第24話 地べたで寝る兄、ベッドで寝る妹

 俺と夏凛は他愛もない会話を続けては途切れ、それを何度も繰り返していた。

 実の兄妹だというのに、お互いのことをまだまだわかっていないからだ。


 いや、俺が単に緊張してるのもあるな。夏凛が何度か俺の部屋に来たことはあるが、大概は5分以内で1階に降りてしまう。


 こんな風に一緒に過ごすことは初めてだ、しかも2人きりだし……。


 夏凛はテレビを観ながらたまに微笑んだりしてる。


「兄さん? 私の顔に何か付いてますか?」


 横顔を眺めていたことに気付いたのか、夏凛は小首をかしげて疑問符を浮かべている。


「な、なんでもないよ! あ、そうだ! 今日の夕御飯どうする?」


 何故かドキマギしてしまった俺は時間を見て答えた。もう7時を過ぎている、時間に救われた感があるな。


「あ、もうこんな時間だ……う~ん、ファミレスに行くのも億劫ですし、ピザでも頼みませんか?」


「お、いいねぇ! チラシがあったからさ、持ってくるよ」


 いつもはそのまま捨てられるチラシを漁ること5分、ようやく見つけた俺は夏凛の元へ戻り、ローテーブルの上にチラシを広げた。


「今CMに出てたんですが、エビ盛り沢山ピッツァなんてどうですか?」


「う、なんか太りそうだな」


「むぅ~それ言わないで下さいよ~! 私気にしてるんですから!」


 その言葉に俺はとても驚く、どう見ても標準もしくは痩せてる部類だからだ。


「夏凛は別に太ってないように見えるんだが……」


「だってこれ見てください、去年の夏用に買ったこのタンクトップ、少し苦しいんですもんっ!」


 夏凛はタンクトップの裾を腰まで引っ張るが、手を離すとヘソが見えるくらいまで上がっている。それを繰り返す度に"ばいん"という擬音が脳内で再生されてしまうのだ。


 うん、それは胸が大きくなったということだよ。


 兄である以上そんな事を言うわけにもいかず、とりあえず目に毒なので止めてもらうことにした。


「夏凛、悪かった。もう言わないから」


「わかってくれましたか? えへへ……私も、はしたなかったですね」


 夏凛がテヘペロをしている。普通のやつがすると怒りそうになるが、彼女なら……うん、ちょっと可愛いかも。


 ☆☆☆


 ピザ屋さんに電話してコーラ2本とMサイズの"エビ盛り沢山ピッツァ"を頼んだ。


 10分後──チャイムが鳴り、配達の人からピザを受け取ってお金を払い、俺はローテーブルの上にそれを広げた。

 夏凛は待ちきれないのか目を輝かせてすぐに1切れ口に入れた。


「う~ん、美味しい!」


「ああ、エビのプリプリ食感が堪らないな!」


 互いに感想を述べながらちょっと豪華な夕食は終わった。


 その後、テレビを観たりスマホの動画を紹介しあったりしていく内に11時になった。


「俺地面に布団敷くから夏凛はベッドで寝てくれ」


「えぇ、一緒に寝ないんですか?」


「さすがにマズイだろ……男と女だし」


「男と女の前に──"兄妹"じゃないですか。それにせっかくお泊まり会みたいな感じなのに、一緒に寝ないのはおかしいです!」


「……ね? いいでしょ?」と上目遣いで俺の手を引く夏凛。


「じゃ、じゃあ俺は外側向くから、それが条件だ。それで良いなら一緒に寝てもいい」


 最後の妥協点を提示した俺に「わかりました!」と元気よく返事をされ、俺は一緒のベッドに入ることになった。


 ☆☆☆


 先に寝たのは夏凛だった。


 後ろからすぅすぅと寝息が聞こえてくる。しかも俺とは違う女子の匂いも漂ってきている。少しだけ落ち着かないが、俺も疲れてるのでウトウトし始めていた。


 何も起きそうにないな、よし……寝るか……。


 俺は安心して意識を落とした。




 ──ムニュムニュ


「────にぃさぁ……ン……」


 俺の顔はふかふかな何かに包まれ、夏凛の声が僅かに頭上から聞こえてくる。

 意識が朦朧してる中、なんとか顔を動かしてみることにした。


 ──ムニュムニュ、ムギュ!


 ああ、柔らかい。ずっとこれを感じていたい……。


「あ……あぁっ!……ン♡……」


 ん? これ、もしかして……。


 意識が覚醒し始めた俺は状況を理解してサァーっと血の気が引く感覚に陥った。


 タンクトップは捲れ上がり、大きな双丘が直に顔を覆っている。しかもガッチリと頭をホールドされているので抜け出すにはそこそこ力が必要だ。


 無理に引き剥がせば起きてしまう。そうなったらせっかく築いた兄妹関係も水の泡だ。


「なんでブラ着けてないんだよ……もしかして、前にテレビで見た"着けない派"なのか?」


 妹とは言え、男たる俺は立派なソレに対して気持ちが昂る。兄としての理性を総動員して事に当たらなければいけない。


 俺はゆっくりと時間をかけて引き抜いていく。


「えへへ、私達……兄妹……むにゃむにゃ」


 その後、30分かけて離脱することに成功した。途中何回か喘ぎ声みたいなのが聞こえたが、聞かなかった事にすれば問題ないだろう。


「夏凛、ごめんな。やっぱり地面で寝るよ」


 俺は夏凛に毛布をかけ直して自分の寝る準備を始めた。


 "夏凛は妹"


 兄としてこの言葉をしっかりと刻み、俺は眠ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る