第46話 妹と家族風呂

 夜の食事はとても豪華だった。脂の乗った鯛の刺身、唐揚げの盛り合わせ、そしてお肉がたくさん入った鍋──。


 源蔵はビールを浴びるように飲んですぐに寝てしまった。酔った勢いで色々根掘り葉掘り聞かれたが上手くシャープペンシルを渡す相手の事は気付かれていない。


 何せ源蔵は体育祭の日に、城ヶ崎親子とお昼を共にした事がある。故にあれ以上突っ込まれた場合、ボロが出るかもしれなかったんだ。


 食事は片付けられ、源蔵の部屋まで酔っぱらいを連れて行ったあと、夏凛が俺の浴衣の裾をツンツンと引っ張った。


「兄さん、お風呂どうします?」


「外に行っても良いけど、今行くのは面倒だしな……」


「私達の部屋って露天風呂付きでしたよね?」


 え、何で上目遣いでそんな事を聞いてくるの? あ~、自分そっち入るから他所に行ってくれって意味か。


「悪い気が利かなくて、準備できたらすぐに出ていくから──」


「じゃなくて、一緒にどうですか?」


 ……俺、つのだろうか。瑞々しく半開きな唇とか、浴衣の胸元から僅かに見える縦線とか、割りと最近兄としての理性が揺らぎそうになる。


 ──マジで持つのか?


「ダメ……ですか?」


「俺、男なんだけど……」


「あ、それは大丈夫です。実は──」



 かぽーん!


 俺は今、実妹と露天風呂に来ています。兄としてイカれてると思われるかもしれないけど、ホンの少しだけ劣情に素直になりかけました。


 いや、それでもこれで良かったと思えるだけまだ大丈夫か。今後はきちんとこういうことをダメと言えないといけないな、うん。


「この水着どうですか?」


 受付で水着を借りてきた夏凛が遅れて到着した。ブラの部分に肩紐がなく、背中から胸にかけて布で巻かれたタイプで、結び目が谷間にあるのが特徴的な水着だ。


 色は白、夏凛の真っ白な肌にマッチしていて清純さが全面に押し出されていると思う。


「あの……兄さん?」


「あ、いや──めっちゃ似合ってる。てかそれ、風呂にも着けて来るんだな」


 夏凛を可愛く見せるもう1つのアイテムがあった。それは、俺がプレゼントしたあのハート型のペンダントだ。


「似合ってるって言ってくれましたので、着けてきたんです」


「贈った甲斐があったな。だけど兄からでごめんな、もし──好きな人が出来たら捨てて良いから」


 なんだろ、自分で言ってて物凄く胸が痛い。でも、これが正しい選択なんだ。俺だっていずれは……。


 そこまで言ってとある人物の面影が脳裏によぎりかけた時、夏凛が俺の手を両手で包み込んできた。


「ううん、捨てません……絶対に。それに私、何故か"普通の男性"にあまり興味が持てないのです。だからまだまだ一緒に居られますよ。あ! ほらほら、空がとても綺麗ですよ!」


 そう言って夏凛は俺の手を引き露天風呂に誘ってくる。夏凛の言い方に少しだけ引っ掛かるものがあったけど、水着に指をかけて直す際に見えたぷりっぷりなお尻によってそれは吹き飛んでしまった。


「肩を貸して下さい」


「え、ちょっ!」


 2人で露天風呂に浸かると、夏凛は俺の肩に頭を乗せてきた。ちなみにこの位置で不用意に夏凛の方は見れない、何故なら2つの大きな丘を斜め上から覗き込む形になるからだ。


 なので上を見る、満天の星空に目を奪われる。色欲に迷いつつあった目を醒めさせてくれる、とても綺麗な星空。


「あれ? 小指が光ってます」


「……」


 マズイ、こんな荘厳で綺麗な雰囲気な中でもエロイベントには関係ないらしい。さて、何が起きることやら……。


「きゃあっ!」


 ぼろん!


 視界の端で重力から解放された丸い物が見えてしまった。勿論、視界の端なので先端までは見えていない。


「もぅ、きちんと縛ったのに水着がほどけちゃいました……。あの~、そのまま上を向いてて下さいね!」


「も、もちろん上を向いてるさ。うえーをむーーいーて──」


 気まずい空気を変えるために名曲を口ずさむ。


「ふふ、兄さんって面白いです。んーしょ、上手く結べません。何ででしょうか……」


 夏凛は必死に結ぼうと頑張っている。そして何故か俺の方に向き直って言った。


「あの、手で押さえるので結んでくれませんか?」


「おおおおおおお、俺が!?」


「兄妹だから良いじゃないですか」


「俺が気にし過ぎてるってことか、わ、わかった!」


 水着越しだが、いわゆる"手ブラ"というやつに正面から向き合う。谷間にある紐を手に取ったとき、少しだけ胸に触れて焦ってしまう。


「兄さん……早く……んン……」


 震える手の影響で夏凛の口から甘い吐息が漏れてしまう。落ち着け、俺! 平常心平常心──。


 よし! こうして……うん、できた。


「助かりました、ありがとうございます!」


「そ、それは良かったな。はは、ははははは……」


「兄さん、私のおっぱいをガン見してましたね? エッチなお兄さんとは思いませんでした……」


「そ、それは仕方無いだろ」


 夏凛は照れた顔で少しむくれている。そしてすぐに笑顔に戻る。


「ふふ、冗談ですよ。さて、そろそろ上がりましょうか。私、なんか顔が火照っちゃって……なんでだろ……」


 言われてみると確かに顔が赤い。そんなに時間経ってないのに、体質的に長湯できないのかもしれない。


「そうだな、上がったら俺達用に買ったお菓子でも食べるか」


「あ、じゃあ、私良い物を買ったんですよ──」


 夏凛に手を引かれ、脱衣場のところで別れる。


「おい、縁結びさんよ……少しは空気を読みやがれっての……」


 その後、右手小指に愚痴りながら着替え、夏凛と共に自室へ戻った。

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