がろうとすると、夏凛が俺の手をそっと握ってきた。
「夏凛、これは──」
抗議の声をあげようとする俺の唇に、人差し指をピタリと添えられた。
「黒斗君、他の人が来たら離しますから、もう少しこのままでお願いします」
小悪魔気味に、夏凛はペロッと舌を出して微笑んだ。名前呼びされると未だに背筋がゾワッとするけど、握られた手を含めて最初ほど緊張する事もなかった。
きっと、これが夏凛の言う"慣れる"ということなのかもな。
「黒谷くーん!」
遠くから白里先生の声が聞こえてきた。それと同時に夏凛がそっと俺の傍を離れた。
声の方向を見ると、レディースのリクルートスーツに身を包んだ白里先生が、竹箒を3本ほど持って走ってきた。
いつもはブラウスにミニスカート、そして白衣を上から羽織ってるから凄く新鮮だ。
「初日早々、申し訳ないんだけど……先生、これから学校にとんぼ返りしないといけないから、後はお願いできる?」
「構いませんけど……掃除するのはこの辺りで良いんすか?」
「うん、
「じゃあ!」そう言って白里先生は石段を下りていった。入れ替わりに、恵さんが塵取りとゴミ袋を手に持って来た。
俺達に合流した恵さんは、少し顔を膨らませて言った。
「あたしが荷物持ちすることになったじゃん」
「ごめんごめん、早速始めようか」
「帰りにジュース1本奢ってもらうからね!」
ということで、掃除を始めたんだが。思ったより掃除の範囲が広く、量も期間1週間に相応しい量だった。
気の短い恵さんは早くも文句を言い始めた。
「うー、掃いても掃いても全然減らないじゃん」
「この量を早く終わらせるには休みを取って1日中やる必要があるんだろうけど、それをやると"学生としての本分が"とか言われるだろうな」
そして2時間後、戻ってきた白里先生に解散を言い渡されて俺達は帰宅の途についた。
空は暗く街灯が道を照らす中、3人でホットココアを片手に歩いていた。
「ぷはぁー! 仕事終わりの一杯は格別だね!」
「なんか仕事帰りのおっさんみたいな台詞だな」
「おっさん言うなし! こう見えても、傷付きやすい女の子なんだゾ」
ガバッと恵さんが腕を組んできた。それを見た夏凛は反対側からぶつかるようにして腕を組んだ。
「はぁ、黒斗暖かい」
「兄さん、家に着くまで頑張って下さい」
「……お、おう」
正直言うと、肘に柔らかいモノを押し付けられて、歩き辛いのを遥かに上回る役得だったのは言うまでもない話しだった。
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