第51話 夢枕・試作品
夏凛から唐突にRINEメッセが送られてきた。
"かりんとう・拓真さんがお土産のお礼をしたいので放課後、保健室に来てほしいと白里先生から言付けを受けてます。来れそうですか?"
不確定な要素で断るわけにもいかないので"行く"と返信して溜め息を吐く。
「黒谷、次移動教室だね。一緒に行こ!」
「あ、ああ……ちょっと待っててくれ」
「うーん、なんか浮かない顔してるね。なんかあったの?」
「実はな──」
憂鬱な気分を晴らすため、ある程度事情を知っている恵さんには話すことにした。
彼女はシチュエーションゲームの経験者、話すことで楽になりたかったのだ。
早速、恵さんに事情を話してみた。
「ふーん、警戒し過ぎな気もするけど……」
「とは言え行かないのも失礼になりそうだしな」
恵さんは顎に指を当てて少し考え込む。そして何かを思い付いたような表情を浮かべた。
「じゃあさ! あたしも行って良いかな?」
「は!? 何でだよ、前回で結構懲りたろ?」
俺の言葉に恵さんは茶髪を指で弄りながら答える。
「そんなには……ね? だって"縁結びの紐"と"シチュエーションゲーム"、この2つって結局のところ誰かと誰かが仲良くなる手伝いをする道具だよね」
「うーん、まぁそうなんだけど……」
「非日常、全然良いじゃん!!」
「恵さんの分は無いと思うんだが、良いのか?」
「うん、見てるだけで良いから!」
「……はぁ。わかったよ、ここまで話してて仲間外れってのもアレだしな」
結局、おねだりする恵さんに折れる形で承諾してしまった。夏凛に恵さんも来ることをRINEメッセで送ると、少しして「……わかりました」と明らかに少し不満のある文章で承諾してもらった。
☆☆☆
保健室に入ると白衣姿の白里先生が待っていた。
「あれ? 城ヶ崎さんが何故ここへ?」
「いや、そのお礼とやらがどんなものか是非見たいと言うから連れて来ました。何があってもおかしくないから保険の意味も込めてもありますが」
「あははは……うん、気持ちはわかるよ」
白里先生は頬をポリポリ掻きながら少し困った表情をしている。
テーブルに夏凛、俺、恵さんが座ると白里先生はお札がいっぱい貼られた大きな箱を持ってきた。
「よし、みんな! 帰るぞ!」
「ちょっと待って! 見た目こんなだけど害は無いから!」
「いやいやいや、これ……呪い系にしか見えないんですよ。大事な妹と友達に何かあったら……俺っ!」
俺の言葉に恵さんは立ち上がる。
──ガタッ!
「黒谷何気にあたしまで混ぜてない? あたし見学って言ったじゃん! ムリムリムリ、これ怖いし!」
オロオロする夏凛を挟んで使用権を互いに譲り合っている。
そんなやり取りが続くなか、白里先生は先に夏凛へお礼を渡し始めた。
「もう~、先に夏凛ちゃんに渡すからね!」
そう言って箱のふたを開けて取り出したのは、ビトリで売られているような"枕"だった……。
「え……これ、枕?」
「そうだよ、ちょっとうちの神社が祝福を施してるけどね」
「……拓真さんも"祝福"って言ってましたね。もしかして、あなた達はその祝福が施された呪いの道具を渡されてるんですか?」
「えー、呪いじゃないよぉ! 」
手渡された夏凛は何か仕掛けが無いか、隅々までチェックしている。
「兄さん、特に変なところはありませんけど……」
「まだわからないぞ。先生、祝福ってどんなのですか?」
「うーん、普通に良い夢が見れる祝福だよ。前回の失敗を踏まえて、祝福もかなり浅目にしてあるし」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「あ、でも最近観た映画とかドラマが影響されやすいから覚えといてね」
最近観たドラマや映画? うーん、超普通なやつばかりだよな……こんなことなら恋愛モノでも観とけば良かったか。
「じゃあこれを使って今日は寝たら良いんですか?」
「言ってなかったけどここからの持ち出しは禁止されてるの、ごめんね。もし持ち帰って不測の事態が起きたらフォローしきれないから……」
ん? 不測の事態が起きるかもしれないやつってことなのかっ!
俺の心配を他所に、恵さんはそのまま離れたところに座ろうとする。が、白里先生に枕を渡されて抗議し始めた。
「ちょ、なんであたしまで!?」
「私はみんなが起きるまで見張ってなくちゃいけないし、一応スペアで余ってるから──ね?」
「いやいや、一応お礼ですよね? あたしお土産とか買ってないし!」
「私は仲間外れを許さない先生なんです! ベッドも3人分空いてるし、黒谷君達も足踏みしてないで入ってね♪」
……俺達は諦めて"夢枕"を使って寝ることにする。幸いなのは、個人が見た夢は個人だけで共有されることくらいか。
他の2人がどんな夢を見るかは知らないが、悪夢ではないことを祈っておこう。
ベッドに入り、仕切りシャッと閉められて自分だけの空間が出来上がる。シーンと音が消えた保健室で不意に夏凛が話しかけてきた。
「兄さん、起きてますか?」
「起きてるよ」
「私、友達からドラマを借りてまして……もしそれが反映されたらちょっと、困るといいますか」
「夏凛の夢は夏凛のモノだろ?」
「いえ、先に兄さんが起きて、私の寝言とか聞かれたら──恥ずかしいじゃないですか」
「安心しろ、先に起きたら廊下で待ってるからさ」
「うう、ホントに助かります」
そして保健室は再び静寂に包み込まれた。
意識も徐々に薄れていく。
朦朧とする意識の中、最後に白里先生が隙間から様子を見に来た辺りで完全にブラックアウトした。
「あれ? 黒谷君、小指が光ってる。……てっ! お兄ちゃんもしかして、縁結びを彼にあげてたの!?」
──シャッ!
仕切りを開けて左右の女生徒を確認すると、黒谷夏凛の小指が光っていた。
「夏凛ちゃんがクラスのみんなとよく話すようになったのは、黒谷君が原因だったんだね。悪い方向には向かってないみたいだから良いけど。後でお兄ちゃんを問い質さなきゃ!」
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