第40話 夏凛と海へ 1

 夏休みも残り2週間……この頃になると毎年物悲しくなって、1日を悔いの無いように過ごしたいと考えるようになる。


 去年まではたまに話す程度のクラスメイト(男)の家に行ったりして、それで満足していた。


 まぁ、その時に余所様の妹事情を知ったのだが、夏凛との違いに驚きすぎて、カルチャーショックに近いものを感じてしまったんだ。だって余所の妹は兄を殴ったり罵倒したりするんだぜ?


 それに比べて、うちの夏凛は優しくて包容力があって、おまけに美少女ときた。

 こんな彼女がいたら、俺はもう死んでも良いとさえ思うことだろう。


 だが、現実は妹だ! そう、目の前に水色の水着を着たボンキュボンな女性が恥じらいながらこちらを見上げていても、兄である以上は反応してはいけないのだ。


「あぅ~、兄さんあまり見ないで下さい! まさか去年の水着がここまで小さいなんて想定外でした」


「…………」


 前回も今回もシンプルなビキニタイプの水着……前回は白で今回は水色、違う点と言えばサイズの差だろうか。下は特に違和感を感じないが、胸は結構溢れそうになっている。


 そして油断してると……。


「ねぇねぇ、彼女! 俺達と向こうで遊ばない? 良いこといっぱい教えてあげるからさ!」


 こんな風に、俺が隣にいるにも関わらず強引にナンパを仕掛けてくる始末。普通なら俺が格好よく助けるはずなんだが、夏凛がとある方法で解決してしまうのだ。


 その方法というのが──。


「結構です! 私、この方と交際していますので間に合ってます!」


 この場限りの大嘘とはいえ、満面の笑みでそう言われると兄である俺でさえも少しドキッとしてしまう。


「嘘だろ? どうせ弟か兄だろ?」


 はい、鼻ピアスのお兄さん、あなたの仰る通りです。などと言うわけにもいかず、夏凛にされるがままになるしかないのだ。


「そんなこと無いですよ~! ほら、私達かなり仲良しなんですから……」


 そう言って夏凛は俺の右腕に抱き着いた。大きな胸が形を崩して俺の腕を包み込む。さすがにそれを見せられては彼らも引き下がるしない。


「……チッ、アンタ見る目ねえな」


 そう言ってチャラ男達は諦めてどこかへ行った。また新たなナンパにでも行くのだろう、それを確認した夏凛は腕を放して俺から距離をとった。


「あははは……、今更ですがちょっと恥ずかしいですね……」


「夏凛、俺が守るから女の子がああ言うことしちゃダメだよ。兄である俺だったから良かったものの、普通の男友達だったら──勘違いしちまうだろ?」


「ま、守る!? はわわわわ、守るって……そんな……」


 何故か夏凛は両手を顔に当てて壊れ始めた。その後も声を何度か掛けたが、俺の声は届かなかった。

 そうこうしているうちに新たなチャラ男が近付いて来そうだったので、俺は夏凛の手を引いてその場を離れた。


 夏凛の超スペック&サイズ小さめのビキニ、それがチャラ男ホイホイとなってる。だから俺は夏凛と人目の無い岩場の方で遊ぶことにした。


「ここなら安心して遊べるな。おーい、夏凛?」


「え? あ、兄さん……私また変になっちゃって、ごめんなさい」


「いや、気にしなくていい。今日はここで遊ぼう、開けた砂浜じゃなくて悪いが、少なくともあの手の連中は来ないだろ」


「いえ、ここ良いじゃないですか! 洞窟みたいな岩場、それにここにも砂浜がありますし、間違いなく穴場ですよ!」


「そっか、そう言ってくれるなら助かるよ。ちょっと遠いけど、飲み物でも買ってくるよ」


「はい、じゃあ私は簡単に椅子とかパラソルを立てときますね!」


 俺は人が大勢いる砂浜に戻って適当に屋台でジュースを買った。そして夏凛のいる穴場スポットに戻ると、夏凛は砂浜にマットを敷いて俺に何かの容器を渡してきた。


「えへへ、ほとんど日陰ですけど、1度こういうのやってみたかったんですよ。じゃあ兄さん──」


 ──「お願いできますか?」


 渡された容器、マットに寝そべる夏凛……俺は喉をゴクリと鳴らして夏凛の横に立った。

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