第86話 自慢大会

 目の前にはよく見かける料理が並んでいた。


 肉じゃが、玉子焼き、味噌汁、そしてサラダ。なんだろう、この異世界は……。


 まさにTHE家庭料理というやつか。てか、よくこれだけの物を作る材料が冷蔵庫にあったな。


 俺は男料理しか作れない、夏凛はカレーとかなら作れるけどこれ程の数は作らない。


 恵さんは「さあ、どうぞ!」といった感じにこちらをジーッと見て感想を待ち望んでいる。


 まずは肉じゃがのジャガの部分を口に入れる。ホクホクで甘くて美味しい!

 冷食とかコンビニ弁当に飽々していた俺にはクリティカルな料理だった。


 玉子焼きは薄めに塩味が効いてて俺の好みだ。多分だけど、肉じゃがの甘さへの対比としてチョイスしたんだろう。


 ──実によく考えられていた。


 隣で食べる夏凛もよくテレビで観るような食レポみたいな感じに「ん~~~!」と言ってる。


「どう? 人参とか無かったから入れられなかったけど、それでもそこそこ良い感じに出来た自信はあるんだ」


「めっちゃ美味いよ。俺達、家庭内別居みたいな感じだったからさ、個人用の料理はなんとか作れるんだけど、家族みんなで食べるようなのは最近始めたからどうにも上手くいかなくてな。所謂いわゆる、お袋の味ってやつか……うん、本当に美味いな」


「お、お袋って! な、なんか複雑だけど素直に嬉しいよ」


 恵さんを称賛していると夏凛がむくれ始めた。


「む~~~、私のカレーは美味しくなかったんですね!」


「いや、そう言うわけじゃなくてだな」


「私の料理が不満なら、もう作ってあげませんよ」


「夏凛、機嫌直してくれよ。夏凛の作ってくれたカレーだって充分に美味しかったからさぁ」


「……つーん」


 夏凛は不機嫌になって黙々と食べ始めた。その様子を見ていた恵さんが微笑んだ。


「あんた達って、本当に相性良いんだね。あたしは一人っ子だから羨ましいよ」


「そうですよね……私と兄さんの相性はとーっても良いですから、羨ましくもなりますよね」


 夏凛、何故そこで急に機嫌直す。拗ねてた時はイスを離してたのに、今度は密着するように引っ付けてきた。


 当然ながら対面の恵さんにはバッチリ見えてるわけで、夏凛ではなく俺にジト目を向けてきた。


「ちょっと距離近すぎじゃない? まるで5禁ドラマみたいよ」


「いや、気のせいだ。そんなことは断じてない」


「でもさ、あたしが聞いてた話しだと、ちょっと触れただけで照れて動けなくなるって聞いてたんだけど……」


 そうか、最後に恵さんに夏凛との話をしたのはかなり前だったな。言われてみると、今の夏凛はあの頃に比べてかなり懐いてる気がする。


 夏凛は兄に慣れて本当の恋を見つける、そんな風に前向きな考えをしてくれてるから5禁なんかにはならないはずだ。──多分。


「恵先輩、それは慣れたってことですよ。兄妹としての距離感を確立した証です!」


 今度は腕を組んで肩に頭を乗せてきた。これ、本当に兄妹の距離感なんだろうか? 段々とわからなくなってきた。


「……はぁ、わかったわかった。他より少し距離の近い兄妹ってわけね。キスしてるわけでもないし、なんとなく納得できるわ」


 ──ギクッ!


 恵さんの接吻キスという言葉に反応してしまった。


「何? どうかしたの?」


「い、いや! なんでもないって!」


「そう? ならいいけど。ご馳走さまでした! あっ、お風呂どうするの?」


「さっきシャワー浴びたよね?」


「ザッとお湯で流しただけだし、シャンプーとか使ってないからできれば入りたいんだけど……」


「そうだったのか、それなら存分に入ってくれ。ごく普通の浴槽だけどな」


「充分よ」そう言って恵さんが食器を片付け始めると、夏凛もそれに追従して片付け始めた。


「じゃあ俺も手伝おうか」


 手伝おうとキッチンに足を踏み入れたら、夏凛が申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい兄さん。私、恵先輩と仲良くしたいから2人っきりで洗いたいのです。ほら、よくドラマで女子が並んで食器を洗うシーンありますよね? ちょっと憧れてたんです……ダメ、ですか?」


 その言葉に俺と恵さんは目を丸くして驚いた。微妙に反りの合わない2人だったのに、夏凛から寄り添おうなんて珍しいこともあるもんだ。


「じゃあ、俺は風呂を沸かしてくるよ」


「はい、お願いします」


 風呂を沸かして再びリビングに戻ると、夏凛と恵さんはまだ食器を洗っていたようだったので、自室に戻ってゲームを始めた。


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